クロマグロ 資源管理へ日本の知恵を

朝日新聞 2010年03月08日

クロマグロ 資源管理へ日本の知恵を

高級な刺し身やすしに使われるクロマグロのうち、日本への供給量の半分を占める大西洋産が来なくなる可能性が出てきた。

カタールで13日に開幕するワシントン条約締約国会議で、この海域に生息するクロマグロを保護するため国際取引を禁止する決議案が出される。

有効投票の3分の2以上が賛成ならば、地中海を含む大西洋産のクロマグロの国際取引ができなくなる。欧州連合や米国が支持している。

日本は世界中でとれるマグロ類の4分の1、クロマグロについては8割を消費している。クロマグロの国際取引が止まれば太平洋産に頼るしかなくなる。約1年分の国内在庫があるとはいえ、影響は大きい。

この海域のクロマグロの資源管理は本来、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の仕事だ。絶滅の恐れがある野生生物の保護が目的のワシントン条約で扱うのは筋違いだとする日本政府の主張には理がある。

ただ、クロマグロの資源は年々減少している。欧州では、日本との取引を念頭に、生息する魚類を根こそぎ取る「巻き網漁」が広がり、乱獲や密漁も後を絶たない。さらに近年は、海でとった幼魚をいけすで太らせる「畜養」ビジネスが拡大している。

ICCATはこれまで漁獲枠や禁漁期の設定によってクロマグロの資源管理を進めようとしてきた。しかしその効果は不十分だった。

資源が枯渇しかねないという批判に対して日本政府も手をこまぬいていたわけではない。ICCAT加盟の漁業国とともに昨年11月、総漁獲枠の4割削減の決定に参加したが、欧州の環境保護派は納得しなかった。フランス、イタリア両国政府がその後、国際取引禁止支持へと立場を変えた。

事態がここまで来た以上、政府はただ決議反対を叫ぶよりも、ICCATが昨年導入した対策が実効性を持つよう規制を強め、日本が資源管理策の先頭に立つ決意を国際社会に示すことが大事ではないか。

総漁獲枠の一層の削減、密漁や不正流通の監視態勢の強化、欧州諸国による巻き網漁船の減船。そうした具体策を示せば、日本の立場に理解を示す国が増えるだろう。

注目したいのは、クロマグロを卵から親魚に育てる完全養殖の技術だ。近畿大学が世界で初めて8年前に実験に成功した。天然の資源に頼らずにすむ技術だ。実用化を急ぎたい。

政府は、取引禁止になっても決定への「留保」を通告し、日本漁船による漁も引き続き認める考えだが、日本への視線は厳しくなりかねない。

マグロの味覚を守り続けるためには、資源保護への配慮とともに消費者の我慢も必要になってくる。

毎日新聞 2010年03月09日

クロマグロ規制 絶滅危惧種扱い極端だ

絶滅の恐れがある野生生物の国際取引を禁じるワシントン条約の締約国会議(175カ国)が13日からカタールで始まり、大西洋・地中海のクロマグロについて話し合う。絶滅危惧(きぐ)種扱いは極端な対応と言えるが、欧州連合に続き米国も今月、禁輸案への支持を表明した。日本は提案を葬るのに必要な3分の1以上の同調をとりつけるための働きかけを強めているが、情勢は厳しい。

大西洋・地中海のクロマグロはピークの30万トンから8万トン弱に減った。乱獲による資源の減少については日本も異論はない。ただし漁獲規制を守れば資源を回復できるとの立場だ。このため日米欧など49の国・地域でつくる大西洋マグロ類保存国際委員会で国別の漁獲枠を設け、総枠も昨年は2万2000トン、今年は1万3500トンと年々絞ってきた。

しかし、密漁などの不正で漁獲枠は有名無実になっている。監視が届かず罰則も緩いためだが、日本向けの「蓄養」が呼び水として指摘される。沿岸国の漁船が若いクロマグロを捕獲して巨大ないけすに放ち、トロの部分が多くなるようサバやイカを大量に与えて輸出するものだ。日本の商社などの主導で90年代に始まり、地中海各地に広がった。大西洋・地中海で取れるクロマグロの8割がこうして日本に入り、高級食材だったトロが安く出回っている。

絶滅危惧種扱いとして禁輸しようとする動きは、漁獲規制の有名無実化にしびれを切らし、国際取引を封じるのが資源回復の早道との考えに基づく。環境問題に熱心なモナコが昨秋に禁輸案を提案することを表明し、漁業国のスペインやフランスなども最近、姿勢を転換した。

禁輸案が可決された場合、日本は「留保」する方針だ。これは条約加盟国に認められた権利で、留保を表明すれば公海上での漁ができ、同じく留保している国ならば輸入も可能になる。宮城県などを母港とする約40隻の遠洋マグロ船は、年間約2000トンを大西洋で水揚げしている。操業の継続は漁業者にとって死活問題で、抜け道を行くような留保戦術もやむを得ないと言える。

ただし国際世論の逆風も覚悟しなくてはならない。今年のアカデミー賞では、日本沿岸のイルカ漁を動物愛護の観点から告発する映画「ザ・コーヴ」が、ドキュメンタリー部門のオスカーをとった。今年10月には名古屋市で国連生物多様性条約の締約国会議が開かれ、地球上の多様な動植物を守るため約190の国・地域から約7000人が集まる。

自然を愛し、自然との調和を図ってきた日本と日本人が、野生生物の保護を顧みない国という不本意なレッテルをはられないようにしたい。

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