ハンセン病法廷 差別的運用が偏見を助長した

朝日新聞 2016年04月26日

ハンセン病 司法の差別、決着せぬ

「人権の砦(とりで)」たる最高裁として、これで問題が決着したといえるのだろうか。

ハンセン病患者の裁判がかつて、隔離された「特別法廷」で開かれていたことをめぐり、最高裁はきのう、元患者らに「患者の人格と尊厳を傷つけたことを深く反省し、お詫(わ)びする」と謝罪した。

裁判を隔離した判断のあり方は差別的だった疑いが強く、裁判所法に違反すると認めた。最高裁が司法手続き上の判断の誤りを認めて謝罪するのは極めて異例であり、検証作業をしたこと自体は評価できるだろう。

だが、注目された違憲性の判断に関しては、憲法上の「裁判の公開」の原則には反しない、と結論づけた。

果たしてハンセン病への差別や偏見に苦しめられてきた元患者や家族に受け入れられる判断だろうか。

同時に公表された最高裁の有識者委員会の意見は、憲法上の二つの点で疑問を突きつけている。まず、法の下の平等に照らして特別法廷は「違反していたといわざるを得ない」と断じている。さらに裁判の公開原則についても「違憲の疑いは、なおぬぐいきれない」とした。

すでに05年、厚生労働省が設けた検証会議も、同様の憲法上の問題点を指摘していた。それを長く放置してきた最高裁が出した今回の判断は、たび重なる指摘に正面から答えたとは言いがたい。

検証会議はこの時、ハンセン病患者とされた熊本県の男性が殺人罪に問われ、無実を訴えながら死刑執行された「菊池事件」にも言及していた。男性が裁かれた特別法廷について、「いわば『非公開』の状態で進行した」と指摘していた。

事件の再審を求める弁護団や元患者らが、特別法廷の正当性の検討を最高裁に求めて始まったのが今回の検証だった。それだけに元患者団体は「自らの誤りを真摯(しんし)に認めることを強く求める」と、違憲性を認めなかったことに反発している。

今回の最高裁の検証では、「裁判官の独立」を理由に、個別の事件の判断は避けられた。だが、手続きに問題があれば、裁判そのものに疑いが生じかねない。本来なら個別事件も検証し、被害救済や名誉回復まで考慮すべきだろう。今後、再審請求があれば、裁判所は真剣に対応すべきだ。

差別や偏見のない社会に少しでも近づけるために、今回の検証をどう役立てるのか。謝罪を超え、最高裁はさらにその責任を負い続けなくてはならない。

読売新聞 2016年04月26日

ハンセン病法廷 差別的運用が偏見を助長した

人権侵害を正すべき裁判所が、ハンセン病患者への差別を助長した。司法の汚点である。

ハンセン病患者が当事者の裁判を隔離施設の特別法廷で行ったことについて、最高裁が調査報告書をまとめた。「ハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけた」と謝罪した。

1996年に、らい予防法が廃止されるまで強制隔離政策を続けた政府と、法の廃止を怠った国会は、2001年に謝罪している。三権のうち、残る司法が、遅きに失したとはいえ、過ちを認めたのは、大きな節目である。

憲法は、公開の法廷で裁判を行うよう定めている。

これに基づき、裁判所法は、最高裁が必要と判断した場合に限り、裁判所以外での開廷を認めている。裁判所が被災するなど例外的なケースを想定したものだ。

地裁や高裁が最高裁に提出したハンセン病患者関連の特別法廷の設置申請は、48~72年に96件に上る。最高裁はこのうち95件で設置を認めた。特効薬の普及などで隔離の必要はなくなったとされる60年以降も、27件が開廷された。

ハンセン病以外の疾患を理由とする申請の認可率は15%にとどまる。報告書が、遅くとも60年以降の運用について、「裁判所法に違反すると言わざるを得ない」と結論付けたのは、当然である。

60年以前を含め、最高裁がいわば機械的に特別法廷の設置を認めていたことは間違いあるまい。

検証に際し、最高裁は有識者委員会に意見を求めた。

特別法廷の設置を巡る最高裁の運用について、有識者委は、憲法が保障する法の下の平等に違反すると指摘した。裁判の公開原則の観点からも、違憲の疑いが拭いきれないとの見方を示した。

これに対し、最高裁は「合理性を欠く取り扱い」だったなどと認定したものの、明確な憲法判断には踏み込まなかった。一方で、療養所の正門に開廷を告示したことなどは、公開の要請を念頭に置いた対応だったと評価した。

社会と隔絶された施設で開廷することが公開の要請を満たしていると言えるのか、疑問である。

裁判官の独立を尊重するため、特別法廷で審理された判決内容の是非については、検証の対象外となった。それはやむを得ないとしても、特別法廷という異例の場で公正な裁判が行われたのか、元患者らの疑念は根強い。

差別的運用により、裁判への信頼が損なわれた。そのことに対する最高裁の責任も重い。

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