11月の米大統領選で、不動産王ドナルド・トランプ氏が共和党候補の座を確実にした。民主党の候補指名が固まっているヒラリー・クリントン前国務長官と戦う構図となった。
政治経験のないアウトサイダーのトランプ氏は、党主流派を批判し、各州予備選で勝利を重ねた。トランプ氏の下で党が結束するのは難しいのではないか。本選でトランプ氏に投票しないと公言する主流派幹部も珍しくない。
上院議員や大統領夫人を務めたクリントン氏も、予備選で善戦するバーニー・サンダース上院議員の「反エスタブリッシュメント(既存の支配層)」の勢いに押され、党をまとめきれていない。
共和、民主両党とも、分裂選挙の危機に直面している。自党の支持者の票が相手の党の候補に大量に流れる可能性がある。党が主導する従来の大統領選とは全く違う展開が想定される。
トランプ氏は、全ての不法移民の強制送還や、イスラム教徒の入国の一時禁止を打ち出し、支持を広げる。社会の分断の深まりに乗じた主張と言えよう。
貿易自由化や移民流入で仕事を奪われた。経済格差が広がる。テロの危険も迫っている。そう感じる国民の増加が異例の事態の背景にある。既存の政治に対する不満を煽る手法では、ポピュリズムが台頭するだけではないか。
環太平洋経済連携協定(TPP)参加への反対も、自由貿易を重視する共和党の伝統的な立場と異なるが、幅広く受け入れられている。そうした「ねじれ」がトランプ旋風を生んだのは間違いない。
クリントン氏は、国務長官時代に私用のメールアドレスを公務に使った問題で好感度を下げた。
サンダース氏は、巨大金融機関を解体し、格差是正を断行すると訴える。クリントン氏が大企業から高額の講演料や献金を受け取っていると非難し、分断が進む。
このまま本選を迎えれば、サンダース氏を支援する若者らの造反を招きかねない。
懸念されるのは、選挙戦が過熱する中で、「内向き志向」が強まることである。
トランプ氏は、大統領になった場合、日韓、ドイツなどが自国に駐留する米軍の経費を全額負担するよう、求める考えを示した。
安倍首相は「誰が大統領になるにせよ、日米同盟の重要性がますます増している」と述べたが、話は噛み合っていない。同盟が日米双方の利益であることを確認する努力が求められよう。
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