1億総活躍プラン 画餅に終わらぬ財源示せ

朝日新聞 2016年05月19日

1億総活躍 具体化への道筋示せ

安倍政権が看板政策に掲げる「1億総活躍プラン」をまとめた。社会保障分野を中心に暮らしの基盤を厚くし、国民の安心感につなげる。それが消費を底上げし、経済成長をもたらす。そんな「成長と分配の好循環」をうたう。

内容は多岐にわたるが、柱は労働分野と育児・介護分野だ。同一労働同一賃金や、最低賃金として時給1千円をめざし、非正社員の待遇を改善する。長時間労働を是正する。人手不足が深刻な保育や介護の現場で働く人の賃金を引き上げる。そんな目標が並ぶ。

どれも長年の懸案であり、対応を急ぐべきだ。しかし、いずれも実現は容易でなく、具体化への道筋はなお見えない。

参院選が近い。風呂敷を広げたはよいが、尻すぼみになっていくようなら、選挙目当てとの批判は免れまい。問われるのは首相の本気度と実行力だ。

同一労働同一賃金では関連法の改正に踏み込むとしたが、まずは何が不合理な待遇差かを明確にできるか。「同一」の中身も、総じて賃金水準が低い非正社員の方に合わせるのではなく、全体の底上げにつなげねばならない。

子育てや介護と仕事の両立を阻む要因ともされる長時間労働は、関連する規定を見直すかどうかの検討を厚生労働省の審議会に委ねるという。まずは政府として、労働時間の上限規制に踏み込むなど改革の方向性を示すべきではないか。

保育所や介護施設を増やしても、働く人がいなければ役に立たない。保育士や介護職員の賃金を来年度から引き上げるとしたのは前進だが、2千億円ともされる財源の検討は年末の予算編成時に先送りした。教育分野では、関心が高い「給付型奨学金」の創設が、やはり財源問題から検討項目にとどまった。

「アベノミクス」による税収増を活用するとの声もあるが、安定的な財源と言えるだろうか。他の分野の予算を無理に削って財源をひねり出すのも本末転倒である。

そもそも子育て支援は、「税と社会保障の一体改革」で充実を約束している。しかし消費税率を10%にしても財源がなお3千億円足りない状態だ。いまだにめどが立たず、保育士の配置を厚くするなどの施策が置き去りにされている。

まずは消費税率を予定通り10%に上げる。それでも財源が不足する現状を直視し、国民が納得できる確保策を示した上で、一つずつ着実に実行していく。それが責任ある態度である。

読売新聞 2016年05月20日

1億活躍プラン 保育と介護の不安なくしたい

子育てや介護への不安を解消し、国民一人一人が仕事や家庭で充実した日々を送る。それが日本の活力につながる。

政府が、少子高齢化の克服を目指す「1億総活躍プラン」案をまとめた。

「出生率1・8」「介護離職ゼロ」へ向けた対策と、多様な人材の活躍を可能にする「働き方改革」への取り組みが柱だ。これらを実現するための今後10年間の工程表も提示している。

子育てや介護への支援を強化することで、女性や中高年の働き手を増やす。国民に安心感をもたらして消費を促し、中長期的には人口減に歯止めをかける。プランが1億総活躍を「究極の成長戦略」と位置づけたのは理解できる。

プランでは、人手不足が深刻な保育士の確保策として、2%の賃金引き上げを打ち出した。月6000円程度になる。技能・経験を積んだ保育士には、月4万円程度を上乗せする。

介護職については、賃金を月平均1万円引き上げる。いずれも、来年度から実施する。

保育士、介護職ともに、平均月給は全産業平均より月10万円以上も低い。それが人手不足の大きな要因だ。保育・介護サービスの拡充に向けて、具体的な処遇改善策を示した点は評価できる。

ただ、他産業との隔たりは依然として大きい。人材を確実に定着させるには、さらなる賃上げも検討すべきだろう。

処遇改善で最大の課題は、財源の確保である。今回の対策に要する2000億円規模の確保策もプランには明記されていない。政府は安定財源を示す必要がある。

保育士の配置を手厚くするなど「保育の質の向上」への言及が乏しいことも、物足りない。

社会保障・税一体改革で配置基準の改善などが約束されたのに、財源不足で一部しか実現していない。3月に、既存施設の定員枠拡大などの待機児童対策が公表されたことで、保育の質の低下に対する懸念が増幅している。

子供を安心して預けられる環境を整備しなければ、女性の活躍促進はおぼつかない。

働き方改革では、雇用形態で賃金差をつけない「同一労働同一賃金」実現のための法改正や、長時間労働是正へ向けた時間外労働規制の再検討を掲げたが、その中身は今後の議論に委ねた。実効性ある施策につなげてもらいたい。

プランを、今夏の参院選向けのアピールに終わらせず、着実に具体化していくことが重要だ。

産経新聞 2016年05月19日

1億総活躍プラン 画餅に終わらぬ財源示せ

少子高齢社会をどう乗り越えていくか。安倍晋三首相が「克服に向けた道筋」を示すものとする「1億総活躍プラン」をまとめた。

政策を43テーマに再整理し、10年間の期限を切って示した。中長期にわたる課題に果敢に取り組む姿勢は評価したい。

だが、内容的にはすでに政府内で検討されてきた政策を網羅した感が否めない。「処方箋」として期待されていた分だけ失望も大きいのではないか。

今後は、列挙した政策を実現する具体的な方策を示し、優先順位を付ける必要がある。とりわけ説明を求めたいのは、安定財源をどう確保するかである。「アベノミクスの成果を活用する」というだけでは、確実な財源としてカウントできない。

盛り込まれた政策の実現には全部でいくら必要か。限られた財源の中で、成果を実感できるプランに仕上げるのが政治の役割だ。

注目される保育士や介護職員の待遇改善策だけでも、2千億円を要するという。奨学金制度の拡充など、新たな財源を必要とするメニューも次々と打ち出したが、社会保障・税一体改革で決めた政策の履行もすべて達成していないことを忘れていないか。

一体改革で宿題となった、保育の質の向上策も財源の見通しが立っていない。一方で政府は社会保障費の伸びの抑制を求めてきた。これらとプランとの整合性も説明が必要だ。

朝日新聞 2016年05月16日

「1億総活躍」社会 消費増税の支えが必要だ

税率10%への消費増税を、予定通り2017年4月に実施するのか、先送りするのか。

安倍首相がいつ、どう判断するかに関心が集まっている。

増税はもともと15年10月の予定だったが、首相は一昨年秋、先送りを決めた。その際の記者会見で、リーマン・ショック級の混乱や東日本大震災並みの災害に見舞われた場合を除き、「(増税を)再び延期することはないと断言する」と語った。

この判断基準について、首相は基本的に変えていない。経済指標を見れば、現状が「リーマン級」「大震災並み」と言えないのは明らかである。

過去最高を更新してきた企業収益に陰りが見え、熊本地震も起きたが、長期的な視点に立って消費増税は予定通り実施するべきだ。

消費税収は「税と社会保障の一体改革」の枠組みに従って社会保障に充てられる。新たな施策の財源に回すのは一部にとどまり、国債発行に頼ってきた分の置き換えが多いが、将来世代へのツケ回しをずるずると続けるわけにはいかない。

政府は熊本地震の復旧復興対策として7千億円余の補正予算案を決めた。足元の景気、とりわけ低調な個人消費のてこ入れ策も、効果的な対策を見極めつつ、消費増税とは切り離して考えるべき課題である。

■欠かせない財源確保

政府は近く、「1億総活躍プラン」をまとめる。

保育士や介護職員の待遇を改善する。所得が少ないひとり親世帯に支給する児童扶養手当を増やす。「渡し切り」の給付型奨学金の創設を検討する。社会保障や教育の分野を中心に、最近決めた施策や今後の検討課題が並ぶ見通しだ。

貧困に直面する人への支援は待ったなしだ。介護や子育ての負担も広く分かち合いたい。国民が生き生きと暮らし、働ける社会を作るには、支え合いが欠かせない。プランがめざす方向性には多くの人がうなずこう。

ただ、それには財源が要る。

政府内では、第2次安倍政権の発足後、民主党政権時と比べて税収が増えた分を「アベノミクス」の成果ととらえ、プランの財源にすればよいとの声が根強い。確かに国の年間税収は、8%への消費増税による分を除いても数兆円規模で増えた。

それでもなお、今年度予算では財源不足を補う新規国債の発行が34兆円余と予算総額の3分の1を上回り、借金残高は1千兆円を超える。その現状から目をそらしてはならない。

1億総活躍プランも、そこに盛り込んだメニューだけで支え合いが完成するわけではない。すでに開いた財源の穴をこれ以上広げず、さらに狭めていくには、負担増が避けられない。

「パナマ文書」は、大企業や富裕層の税逃れの実態をうかがわせる。毎年度の予算に効果が疑わしい施策が残るのも確かだ。税金を取るべきところから取り、予算を不断に見直すのは当然だが、税制改革による税収増、とりわけ安定した税収が得られる消費税の増税をはずせないのも財政の現実である。

■再分配政策の大切さ

近く発表される1~3月期の経済成長率はゼロ近辺にとどまるとの予測が多い。海外経済の不安や円高基調を背景に、長く好調だった企業収益は減益に転じそうだ。

今後のカギを握るのは、国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費の動向だろう。

企業全体の利益水準はなお高く、蓄えはたっぷりある。法人減税で企業を後押ししてきた政策を改め、家計の所得につなげる仕掛けを考える。一部の金持ちだけが潤っても経済成長はおぼつかないから、貧富の差をならす。そうした再分配を強化するには、所得税や相続税を含む税制全体の見直しが必要だ。

老後や子育てに不安が強ければ、財布のひもを緩める気にはなるまい。税制とともに再分配を担う社会保障のほころびを繕う作業も続けねばならない。

参院選を前に、政府与党では商品券やクーポン配布への期待が広がる。だが消費を喚起する効果は長続きせず、むしろ反動減や財政悪化を招きがちだ。

■長期の視点で判断を

安倍首相は、14年4月の8%への消費増税が予想以上に消費に影響を与えたと懸念する。消費がさえない原因はしっかり分析する必要があるが、自らが一翼を担った可能性についても省みるべきだ。

第2次政権発足直後の12年度末に成立させた大型補正予算は13年度に順次執行され、増税を控えた駆け込み需要とあいまって景気を押し上げた。それが増税後の落ち込みを深く、長くしたという専門家は少なくない。

首相に求められるのは、将来を見すえ、社会や経済の構造を変えていく政策判断である。目先の選挙を意識し、有権者の歓心を買おうとするかのような対応は、政策をゆがめ、国民にツケを残すだけだ。

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