日本の犯罪捜査や刑事裁判が、新たな段階に入ると言えよう。
取り調べの録音・録画(可視化)の義務化を柱とする刑事司法改革関連法案がきょう、衆院で可決、成立する見通しだ。密室での取り調べをガラス張りにして、強引な捜査を抑止する狙いがある。
可視化により、供述が得にくくなるなど、捜査力の低下は否めない。このため、司法取引の導入や通信傍受の拡充も盛り込まれ、証拠収集の方法が多様化される。
無実の元厚生労働省局長が逮捕された事件が、制度改正のきっかけとなった。新制度を適正に運用し、冤罪の防止と事件の着実な解決を図ることが肝要である。
取り調べの可視化が義務づけられるのは、殺人などの裁判員裁判対象事件と、地検特捜部が手がける検察の独自捜査事件だ。
いずれも、犯行を認めた供述の任意性や信用性が、裁判でしばしば争われる。それだけに、逮捕・勾留中の取り調べの全過程が記録される意義は小さくない。
取り調べの映像は、捜査官による供述の誘導や強要がなかったかどうか、裁判官や裁判員が判断する手がかりになろう。
法改正を視野に、検察・警察は可視化の試行を重ねてきたが、警察ではまだ、録画装置がすべての署に行き渡っていない。3年以内に予定される施行までに、体制整備を確実に進めてもらいたい。
捜査の新たな切り札と言われているのが、司法取引だ。容疑者や被告が共犯者の犯行を明らかにすれば、見返りに、本人の起訴を見送ったり、求刑を軽くしたりする。2年以内に施行される。
談合や汚職、薬物犯罪などで首謀者に関する供述を引き出す効果が期待される。一方、容疑者が自分の刑を軽くしようとして、虚偽の供述をする懸念は拭えない。
取引の場に弁護人が必ず立ち会うよう、審議の過程で法案が修正された。透明性はある程度確保できるだろうが、弁護人は依頼人である容疑者の利益を最優先するだけに、無関係の人を巻き込むリスクは残るのではないか。
検察が裏付け捜査を通じて、取引に応じた容疑者の供述の真偽を見極めることが欠かせない。
実施件数が限られていた電話などの通信傍受の対象犯罪には、詐欺や窃盗など9罪種が加わる。傍受時に通信事業者の立ち会いを不要にし、使い勝手も良くする。
警察は乱用を厳に慎み、テロや、巧妙化する詐欺など組織犯罪の摘発や予防につなげるべきだ。
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