水俣病60年 「脱水銀」で世界に貢献したい

朝日新聞 2016年05月01日

水俣病60年 解決遠い「公害の原点」

「公害の原点」とも言われる水俣病が公式確認されてから、きょうで60年になる。だが、被害者らの多くが「問題は解決していない」と考えている。

熊本学園大の水俣学研究センターと朝日新聞が行った認定患者や被害者への「60年アンケート」でも、回答者2610人の3分の2がそう答えた。

救済から漏れた被害者の存在や不十分な国の制度、年を重ねるにつれ悪化する症状と、アンケートからは被害を受けた人々の不満や不安が伝わってくる。

なぜ解決できないのか。認定患者をできるだけ増やさないようにしてきた政府の姿勢が、真っ先に問われる。

1977年に認定基準を狭めて以降、感覚障害だけの患者がなかなか認定されなくなった。

その結果、チッソが原因企業の熊本、鹿児島両県の認定患者は2280人にとどまる。被害の救済より、補償金を払うチッソの経営に配慮してきたと見られても仕方がない。

認定されない人々は、損害賠償を求めて次々に提訴した。このため、政府は95年、2009年と2度にわたる政治決着で、「患者」と区別する「被害者」と位置づけ、一時金支給などの救済策を実施した。

対象者は、最初の政治決着が約1万人、2度目は約3万6千人。その他、医療費などを受けた人も含めると、被害者は7万人超にまで膨れ上がった。

一方で、2度目の救済からは約9600人が漏れた。対象地域や年齢の設定が狭すぎた、と専門家から批判が出ている。

さらに、認定申請者はいまも2100人を超え、1300人が国や熊本県、チッソに損害賠償を求める裁判を続けている。

被害の広がりの全容をつかむには、発生地域周辺で、広く住民の健康調査をするしかない。

それなのに政府はこれまで、時間の経過などを理由に調査を拒んできた。だが、どんな症状がどの範囲で発生しているかは今でも十分把握が可能だ。

アンケートでは「『今さら金をもらおうとしている』と陰口を浴びせられた」など、本人や家族が差別や偏見を体験した人が3割に上った。差別が残るのも、政府が実態を直視せず、事実を住民に周知してこなかったことが一因ではないか。

60年を経てなお、不知火海周辺に水俣病の「深い闇」が広がる。政府は徹底的に潜在する被害を掘り起こすべきだ。

その結果をもとに、現行の認定制度や救済策を総合的に見直すことこそ、水俣病問題の根本解決には欠かせない。

読売新聞 2016年05月01日

水俣病60年 「脱水銀」で世界に貢献したい

公害の原点である水俣病の公式確認から、1日で60年を迎えた。悲惨な被害を繰り返さぬよう、環境保全の重要性を再認識する機会としたい。

水俣病は、有機水銀による神経系の中毒症状だ。熊本県水俣市にあるチッソの工場からの排水により、八代海の魚介類が汚染され、それを食べた住民が発症した。

水俣病患者の苦悩を描いた石牟礼道子さんの代表作「苦海浄土」や米国人写真家ユージン・スミス氏の作品などによって、国内外に被害の実態が知れ渡った。

1977年に環境庁(当時)が認定基準を示した。手足の感覚障害や視野狭窄きょうさくなど、特徴的な症状が組み合わさっていることが認定の条件とされた。

チッソから補償金などが支払われる認定患者は約2300人だ。それよりはるかに多くの人たちが認定申請を退けられてきた。

被害者たちが患者認定や損害賠償を求める訴訟を相次いで提起した。公式確認からの60年は、争いの歴史だったとも言えよう。

最高裁は、環境省よりも緩やかな基準で、被害者を水俣病と認めた。行政と司法の二重基準が事態を複雑にした。未認定の被害者に一時金などを支払う救済策も、2度にわたり実施されたが、あくまで認定を求める人は今も多い。

環境省は、高齢化する被害者の介護体制の整備など、可能な限りの支援に努めねばならない。

水俣病を教訓に、国内では「脱水銀」の取り組みが進んできた。水銀を使わない化学製品の合成方法が開発された。体温計や乾電池からも、水銀が姿を消した。蛍光灯などでも、出来るだけ早く水銀ゼロを達成したい。

途上国では、今も水銀被害が発生している。深刻なのは、小規模な金採掘現場だ。鉱石から金を抽出する際に水銀が使われている。子供を含む作業員が、熱して蒸気になった水銀を大量に吸うことで、中毒症状が多発している。

「水銀に関する水俣条約」が、日本政府の主導で2013年に採択された。年内にも発効する。水銀含有製品の製造や輸出入を20年までに原則禁止し、水銀鉱山の新規開発も禁じることが柱だ。

水銀被害を世界的に根絶するためには、条約を有効に機能させることが重要である。先進国が、資金・技術面で途上国を支援していく必要もあるだろう。

日本は、汚染状況の監視や水質、大気の浄化などの面で優れた技術を持つ。これらを途上国に提供することは有意義な国際貢献だ。

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