北方領土問題の進展には、ロシアと高いレベルの対話を粘り強く続けることが欠かせない。
岸田外相が、来日したロシアのラブロフ外相と会談し、5月上旬にロシア南部ソチで日露首脳会談を行う方向で準備を進めることで一致した。
岸田氏は共同記者会見で、北方領土問題について「双方に受け入れ可能な解決策を作成すべく、交渉に弾みを与える前向きな議論が行えた」と強調した。
ラブロフ氏は「対話を継続する用意がある」と応じた。昨年9月の外相会談後、領土問題を議題としたことさえ一方的に否定した硬直的な態度と比べれば、柔軟姿勢を示したと言えよう。
昨年秋以降は、議員交流や高官協議が続いており、日露外交の雰囲気自体は悪くない。
プーチン大統領も、「米国を中心とする圧力にもかかわらず、日本は(対露)関係を維持しようとしている」と記者団に述べ、安倍首相のソチ訪問を歓迎した。領土問題についても、「いつか妥協できる」と語っている。
無論、ロシアが領土問題で軟化していると見るのは早計だ。
ラブロフ氏は来日前、一部メディアに対し、1956年の日ソ共同宣言について「平和条約交渉で領土問題を検討するとは書かれていない」などと主張した。
4島の帰属問題の解決が条約締結の前提とした2001年のイルクーツク声明など、過去の合意に反しており、容認できない発言だ。声明はプーチン氏自身が署名したことも踏まえるべきである。
領土問題の解決には、両首脳の強い意志と決断が求められる。
2人の任期はいずれも18年までだ。安倍首相の訪露後、プーチン氏の来日を実現し、相互往来を重ねる中で、合意の糸口を探ることが重要である。その環境整備を着実かつ戦略的に進めたい。
留意すべきは先進7か国(G7)の足並みを乱さないことだ。
ウクライナ情勢を巡ってロシアと対立するオバマ米大統領は、2月の首相との電話会談で、首相の訪露に懸念を伝え、延期を求めた。首相は「ロシアとの平和条約も大事だ。ロシアとの対話を続けねばならない」と反論した。
首相は今月上旬、ウクライナのポロシェンコ大統領と会談し、経済支援の継続を約束した。
5月に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を控え、ウクライナ情勢の改善と日露関係の進展の両立を目指す日本の立場を説明し、米欧の理解を得る必要がある。
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