「公害の原点」とも言われる水俣病が公式確認されてから、きょうで60年になる。だが、被害者らの多くが「問題は解決していない」と考えている。
熊本学園大の水俣学研究センターと朝日新聞が行った認定患者や被害者への「60年アンケート」でも、回答者2610人の3分の2がそう答えた。
救済から漏れた被害者の存在や不十分な国の制度、年を重ねるにつれ悪化する症状と、アンケートからは被害を受けた人々の不満や不安が伝わってくる。
なぜ解決できないのか。認定患者をできるだけ増やさないようにしてきた政府の姿勢が、真っ先に問われる。
1977年に認定基準を狭めて以降、感覚障害だけの患者がなかなか認定されなくなった。
その結果、チッソが原因企業の熊本、鹿児島両県の認定患者は2280人にとどまる。被害の救済より、補償金を払うチッソの経営に配慮してきたと見られても仕方がない。
認定されない人々は、損害賠償を求めて次々に提訴した。このため、政府は95年、2009年と2度にわたる政治決着で、「患者」と区別する「被害者」と位置づけ、一時金支給などの救済策を実施した。
対象者は、最初の政治決着が約1万人、2度目は約3万6千人。その他、医療費などを受けた人も含めると、被害者は7万人超にまで膨れ上がった。
一方で、2度目の救済からは約9600人が漏れた。対象地域や年齢の設定が狭すぎた、と専門家から批判が出ている。
さらに、認定申請者はいまも2100人を超え、1300人が国や熊本県、チッソに損害賠償を求める裁判を続けている。
被害の広がりの全容をつかむには、発生地域周辺で、広く住民の健康調査をするしかない。
それなのに政府はこれまで、時間の経過などを理由に調査を拒んできた。だが、どんな症状がどの範囲で発生しているかは今でも十分把握が可能だ。
アンケートでは「『今さら金をもらおうとしている』と陰口を浴びせられた」など、本人や家族が差別や偏見を体験した人が3割に上った。差別が残るのも、政府が実態を直視せず、事実を住民に周知してこなかったことが一因ではないか。
60年を経てなお、不知火海周辺に水俣病の「深い闇」が広がる。政府は徹底的に潜在する被害を掘り起こすべきだ。
その結果をもとに、現行の認定制度や救済策を総合的に見直すことこそ、水俣病問題の根本解決には欠かせない。
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