井山七冠 囲碁界の「底上げ」目指せ

読売新聞 2016年04月21日

井山棋聖七冠 囲碁史に刻んだ新たな偉業

日本の囲碁の歴史に偉大な一歩が刻まれた。

井山裕太棋聖が十段位を3勝1敗で奪取した。26歳の若さで、棋聖、名人、本因坊など七大タイトルを独占するという空前の快挙を成し遂げた。

「うれしいが、さらに精進しなければならない」との発言には、あくなき向上心がにじむ。

囲碁を覚えたのは、5歳の時、テレビゲームを通じてだったという。小学生の時からプロを目指し、遠方に住む師匠からインターネット対局で指導を受けるなど、現代的な修業も経験している。

2009年、最年少の20歳で名人に就いたほか、13年には六冠を獲得し、「史上初」の記録を次々と塗り替えた。昨年7月から先週の十段戦第3局で敗れるまで、タイトル戦で18連勝し、第一人者として不動の地位を築いている。

中盤の構想力に優れ、スケールの大きい戦略を棋風とする。常人が予想しない独創的な手を打ち、一気に勝利することもある。

前人未到の七冠を達成できたのは、希有けうの才能だけでなく、常に最善の一手を追求する真摯しんしな姿勢や、たゆまぬ努力、強靱きょうじんな精神力があったからだろう。

今後、求められるのは、世界を舞台にした活躍である。

約70か国・地域の4000万人が愛好する囲碁の世界戦では、20年前は日本がリードしていたが、近年は、若手の育成に熱心な中国と韓国の後塵こうじんを拝している。

井山棋聖は13年に、世界戦の一つを制した。日本囲碁界の発展のため、さらに飛躍してほしい。

将棋界では、1996年に羽生善治名人が七冠を獲得し、一大ブームを巻き起こした。

井山棋聖の七冠達成で、推定310万人と言われる日本の囲碁人口の拡大も期待される。

東京大学や早稲田大学などでは囲碁が授業科目に取り入れられて、プロ棋士らが指導している。総合学習の時間などに囲碁を教える小学校も増えている。集中力や論理的な思考力を身につけさせるのが目的である。

こうした取り組みを充実させれば、ファン層を広げ、全体の棋力を高めることにもつながろう。

先月には人工知能が韓国のトップ棋士に圧勝し、関係者に衝撃を与えた。だが、コンピューター技術が発達しても、囲碁が奥の深い文化であることは変わらない。

黒と白の石で陣地取りをする単純なルールながら、古今、数々の名勝負が生み出されてきた。その魅力を次世代に伝えたい。

産経新聞 2016年04月21日

井山七冠 囲碁界の「底上げ」目指せ

囲碁の十段戦五番勝負(産経新聞社主催)で、井山裕太六冠が3勝を挙げて十段位を奪還、各新聞社などが主催する「七大棋戦」全てのタイトルを手に入れた。

一人の棋士が同時に七冠となるのは囲碁界初の快挙である。26歳の若き七冠の誕生で、囲碁愛好家やファンが一段と増えることを期待したい。

井山七冠は幼少のときから「天才」と言われてきたが、20歳で初の名人位を獲得、それからわずか6年で同時七冠を達成した。

日本棋院、関西棋院合わせて500人近くのプロ棋士がいる中でのタイトル独占である。しかも最近の棋戦は、ほとんど連勝で勝ち抜いており、素人には計り知れないような強さである。

読みの深さ、状況判断の正確さに加え、立て続けの棋戦を戦い抜く気力と、どれをとってもずば抜けている。さらに研究熱心さでも他の棋士に負けないという。改めて祝意と敬意を表したい。

とはいえ、注文したいこともある。他の棋士たちの奮起だ。

近代の日本の囲碁界では、呉清源-木谷実、坂田栄男-藤沢秀行、小林光一-趙治勲といったライバルが盤上で火花を散らした。近年でも、山下敬吾九段ら「平成の四天王」と呼ばれた、井山七冠より少し上の世代がタイトルを奪いあってきた。

そのことが囲碁界のレベルを高め、囲碁ファンを魅了してきたのである。だが井山七冠の誕生で、「1強多弱」となると、そうした競争が失われる恐れは強い。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2484/