駐留米軍撤退で「米国の利益」を捨てるのか トランプ氏の全額負担要求はおかしい

朝日新聞 2016年05月08日

米国大統領選 世界に目を向け論戦を

米大統領選は、民主党のクリントン氏と共和党のトランプ氏の対決になりそうだ。夏の両党の全国大会で正式に決まる。

両党とも候補選びは激戦になった。とくにトランプ氏の勝利は当初の想定外であり、世界が選挙の行方を注視している。

予備選・党員集会は党内での争いだったが、今後は両氏とも本選挙を見すえて本格的な政策づくりに入る。米国が担う重責をわきまえた理性的な政策の提示と論戦を望みたい。

多くの国々が懸念するのは、浮き彫りになった米国の内向き志向だ。トランプ氏は、難民や移民を嫌い、中東やアジアへの関与を重荷とみる発言が目立った。クリントン氏とともに、保護貿易に傾く姿勢もみせる。

テロの不安や財政難は、どの先進国にも難題だが、その対策には地道な国際社会の調整が欠かせない。米国が自国優先の思考ばかりに走れば、米国も世界もいっそう不安定になる。

そもそも米国は、グローバル化の旗手として人の移動や自由貿易を推進してきた。自ら広めた市場経済の世界で米国自身が内に閉じこもれるはずもない。

そうした現実を踏まえているのか、今も疑問符がつきまとうのがトランプ氏である。

雇用不安や格差の拡大など、政治への大衆の怒りは大きい。トランプ氏は、そうした人々の留飲を下げる言動で人気を集めることには成功したが、実際に効果のありそうな政策はほとんど何も語ってこなかった。

日本などとの同盟関係については、駐留米軍の費用を同盟国の全額負担にするよう一方的に求めている。日韓の核武装までも容認するような暴言からは、米軍の最高司令官にふさわしい分別はうかがえない。

共和党は正念場にある。本当に国家元首の候補に立てるのなら、トランプ氏を現実的な政策へ誘導する義務がある。党の分裂を恐れるあまり、国民を分断する扇動を黙認するようでは、責任ある政党とは言えない。党の再建は、同氏とのまっとうな政策調整から始めるべきだ。

一方のクリントン氏は当初から本命視されていたものの、やはり内向きな発言が目立った。国務長官時代に推進した環太平洋経済連携協定(TPP)について、反対に転じたのは選挙向けの戦術とみる向きが多い。

大統領に求められる資質は、国民が聞きたい言葉を語ることではなく、国民を導く賢明なビジョンを説くことだ。秋の選挙まで残る6カ月は、米国と世界の未来を見すえた実りある政策論議を展開してもらいたい。

読売新聞 2016年05月07日

米大統領選 党分断に直面する共和と民主

11月の米大統領選で、不動産王ドナルド・トランプ氏が共和党候補の座を確実にした。民主党の候補指名が固まっているヒラリー・クリントン前国務長官と戦う構図となった。

政治経験のないアウトサイダーのトランプ氏は、党主流派を批判し、各州予備選で勝利を重ねた。トランプ氏の下で党が結束するのは難しいのではないか。本選でトランプ氏に投票しないと公言する主流派幹部も珍しくない。

上院議員や大統領夫人を務めたクリントン氏も、予備選で善戦するバーニー・サンダース上院議員の「反エスタブリッシュメント(既存の支配層)」の勢いに押され、党をまとめきれていない。

共和、民主両党とも、分裂選挙の危機に直面している。自党の支持者の票が相手の党の候補に大量に流れる可能性がある。党が主導する従来の大統領選とは全く違う展開が想定される。

トランプ氏は、全ての不法移民の強制送還や、イスラム教徒の入国の一時禁止を打ち出し、支持を広げる。社会の分断の深まりに乗じた主張と言えよう。

貿易自由化や移民流入で仕事を奪われた。経済格差が広がる。テロの危険も迫っている。そう感じる国民の増加が異例の事態の背景にある。既存の政治に対する不満をあおる手法では、ポピュリズムが台頭するだけではないか。

環太平洋経済連携協定(TPP)参加への反対も、自由貿易を重視する共和党の伝統的な立場と異なるが、幅広く受け入れられている。そうした「ねじれ」がトランプ旋風を生んだのは間違いない。

クリントン氏は、国務長官時代に私用のメールアドレスを公務に使った問題で好感度を下げた。

サンダース氏は、巨大金融機関を解体し、格差是正を断行すると訴える。クリントン氏が大企業から高額の講演料や献金を受け取っていると非難し、分断が進む。

このまま本選を迎えれば、サンダース氏を支援する若者らの造反を招きかねない。

懸念されるのは、選挙戦が過熱する中で、「内向き志向」が強まることである。

トランプ氏は、大統領になった場合、日韓、ドイツなどが自国に駐留する米軍の経費を全額負担するよう、求める考えを示した。

安倍首相は「誰が大統領になるにせよ、日米同盟の重要性がますます増している」と述べたが、話はみ合っていない。同盟が日米双方の利益であることを確認する努力が求められよう。

産経新聞 2016年05月07日

駐留米軍撤退で「米国の利益」を捨てるのか トランプ氏の全額負担要求はおかしい

米大統領選で共和党候補の指名獲得を確実にしたトランプ氏が、日本など同盟国に駐留米軍経費の全額負担を求める考えを表明した。

米軍が日本や韓国、ドイツを守っていることに見合ったものを得ていないとし、要求に応じなければ米軍撤退を検討するという。

米国が日本を含むアジア太平洋地域の平和と安定を守る。それは、日米同盟そのものの意義であると同時に、米国自身の国益である。駐留米軍が、単に日本を守る傭兵(ようへい)のようなとらえ方は、根本的な間違いである。

トランプ氏のような主張は、米国が中心となって築き上げた戦後の国際秩序に混乱をもたらす。同時に、自由と民主主義の価値観を共有する諸国との関係をも破壊することになりかねない。

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