小沢幹事長 鳩山氏は内閣主導貫け

朝日新聞 2009年09月07日

鳩山人事 政権移行の態勢を急げ

16日の新首相指名まであと1週間あまり、鳩山政権の骨格人事が固まってきた。鳩山代表は注目の国家戦略局担当相に菅直人代表代行を副総理兼務であて、岡田克也幹事長は外相に、財務相には藤井裕久最高顧問を起用する意向だという。

幹事長に内定した小沢一郎氏に続いて、党の重鎮を内閣の重要ポストに配置する形だ。国の仕組みを変えようという大仕事を担う顔ぶれとすれば、これ以外にはない選択だ。

最大の目玉は、「脱・官僚依存」という民主党の旗じるしを担う国家戦略局担当相への菅氏の起用だ。鳩山新政権の内政、外交の基本と枠組みの構築を担当し、民主党が掲げる政治主導の文字通りの司令塔の役回りである。

菅氏といえばすぐに思い浮かぶのが、自社さ連立政権の厚生相として、薬害エイズ関連資料の存在を暴いた行動力だ。鳩山氏とともに、結党以来の民主党の顔でもある。

政策通として評価され、省庁横断的な戦略づくりにはうってつけだろう。官僚の抵抗を封じつつ、新しい政策決定プロセスの中に巨大な官僚機構の力をどううまく活用するか。司令官としての度量と手綱さばきが問われることになる。

岡田氏は、党代表時代に「岡田ビジョン」という外交戦略を発表し、日米同盟を基軸としつつ、アジアとの連携を深める現在の民主党路線の基調をつくった。

岡田氏は、在日米軍基地の見直しにも、積極的な発言をしてきた。自民党時代とは違う新たな日米同盟の姿を模索しようという思いなのだろう。

アフガニスタン問題での支援の再検討、核をめぐる日米密約問題など、難しい問題も山積している。

一方、党の地球温暖化対策づくりを率い、「北東アジア非核兵器地帯構想」をまとめるなど核軍縮にも熱心だ。温暖化と核の不拡散はオバマ米大統領が重視する政策であり、日米協調の新しい柱になりうるものである。

重要閣僚が固まったのを受け、政権移行の作業を本格化させなければならない。国家戦略局担当相と財務相を中心に、補正予算案と来年度の予算案の編成に向けて移行チームづくりを急ぐことだ。

さらに、新政府の発足直後、鳩山新首相は訪米し、国連総会やG20金融サミットなどに出席する。米国や中国との首脳会談もありそうだ。北朝鮮をめぐる動きにもすぐ対応できるよう備える必要がある。

民主党は閣僚や副大臣などとして100人以上の政治家を政府に投入する方針だ。どれも重要な人事だが、大勝に浮かれて、ポスト争いにかまけている余裕はないことを肝に銘じてもらいたい。

毎日新聞 2009年09月08日

「鳩山内閣」人事 脱官僚が命運を握る

「鳩山内閣」の主要閣僚人事が固まってきた。鳩山由紀夫・民主党代表が選択した布陣は、副総理兼国家戦略局担当相に菅直人代表代行、外相には岡田克也幹事長、官房長官には鳩山氏の側近である平野博文役員室長をそれぞれ起用するというものだ。先に決定した小沢一郎代表代行の幹事長就任も含め、鳩山氏は党内のバランスを考慮すると同時に、政権交代に対する国民の不安を解消するため、党内の実力者を配置したとみられる。まずは順当な人事といっていいのではないか。

中でも注目されるのは新しく設置する国家戦略局の担当相に菅氏が就任することだ。予算の骨格や政策の優先順位、外交の基本方針をこの新組織で決めるという戦略局は、「脱官僚主導」「脱官僚依存」を目指すという民主党の目玉組織であり、この新組織がうまく機能し、政策決定の仕組みを根本的に変えられるかどうかが、新政権の命運を握っているといってもいいからだ。

戦略局の設置には法改正が必要で、実際に始動するのは10月召集予定の臨時国会で関連法が成立した後となり、具体的な制度設計もこれから詰めていくことになる。民主党は省庁の縦割り行政を改めると同時に、今の経済財政諮問会議は財務省主導だと総括し、同省の予算編成機能を官邸に移すことを考えているようだ。メンバーとして民主党の国会議員や党の政策スタッフ、官僚、民間の有識者に加え、自治体の首長らもかかわる構想が練られている。

菅氏はかつて自社さ政権で厚相を務め、薬害エイズ問題ではそれまで隠されてきた関連資料を大臣主導で暴き出した経験を持つ。期待されているのはその突破力だろう。絶えず鳩山氏と連携を保ちながら、官僚の抵抗を排する、いや、官僚をしたたかに使いこなすことを目指してもらいたい。

菅氏が党の政調会長を兼務するのも大きなポイントだ。そこには官僚と族議員の事前調整で実際の政策が決まってきた自民党政治の「二元構造」を転換し、首相官邸と党が一体となって政策決定を進めていく狙いがある。閣議を事前に取り仕切ってきた事務次官会議の廃止などを含め、政治主導を目指して仕組みを変更していく点は大いに評価したい。

16日の首相指名選挙を前に、社民党、国民新党との連立協議をまとめる一方で、他の閣僚人事も決まっていきそうだ。言うまでもなく仕組みを変えさえすれば済む話ではない。脱官僚を目指すということは、民主党の個々の議員の能力が試されるということだ。鳩山氏には、実力のある中堅や若手も積極的に登用してもらいたい。

読売新聞 2009年09月08日

新内閣骨格人事 政権引き継ぎを円滑に進めよ

鳩山新内閣の主要閣僚人事が固まった。来週の発足に向けて、円滑な政権引き継ぎができるよう準備を急いでほしい。

民主党の鳩山代表が最も重視する国家戦略相には、菅直人代表代行が決まった。外相は岡田克也幹事長、官房長官は平野博文役員室担当が就任する。財務相は藤井裕久最高顧問の起用で調整が進んでいる。

新内閣には多くの難題が待ち構えている。行政の停滞は許されない。新内閣は、閣僚経験のない大臣が大半を占める見通しであり、期待と不安が交錯する。

子ども手当など新規政策の財源が不明確な中、景気対策に目配りしつつ、来年度予算をいかに編成するのか。今月下旬の国連総会や金融サミットにどう臨むのか。

政権発足後の混乱を最小限にするには、16日の特別国会召集までの助走期間を有効活用し、党内外の政策調整を行う必要がある。

重要なのは、政権公約の内容を精査し、早急に実行する政策の優先順位を決めることだ。

首相直属の国家戦略局など新機関の設置や政官関係のルール見直しに手間取り、内閣本来の業務が滞るようでは困る。政府高官人事は無論、新たな制度やルールについても、政権発足前に極力詰めておくことが望ましい。

菅氏がトップとなる国家戦略局は、予算編成方針や外交ビジョンの策定のほか、政策の総合調整の役割を担う。民主党の掲げる「官僚依存政治からの脱却」を実現する司令塔ともなる。

菅氏は、「自社さ」政権の厚相として「政治主導」で薬害エイズ問題に取り組んだ。その後の野党時代も、国会で官僚による無駄遣いや天下りを追及してきた。霞が関改革に適任との判断だろう。

「政治主導」やムダな支出の徹底削減に異論はないが、求められるのは、野党的な官僚たたきのパフォーマンスではなく、官僚をきちんと使いこなす発想だ。

外相に起用される岡田氏は、政策通のうえ、外遊を通じて米国をはじめ各国に人脈を築いてきた。一方で、「原理主義者」と揶揄(やゆ)されるように、政策面の硬直性を心配する向きもある。

新政権の外交政策では、社民党との連立に加えて、「反米的」とも評された鳩山論文の影響などから対米関係が懸念されている。

日米同盟が不安定化すれば、民主党の重視するアジア外交にも悪影響を及ぼす。新政権は、日米の信頼関係の構築に十分留意することが必要だろう。

産経新聞 2009年09月08日

新政権人事 国づくり提示こそ先決だ

民主党の鳩山由紀夫代表は国家戦略局の担当相に菅直人代表代行を起用し、外相に岡田克也幹事長をあてるなど「鳩山内閣」の骨格を固めた。

首相直属の組織として新設する国家戦略局は、官僚主導から政治家主導への移行を訴える民主党の公約の目玉だ。外交戦略や予算の基本方針の策定など政権の頭脳となる組織で、国家統治の新たな試みとして注目される。

だが、新政権がこの組織でどんな国づくりを目指すのか、肝心の中身がいまだに示されていない。新組織の始動にあたり、首相となる鳩山氏が自らの国家ビジョンを提示することが先決だ。

民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)は、政権交代の必要性や官僚依存政治からの脱却の重要性を強調するとともに、子ども手当など内政上の個別政策を多数盛り込んだ。だが、この国がとるべき針路についての記述らしいものはほとんどなかった。党としてどんな国づくりを目指すのか、政権発足までに確立すべきだ。

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査によると、衆院選での民主党の勝因について「与党の政策や政治姿勢への批判」を挙げた人が5割を超え、「民主党の政権公約への期待」(29・2%)や「鳩山代表への期待」(6・3%)を大きく上回った。全体として民主党政権への期待は大きいが、政策面の評価は定まっていないことを鳩山氏らは認識すべきだろう。

党幹事長に小沢一郎代表代行を起用したのに続き、政府側の核となる戦略局の責任者に、厚相や党代表などの経験を重ねた菅氏をあて、重鎮2人の手腕に期待する形となる。鳩山氏が両氏を指揮し、政権運営に全責任を負う形をはっきりさせることが重要だ。

外相に起用される岡田氏は、日米同盟の重要性を認める一方、同盟の範囲を限定的にとらえる考え方で、国際社会の平和と安定に日米が協力することには否定的だ。日本と南北朝鮮を完全非核地帯化し、米国に核先制不使用宣言を求める考えも提起してきた。北朝鮮の核・ミサイルの現実の脅威にこれで対応できるのか。

鳩山氏は先のオバマ米大統領との電話会談で、日米安保体制の堅持で一致した。岡田氏はこの方針に沿って、同盟の維持・強化に努める責務がある。国益を阻害しかねない持論は封印すべきだ。

朝日新聞 2009年09月05日

小沢幹事長 企業献金に自らとどめを

民主党の新幹事長に、小沢一郎前代表が就くことになった。政府は鳩山首相、党務は小沢氏、という新政権の基本構図ができた。

「二重権力」になるのではないか。「闇将軍」にならないか。そんな懸念が党内外で語られてきた小沢氏の起用だが、鳩山氏の意図は明確だ。

第一は、来夏の参院選対策だ。

勝利すれば、衆参両院で民主党単独で過半数を固め、政権の基盤を盤石にできる。逆に、負けるようなことになれば、民意の旗じるしを野党に奪われ、政権運営は一気に難しくなる。

そのために小沢氏の手腕に頼りたい、ということだろう。07年の参院選、そして今回の衆院選を大勝に導いた小沢氏の力量は証明済みだ。

第二は、西松建設からの違法献金事件で秘書の公判を控える小沢氏を、閣僚として政府に抱えるわけにはいかない、というリスク管理である。閣僚は国会で答弁に立たねばならず、野党の追及にさらされる。展開次第で政権がつまずく危険もある。

幹事長は党のナンバー2であり、選挙のほか国会対策、政治資金の配分などで大きな権限を握る。小沢氏としても不満のない人事といえるだろう。

不安がないわけではない。140人を超える初当選組の大半は小沢氏が擁立し、面倒を見てきた。巨大化した民主党で、小沢氏の影響力、存在感もまた巨大になっている。

小沢氏も、「二重権力」を警戒する視線を十分、意識しているに違いない。かつて海部政権や細川政権で与党側の実権を握り、政権を牛耳った過去がある。その後も政党再編を仕掛けては失敗した。説明不足、強引、独断専行……。そんな批判を浴びてきた。

今回も、同じ轍(てつ)を踏むことはないか。鳩山氏がいくら「心配はない」と打ち消しても、それが本当かどうかは、やはり小沢氏自身の行動で示してもらわねばならない。

それには、名実ともに鳩山氏のリーダーシップを支える姿を明確にすることだ。定例の記者会見などに積極的に応じることも欠かせない。政権交代の実をあげるために経験と力を生かし、党を束ねていってもらいたい。

西松事件は終わっていない。前社長の判決で、小沢氏の秘書が公共工事の談合に強い影響力を持っていた事実が認定された。巨額献金の背景について誠実に説明する必要がある。

政官業の癒着を排するという民主党政権の姿勢を鮮明にするためにも、企業・団体献金の全面禁止を秋の臨時国会で仕上げる先頭に立つべきだ。

小沢氏の処遇が決まったことで、閣僚人事が本格的に動き出した。鳩山氏は国家戦略局担当相、財務相、外相ら主要閣僚を早く固め、現政権との政権移行作業を加速させることだ。

毎日新聞 2009年09月05日

小沢幹事長 鳩山氏は内閣主導貫け

「鳩山政権」発足に向けた民主党の新体制作りがスタートした。鳩山由紀夫民主党代表は、党運営の中心となる幹事長に小沢一郎代表代行の起用を決定、官房長官には鳩山氏側近の平野博文・党役員室長が内定した。岡田克也幹事長は外相となる見通しで、菅直人代表代行らも重要閣僚として処遇するという。

注目されるのは、やはり小沢氏の幹事長起用だ。さっそく「実際には小沢氏が支配する二重権力構造になる」と懸念する声が出ている。だが、そうであってはならないのは鳩山氏も十分承知だろう。政策決定は首相主導の下、内閣に一元化するという方針を貫いてもらいたい。

小沢氏は幹事長に就任することで従来の選挙対策だけでなく、国会対応などを含めた党運営全体を担うことになる。民主党が今回の衆院選で獲得した308議席のほぼ半数を占める新人の多くが小沢氏の影響を受けており、小沢氏の党内基盤が強固になったのは間違いない。

ただし、小沢氏が新政権を主導する二重構造になると直ちに決めつけるのは早計だ。幹事長はまさに党の「表」のポストだ。責任ある役職に就かず、裏で差配する「闇将軍」的な存在にならないために、小沢氏が表のポストに就任したと見ることも可能だからだ。

93年誕生した細川政権の時には、小沢氏は内閣に入らず、当時の新生党代表幹事として与党代表者会議を取り仕切って、政府の政策決定もリードした。だが、この二元的な意思決定の仕組みが、与党と官邸との関係をぎくしゃくさせると同時に、小沢氏の強引な手法が、その後連立与党の瓦解を招いたのは事実だ。その反省は小沢氏にも当時官房副長官だった鳩山氏にもあるはずだ。

鳩山氏は「幹事長は政府の中に入って仕事をするわけではない。政策の決定はすべて政府の中でやる」と話している。新政権は官僚支配を排して政治主導、官邸主導の政策決定を目指している。まだ政権はスタートもしていない段階だ。ここは鳩山氏のリーダーシップを期待して、今後を注視していくことにしたい。

一方、小沢氏には国民に開かれた党運営を心がけてもらいたい。幹事長になれば記者会見などの機会も増える。民主党は情報公開の必要性を訴えてきた政党だ。党の決定についても透明性を確保していくことが「二重構造」や「陰の支配」という懸念を解消していく道にもなる。

小沢氏の公設第1秘書が政治資金規正法違反罪で起訴された事件の公判もいずれ始まる。鳩山氏も個人献金の虚偽記載問題を抱える。この問題についても、改めてより丁寧な説明が必要なのは当然だ。

読売新聞 2009年09月05日

小沢民主幹事長 試される鳩山代表の統率力

鳩山新政権の要である民主党幹事長に、小沢代表代行が就任することになった。

鳩山代表は、「小沢代行のお陰で300を超える議席を得た」として、衆院選を指揮した小沢氏の功労に応えたものと強調した。

無論、それだけではない。

来年夏の参院選対策を引き続き小沢氏に委ね、参院でも単独過半数を制し、本格政権を樹立させる狙いだろう。

民主党は、衆参両院で420近い議席を持つ大所帯になった。巨大政党を束ねるには、自民党でも幹事長を務めた小沢氏の力量と経験に頼らざるを得ない、との判断もあったとみられる。

だが、小沢氏の起用には、懸念も指摘されている。

「小沢チルドレン」とも言われる新人の大量当選で、グループ勢力を膨張させた小沢氏が、党運営で過大な影響力を行使するようになるのでは、というわけだ。

民主党は、自民党政権での「党高政低」的な政策決定を「政高党低」に変えたいようだ。小沢氏が党の立場で政府の外側から力を行使しては、この目標の達成が困難になりかねない。

鳩山代表によれば、3日の鳩山―小沢会談で小沢氏は、「政策はすべて政府が決定することになるので、私は基本的にはかかわらない」と述べたという。

この“政策不介入”発言を受けて、鳩山代表は、記者団に「権力の二重構造にはならない」と説明している。果たしてそうか。

鳩山代表は、政府による一元的な政策決定を図るため、各府省に大臣、副大臣、政務官、大臣補佐官など国会議員約100人を配置するとしている。

しかし、そこで政策を立案しても、それを法案化し衆参両院で成立させなければ実施できない。法案成立には、党運営の一環として国会対策に責任を持つ幹事長以下、党の協力が不可欠だ。

鳩山代表は形はどうであれ、自らの責任と指導力で小沢氏の“独走”を防ぐことが肝要である。

それにしても、政権移行の準備が遅れている。政治は一時の休止も許されない。主要閣僚の陣容は早く整えるべきだろう。

小沢氏は普段、丁寧な説明を欠いたり、会議に出なかったり、その態度や姿勢が批判されてきた。最大政党の幹事長なら、これは改めなければなるまい。

公設秘書が起訴された西松建設違法献金事件では、従来以上に説明責任が求められる。

産経新聞 2009年09月05日

小沢幹事長 統治責任を共有している

民主党の鳩山由紀夫代表が新政権での党幹事長に小沢一郎代表代行を起用したことは、衆院選を圧勝に導いて政権交代を確実にした功績を評価し、官邸入りする自分に代わって、党や国会の運営を委ねたといえる。

来夏の参院選勝利に向けて、小沢氏の剛腕に期待しているのだろうが、政権運営に事実上、2つの「司令塔」が生まれることを意味する。小沢氏は「私は基本的には政策にも組閣にもかかわらない」と約束したようだが、幹事長である以上、法案の成立などの責務を担う。日本の統治責任をきちんと果たす使命がある。その意味で小沢氏は政策決定メカニズムに積極的に関与すべきだ。

問題は、小沢氏が日本をどうするかの国家像をほとんど説明しないことにある。積極的な憲法改正論者であったが、最近は封印している。アフガニスタンでの平和協力に関しても、武力の行使を含め国連の活動に参加する意向を一昨年秋に示したが、それらは党内の合意にはなっていない。

こうした内政外交の懸案にどう対応するかを明確に語り、鳩山氏と調整する必要がある。それを透明化しない限り、「二重構造」という批判はつきまとう。

民主党の政権構想の柱である首相直属の「国家戦略局」は、国家ビジョンや予算の骨格を策定する政策決定の司令塔だ。鳩山氏は「政策決定はすべて政府の中でやる」と、二元体制にはならないことを強調するが、政権の統一意思を明確に示すには、小沢氏も国家戦略局に入れて責任を共有する形を検討すべきだろう。公約である「内閣の下での政策決定の一元化」との整合性も図れる。

衆院で絶対安定多数を得たとはいえ、年度途中で補正予算を見直し、関連法案を成立させるのは、かなりの力業となる。鳩山氏は実質的に政権基盤の多くを小沢氏に依存することになるが、重要なのは「鳩山−小沢」体制が現実路線に立って国益を守る政治を行うかどうかである。これまで小沢氏は党内左派グループと連携してきたが、国益重視路線に立つかどうかを語らなくてはならない。

西松建設の違法献金事件に関する小沢氏の説明責任は不十分なままで、逮捕・起訴された公設秘書の公判も控えている。鳩山氏も自らの虚偽献金疑惑をぬぐえていない。同党の自浄努力をどう示すかも小沢氏の課題だ。

朝日新聞 2009年09月04日

鳩山新政権へ 未来に責任果たす財政を

民主党が政権政党としての力量を試される最初の大関門はいうまでもなく補正予算の組み替え、そして来年度の予算編成である。

まず注目されるのは、総選挙で訴えた歳出の改革だ。国の総予算207兆円から無駄を省いて9兆円をひねり出し、子ども手当などの財源にあてる。そう公約して期待を集めた以上、自民党政権ではできなかった無駄の刈り込みをとことん進めてほしい。

総選挙から5日。民主党は動き始めている。来年度予算の概算要求を白紙に戻す方針を示し、経済危機対策として執行が始まっている今年度補正予算も見直す構えで、岡田克也幹事長が「駆け込み執行しないように」と麻生政権にくぎを刺した。

麻生政権がこの1年間に取り組んだ景気対策の事業費総額は130兆円。規模が優先されたため、不要不急の事業も少なくない。46を数える基金の4.4兆円や、国立メディア芸術総合センター(アニメの殿堂)などのハコモノが代表格だ。

失業率が予想を超えて悪化している経済状況を考えても、より効果的で、将来につながる内容の景気対策が求められる。無駄な事業をやめ、適切な予算に組み替えるよう期待したい。

とはいえ、民主党は予算執行に責任をもつ立場となる。現実に出来ることと無理なことを冷静に判断し、政権公約に盛った方針の修正を辞さない柔軟性も求められる。

来年度予算の編成では、そうした大局的判断がとりわけ必要だ。

今年度の予算は経済危機対策で補正後には空前の100兆円規模にまで膨らんだ。来年度にそれを圧縮すれば景気にはマイナスに働く。かといって予算規模を維持しようとすれば、国債の大量発行が避けられない。

鳩山氏は国債発行について「(今年度の44兆円から)増やさない。当然減らす努力をしないといけない」と述べた。だが、景気の悪化で税収の大幅減が見込まれる以上、それもかなり難しくなりそうだ。

民主党が政権公約に盛り込んだ政策の中には「大盤振る舞い」に過ぎるものも少なくない。鳩山政権はそれらを再考すべきである。

たとえばガソリン税などの暫定税率廃止(年2.5兆円)や高速道路無料化(年1.3兆円)は、地球温暖化対策と矛盾する。これらの政策実現を焦って国庫に巨額のつけを回すことは民意に背くのではないか。

一方、子ども手当や出産一時金に5.5兆円を投じる公約は少子化対策として価値がある。だがその実現には、民主党が掲げる所得税の配偶者控除や扶養控除の廃止だけでは足りない。

不足する保育所の整備を組み込んでいくにも、恒久的な財源を確保する展望を示すことが不可欠だ。

民主党は来年夏の参院選に向けて成果を示したいところだろう。だが、無駄の削減や特別会計の運用益などの「埋蔵金」を、別の事業に財源としてつぎ込めたとしても、それは一時的なつじつま合わせにすぎない。

子ども手当に限らず、持続的な制度をつくるには恒久的な財源が必要だ。民主党が進めようとしている歳出改革だけでは不十分であり、歳入すなわち税制も含めた財政構造改革に本気で取り組まなくてはならない。

そのためには、財政の司令塔となる「国家戦略局」や、新しい政府税制調査会が中心となって中長期的な財政再建目標を検討し、そこに至るロードマップを国民に示さねばならない。

国と地方の借金は800兆円超で、国内総生産(GDP)の1.7倍にのぼる。主要国で最悪だ。

政府が巨額の借金をしているのに、大量の国債が売れ、金利も低い。これは個人金融資産1400兆円が不況下で安全な運用先を求めた結果だが、世界経済が回復すれば大量の国債にいつまでも買い手がつく保証はない。

鳩山政権には、発足後に直面する政策課題に取り組みつつ日本のグランドデザインを描くことを求めたい。政府がどこまで国民の安全、安心を支えるのか。そのために社会保障をどう立て直すのか。どれほどの財源が必要で、国民の負担はどのくらいか。

そういうものがあって、初めて財政健全化の目標が描ける。危機克服後の消費税率引き上げを軸とする増税が避けられないこともはっきりするだろう。こうした作業こそが子や孫に責任を負う政府の務めだ。

自民党政権では予算編成も長期的な財政ビジョンづくりも官僚が中心だった。だが官僚主導では変化の激しい時代に大きな方向転換ができなかった。民主党が掲げた「脱・官僚依存」はそうした時代の要請に応えるものだ。

これからは政治がたじろがずに負担増という厳しい選択肢を掲げ、国民に問いかけなくてはならない。

政党が選挙向けのポピュリズム競争に陥り、財源を顧みない政策で後の世代に巨額の付け回しを続けるのでは国が立ちゆかなくなる。すでに納税者はそのことに気づいている。

血税を国民生活の立て直しのために賢く使うとともに、未来への前進のためならいばらの道も避けないという覚悟が鳩山政権には要る。

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