台湾新総統の演説 TPP加盟へ後押しせよ

朝日新聞 2016年05月21日

台湾新総統 民意に沿う現状維持

中国と台湾の関係は、アジアの平和と安定を考える上で鍵をにぎる問題の一つである。

きのう台湾の新総統に就いた蔡英文(ツァイインウェン)氏(59)が、亜熱帯の陽光のもと、総統府前広場で演説し、対中関係を語った。

蔡氏は、過去を踏まえ、安定的な発展を進めると誓った。つまり、現状維持の宣言である。穏当な姿勢を歓迎したい。

中台関係は複雑であり、慎重な対応を要する。中国は台湾を自国の一部とみなし、祖国統一をめざしている。いわゆる「一つの中国」の原則である。

台湾では二大政党のうち、国民党は「中華人民共和国」ではなく「中華民国」として「一つの中国」を認める。一方、蔡氏ら民進党は「台湾は中国とは別の国家」とし、この原則を認めない。

そこで中国側は「92年コンセンサス」を蔡氏に突きつけた。1992年に中台の交渉当事者間で「一つの中国」を確認したとされるやりとりを指し、その受け入れを求めた。

演説で蔡氏は「92年コンセンサス」という言葉は使わなかった。その代わり、92年に「若干の共同認知と了解に至った。これは歴史の事実」と述べた。

中国側は不満が残るかもしれない。だが、蔡氏は台湾独立をめぐる自党の立場表明も抑えている。最大限の歩み寄りを図ったと評価すべきだろう。

台湾住民の多くは、中国との交流を重視する一方、台湾としての主体性も大事にする。だから、統一か独立かは遠い将来の課題とし、現状維持が最適と考えている。

蔡氏の演説は、そうした民意のバランス感覚を誠実にくみ取ったものといえる。

中台関係の現状維持は、周辺国にとっても安心材料だ。台湾は沖縄や尖閣諸島に近く、スプラトリー(南沙)諸島で最大の自然島を実効支配している。東シナ海と南シナ海の安定に欠かせない存在であり、日本の安全保障に直結する。

蔡氏は演説で、東・南シナ海問題について「争いを棚上げして共同開発を」と、冷静な対応を求めた。その訴えを、中国は真剣に受け止めるべきだろう。現状変更を志向しているのは、海軍力を強化し、岩礁を埋め立てる中国のほうだからだ。

日本と台湾との間では、前政権下で投資協定、租税協定、漁業協定といった成果が積み重ねられた。経済面は補完関係が強く、高齢化、多発する自然災害、原発問題など共通課題も多い。蔡政権のもとで日台協力がさらに進むよう期待したい。

産経新聞 2016年05月21日

台湾新総統の演説 TPP加盟へ後押しせよ

台湾の新総統に就任した民主進歩党(民進党)の蔡英文主席が就任演説で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟を求める方針を表明した。

TPPは法の支配が不十分な中国ではなく、日米などが地域の新たな経済秩序を構築しようとすることに意義がある。

経済の対中依存を強めてきた台湾の参加が実現すれば、経済、軍事両面での中国の覇権主義的な動きを牽制(けんせい)することにもつながるだろう。

地域に開かれた枠組みを強化するため、日本は台湾の合流に向け後押ししていくべきだ。

台湾は自由と民主主義を掲げる隣人である。蔡氏は、こうした理念の下で、地球規模で議論される「価値の同盟」への参加にも意欲を示し、日本や米国の名を挙げて関係強化を訴えた。

岸田文雄外相は、価値の共有を挙げつつ、「日台間の協力と交流の深化」に言及した。

一方、中国は蔡氏を「独立派」とみており、「一つの中国」の原則を中台双方が認め、その解釈をそれぞれに委ねた「92年コンセンサス」を就任演説で認めるよう求めてきた。

蔡氏は、直接言及することは避けつつも、中台関係の現状を「既成の事実と政治的な基礎」と是認した上で、「対話と意思疎通」を中国に呼びかけた。

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