スズキ燃費不正 法令軽視の体質は看過できぬ

朝日新聞 2016年05月20日

燃費不正拡大 根本原因にさかのぼれ

三菱自動車で発覚した燃費データに関する不正が、軽自動車最大手のスズキに飛び火した。

国の定めと異なる方法で燃費測定の元データを出していた。対象は他社への供給分も含め全車種の210万台強に及ぶ。

自動車各社は燃費や環境性能、価格を巡って激しく競っている。消費者にメリットをもたらす原動力でもあるが、ルールを守っていないのでは何をかいわんや、である。

なぜ法令が無視され、見過ごされてきたのか。不正を招いた原因を根本まで立ち返って検証し、しっかりと説明するべきだ。それが再発防止への出発点である。

三菱自を含む一連の不正で明らかになった手法は、大きく二つある。実測したデータの改ざんと、データを出す方法が国のルールに従っていないケースだ。三菱自の不正が両方にまたがるのに対し、スズキは後者にあたる。

屋外のテストコースで実際に車を走らせる決まりなのに、屋内でブレーキやタイヤなど装置別に測ったデータを積み上げていた。テストコースが海に近く、近年は車の軽量化で強風の影響を受けやすくなった。実走データのぶれが大きくなり、それを補うために装置別のデータを使い始めたという。

スズキは記者会見で「燃費を良くしようという意図はなかった」とデータの改ざんを否定し、三菱自との違いを強調した。しかし、ルールを守っていなかった事実は動かない。不正がほぼすべての車種に及んで社長が辞任を表明した三菱自とともに、法令を守っている他のメーカーや、公正な競争を前提に商品を選んでいる消費者は納得しないだろう。

スズキは「燃費を測り直したが誤差の範囲内だった」とするが、国土交通省は根拠となるデータを提出するよう求めた。幕引きを急いではならない。

スズキを軽自動車最大手に育て上げ、今も経営の一線に立つ鈴木修会長は、「(テストコースに)防風壁などの設備投資をしなかったことを反省している。風通しのいい組織にしないといけない」と語った。企業統治のあり方にまで踏み込んだ検証が求められる。

2社の不正が見逃された根本には、国がメーカーからの提出データをそのまま使う仕組みがある。国交省は既に見直しに着手したが、どこに不正の芽が生じやすいのか。今回は「不正なし」と報告したメーカーへの聞き取りも含め、改善策の検討を急がねばならない。

読売新聞 2016年05月20日

スズキ燃費不正 法令軽視の体質は看過できぬ

三菱自動車に続いて、自動車大手のスズキでも燃費データを巡る不正が明らかになった。

自動車メーカーの燃費表示に対する消費者の信頼を揺るがしかねない不祥事である。

問題になったのは、燃費計測の際に用いる「走行抵抗値」だ。

スズキは、法律で定められた方法による実測値ではなく、タイヤやブレーキなどの部品ごとに測った数値を「足し算」したものを、国の審査機関に提出していた。

対象は16車種で、他社に供給している同型車を含めると計27車種、210万台超に上る。

スズキは、「テストコースが海に近く、風の影響を受けやすいため、データのばらつきが大きかった」と理由を説明している。

カタログ記載の燃費と、正規の方法で測定されたデータとの乖離かいりは小さいとし、対象車種の販売を継続する方針も示した。

燃費水増しの意図はなく、数値の食い違いは小さかったという。そうだとしても、不正な方法を採用していい理由にはならない。

テストコースに防風壁を設けたり、他社のコースを借りたりするなど、実測で適切なデータを得る手段はあったはずだ。

ライバル会社が正規の測定法を採用している中、異なる“物差し”で計測したデータを使うのは、明らかに公正性を欠く。

不正なデータ測定は誰が指示したのか。三菱自の問題を受けて調査を迫られるまで、なぜチェックできなかったのか。スズキは全容を解明し、実効性のある再発防止策を講じるべきだ。

会社の都合を優先した法令軽視の芽を、早期に摘む必要がある。さもないと、安全にかかわる不正を引き起こす恐れもあろう。

一方、三菱自は燃費不正に関する社内調査について、国土交通省に3回目の報告を行った。

本社の性能実験部が、走行データの改ざんを子会社に指示していたことが分かった。不正な測定は、軽自動車以外の9車種中8車種でも行われていた。

相川哲郎社長は6月末の株主総会で引責辞任する。ユーザーや取引先への甚大な影響を考えれば、当然の対応である。

三菱自は、「(経営陣の)高い燃費目標を期待する発言が、結果的に不正が生まれる環境を作った」とも認めている。

社内の風通しが良ければ、不正は防げたのではないか。企業統治体制を確立することが、三菱自の再生に欠かせない。

産経新聞 2016年05月20日

相次ぐ燃費不正 世界の信頼裏切る行為だ

燃費性能を偽装していた三菱自動車に続き、スズキも燃費データを不正に測定していたことが発覚した。

自動車の基本性能をめぐる不正が相次いだ事態は深刻である。世界に冠たる日本の自動車産業に対する信頼を自ら裏切る行為というほかない。再び信用を勝ち取ることは容易ではなく、業界を挙げて不正の追放に力を尽くすべきだ。

スズキは、国の規定とは異なる不適切な方法で燃費試験データを測定していた。不正の対象は現在販売中の全16車種の210万台以上だという。ただデータの改竄(かいざん)は行われず、実際の燃費も「誤差の範囲」として、生産・販売は継続するという。

同社のテストコースは海に近いため、風などの影響によって法定条件下での試験が難しかったと釈明しているが、言い訳にもならない。自らの都合で必要な設備を設けなかったことなどが原因であり、顧客の信頼を損なう行為に変わりはない。

三菱自では、開発担当の管理職が子会社にデータ改竄を指示するなど、不正を認識していた実態も浮かび上がった。リコール隠しなどを繰り返した企業体質はそのままだったということだ。これを根本的に改めなければ、もはや社会的な存在として認められまい。

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