千葉県市川市で今年度に開園予定だった保育園が、近隣住民の反対で取りやめになった。住民との調整が難航して開園が遅れる例はこれまでもあったが、計画が中止になるのは異例だ。
ほかに神奈川県茅ケ崎市や東京都調布市でも、同様に建設が取りやめになった。保育園の整備は急務だけに住民側が批判的に見られがちだが、経緯を見ると住民の声をしっかり聞かないまま計画が進み、対話が不十分だという問題点が浮かぶ。
市川市の場合、事業者が市に認可保育園整備の申請をしたのは昨年3月。近所の住民への説明が本格化したのは、着工直前の9月になってからだった。
建設予定地は住宅街で道幅も狭く、車が通る際は人が路肩に身を寄せる。地元から「危ないのでは」との声が上がったが、事業者は「市の許可はもらっている」との姿勢だったという。
地域からの要望を受けてようやく10月に説明会が開かれたが、すでに住民との対立は深まっていた。結局、話し合いは3回。「このままでは自分たちの声が届かないまま施設が作られると思い、反対した」。住民からはそんな声も聞かれる。
待機児童問題を受け各自治体は急ピッチで施設整備を進めている。適地が限られるなか、以前なら候補にならなかったような場所での計画が増えているとの指摘もある。より慎重な対応と十分な話し合いが求められるが、開園を急ぎすぎたきらいはなかったか。
1年近く話し合いを重ねて、地域と保育園が良好な関係を築いた例もある。市川市も今後、保育園整備の申請前に近隣住民に周知し、説明するよう手続きを改めるという。早い段階から住民と対話を重ね、計画に反映させれば、トラブルを減らすことができるのではないか。
自治体の役割も忘れてはなるまい。保育園整備は自治体が地域の保育ニーズを踏まえて進めており、補助金も出している。市町村にも自ら住民に説明を尽くし、理解を求める責任があるはずだ。事業者と住民に任せきりにせず、積極的に調整役を果たすことが必要ではないか。
トラブルになったケースや話し合いで解決できた事例などの情報を自治体間で共有すれば、今後の整備にも役立つだろう。
保育園は建ったら終わりではない。地域との良好な関係は、健やかな育ちの環境を子どもたちに用意するという観点からも欠かせない。
丁寧な説明と真摯(しんし)な話し合いで、地域に根ざした保育園の整備を進めてほしい。
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