刑事司法改革 この一歩をさらに前に

朝日新聞 2016年05月23日

刑事司法改革 この一歩をさらに前に

犯罪捜査や裁判のあり方を大きく変える刑事司法改革法案が成立する運びとなった。

どの角度から光をあてるかによって評価は割れる。ここは、多くの問題や懸念をはらみつつも、将来にむけて一歩を踏みだした改革と受けとめたい。

内容は多岐にわたる。

取り調べの全過程の録音録画を義務づける。ただし裁判員裁判で審理される事件などに限る▽他人の犯罪摘発に協力した見返りに、求刑などを軽くする司法取引を一部導入する▽通信傍受を認める対象犯罪を増やす▽検察官は手持ち証拠の一覧をつくり、弁護側に示す▽国費で弁護士をつけられる範囲を、すべての勾留事件に広げる――。

法改正のきっかけは、検事が証拠品を改ざんした郵便不正事件や、強引な取り調べがうんだ数々の冤罪(えんざい)への反省だった。供述に過度に頼らなくても証拠を集められる手段として、司法取引などがメニューに入った。

捜査当局が焼け太りした感は否めない。一方で録音録画の法制化や証拠開示ルールの整備など、人権保障の観点から一定の収穫があったのはたしかだ。

郵便不正事件の被害者である村木厚子さんや日本弁護士連合会が、苦渋の決断で法案を支持した理由もそこにある。

大切なのは、歩みをここで止めず、さらに進めることだ。

例えば録音録画について、国会は、義務づけられていないケースでも極力実施するよう付帯決議で注文をつけた。国民の代表の声だ。当局は真摯(しんし)に受けとめ、実践する必要がある。

たとえ新しい武器を手にしても、人びとの理解と信頼がなければ捜査は立ちゆかない。

検察は郵便不正事件をうけ、「独善に陥ることなく、真に国民の利益にかなうものとなっているかを常に内省しつつ行動する」と宣言した。この原点に立ち返って、警察をチェックするとともに、みずから捜査・公判にのぞんでほしい。

裁判所の役割も重い。

録音録画が残されていない取り調べについては、供述の任意性や信用性をより厳しい目で審査することが求められる。司法取引によって万が一にも無実の人を巻きこんでいないか、通信傍受の要件を満たしているか、しっかり監視し、逸脱を許さないのも裁判官の使命だ。

捜査側と弁護側が激しくぶつかり合い、改革が進まなかったのが刑事司法の長い歴史だ。

今回、それが動いた。この火をともし続け、人権の保障と真相の解明という、難しい課題の両立にとり組まねばならない。

読売新聞 2016年05月24日

刑事司法改革 可視化で冤罪防止を徹底せよ

日本の犯罪捜査や刑事裁判が、新たな段階に入ると言えよう。

取り調べの録音・録画(可視化)の義務化を柱とする刑事司法改革関連法案がきょう、衆院で可決、成立する見通しだ。密室での取り調べをガラス張りにして、強引な捜査を抑止する狙いがある。

可視化により、供述が得にくくなるなど、捜査力の低下は否めない。このため、司法取引の導入や通信傍受の拡充も盛り込まれ、証拠収集の方法が多様化される。

無実の元厚生労働省局長が逮捕された事件が、制度改正のきっかけとなった。新制度を適正に運用し、冤罪えんざいの防止と事件の着実な解決を図ることが肝要である。

取り調べの可視化が義務づけられるのは、殺人などの裁判員裁判対象事件と、地検特捜部が手がける検察の独自捜査事件だ。

いずれも、犯行を認めた供述の任意性や信用性が、裁判でしばしば争われる。それだけに、逮捕・勾留中の取り調べの全過程が記録される意義は小さくない。

取り調べの映像は、捜査官による供述の誘導や強要がなかったかどうか、裁判官や裁判員が判断する手がかりになろう。

法改正を視野に、検察・警察は可視化の試行を重ねてきたが、警察ではまだ、録画装置がすべての署に行き渡っていない。3年以内に予定される施行までに、体制整備を確実に進めてもらいたい。

捜査の新たな切り札と言われているのが、司法取引だ。容疑者や被告が共犯者の犯行を明らかにすれば、見返りに、本人の起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりする。2年以内に施行される。

談合や汚職、薬物犯罪などで首謀者に関する供述を引き出す効果が期待される。一方、容疑者が自分の刑を軽くしようとして、虚偽の供述をする懸念は拭えない。

取引の場に弁護人が必ず立ち会うよう、審議の過程で法案が修正された。透明性はある程度確保できるだろうが、弁護人は依頼人である容疑者の利益を最優先するだけに、無関係の人を巻き込むリスクは残るのではないか。

検察が裏付け捜査を通じて、取引に応じた容疑者の供述の真偽を見極めることが欠かせない。

実施件数が限られていた電話などの通信傍受の対象犯罪には、詐欺や窃盗など9罪種が加わる。傍受時に通信事業者の立ち会いを不要にし、使い勝手も良くする。

警察は乱用を厳に慎み、テロや、巧妙化する詐欺など組織犯罪の摘発や予防につなげるべきだ。

産経新聞 2016年05月26日

刑事司法改革 新たな捜査手法の確立を

取り調べの録音・録画(可視化)の義務化や司法取引の導入などを柱とする刑事司法改革関連法が成立した。

冤罪(えんざい)を防止するとともに社会の安全と公正を守るための捜査ツールを拡充させたものだ。新たな制度は使いこなして初めて効力を生む。

新時代の犯罪に対処するため、捜査当局は新たな捜査手法を確立させ、磨きをかけなければならない。また、改革は万全なものではない。世界にはびこるテロなどに対応するため、さらなる法整備を急ぐべきだ。

可視化の義務化は、郵便不正事件で冤罪を生んだ反省がきっかけとなった。

冤罪が許されないのは当然だが、可視化によって供述は得られにくくなることが予想される。司法取引などは捜査力の低下を防ぐために導入された。「焼け太り」といった批判は当たらない。捜査機関の弱体化は望まない。

容疑者や被告が共犯者の犯行を明かせば、本人の起訴免除や減刑することが可能となる。汚職や薬物犯罪といった組織的犯行の摘発に有効とされる。

通信傍受の対象犯罪も広げられた。組織的殺人、薬物、銃器、集団密航に限られた従来の4罪種に複数犯による詐欺、窃盗、放火、爆発物取締罰則の使用罪、児童買春・児童ポルノ禁止法など9罪種が加えられた。

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