人権侵害を正すべき裁判所が、ハンセン病患者への差別を助長した。司法の汚点である。
ハンセン病患者が当事者の裁判を隔離施設の特別法廷で行ったことについて、最高裁が調査報告書をまとめた。「ハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけた」と謝罪した。
1996年に、らい予防法が廃止されるまで強制隔離政策を続けた政府と、法の廃止を怠った国会は、2001年に謝罪している。三権のうち、残る司法が、遅きに失したとはいえ、過ちを認めたのは、大きな節目である。
憲法は、公開の法廷で裁判を行うよう定めている。
これに基づき、裁判所法は、最高裁が必要と判断した場合に限り、裁判所以外での開廷を認めている。裁判所が被災するなど例外的なケースを想定したものだ。
地裁や高裁が最高裁に提出したハンセン病患者関連の特別法廷の設置申請は、48~72年に96件に上る。最高裁はこのうち95件で設置を認めた。特効薬の普及などで隔離の必要はなくなったとされる60年以降も、27件が開廷された。
ハンセン病以外の疾患を理由とする申請の認可率は15%にとどまる。報告書が、遅くとも60年以降の運用について、「裁判所法に違反すると言わざるを得ない」と結論付けたのは、当然である。
60年以前を含め、最高裁がいわば機械的に特別法廷の設置を認めていたことは間違いあるまい。
検証に際し、最高裁は有識者委員会に意見を求めた。
特別法廷の設置を巡る最高裁の運用について、有識者委は、憲法が保障する法の下の平等に違反すると指摘した。裁判の公開原則の観点からも、違憲の疑いが拭いきれないとの見方を示した。
これに対し、最高裁は「合理性を欠く取り扱い」だったなどと認定したものの、明確な憲法判断には踏み込まなかった。一方で、療養所の正門に開廷を告示したことなどは、公開の要請を念頭に置いた対応だったと評価した。
社会と隔絶された施設で開廷することが公開の要請を満たしていると言えるのか、疑問である。
裁判官の独立を尊重するため、特別法廷で審理された判決内容の是非については、検証の対象外となった。それはやむを得ないとしても、特別法廷という異例の場で公正な裁判が行われたのか、元患者らの疑念は根強い。
差別的運用により、裁判への信頼が損なわれた。そのことに対する最高裁の責任も重い。
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