年金改革 具体案急ぎ与野党協議を

朝日新聞 2010年03月09日

年金改革 社会保障全体で考えよう

民主党が政権公約に掲げていた「新たな年金制度の創設」に向けた政権内の議論が、ようやく動き出した。

鳩山由紀夫首相が自ら率いる検討会で基本的な考えをまとめるという。

年金改革は積年の国民的課題だ。中途半端な取り組みではいけない。参院選の主要な争点とするほどの覚悟をもって作業を急ぎたい。

民主党はこれまでに月額7万円の「最低保障年金」を創設し、所得比例年金と組み合わせるという方式を提案してきたが、具体的な制度設計はまだ白紙に近い。

最低保障年金については、現在の基礎年金のように一律に支給するのか、それとも所得が比較的高い人々を除外するのか。連立与党内でも、考え方はまちまちだ。

改革によって自分の年金はどうなるのか、そのために必要な負担はどれだけなのか。私たち国民が知りたいのは、具体的な中身である。

参院選に向けて、検討会を年金改革に取り組んでいる姿勢をアピールする場にできればいい、という狙いがあるとすれば論外だ。本気で取り組んで欲しい。

年金制度は長期にわたる国民との約束事だ。政権交代の度に制度が変わるようなことになれば、大きな混乱と不安を生む。

自民党など野党も、今の年金制度では生活保障の役割が担い続けられないのではないか、といった問題意識は共有している。いずれ、与野党の対立を超えて協議ができる場をつくり、多くの国民が納得する解決策を見いだしていく取り組みが必要になるだろう。

当面の争点として参院選で各党が競ってほしいのは、年金制度それ自体の未来図だけにとどまらない。

医療崩壊を防いだり、介護・少子化対策に力を入れたりすることは待ったなしだ。それらの費用がさらに膨らむことを前提に、年金を含む社会保障全体をどう強化したら安全で安心できる社会をつくることができるのか。各党から聞きたいのはそうした全体像だ。

自公政権下の社会保障国民会議は、今後増える医療や介護などの費用をまかなうだけでも、消費税率に換算して5%程度の財源が必要になると試算したことがある。

民主党は、かつて年金改革の財源確保のため、消費税の3%引き上げが必要だとしていた。いまはその点をあいまいにしたまま、子ども手当の創設や後期高齢者医療制度の廃止へ進もうとしている。そろそろ整合性をもった国民への説明が要る。

たとえ年金が充実されても、それだけでは安心にはつながらない。

財源をいかに確保するのか。それを社会保障の様々な分野にどう振り向けるのか。逃げてはならない課題だ。

読売新聞 2010年03月11日

年金制度改革 超党派で議論し合意形成を

年金制度改革に着手するため、政府は「新年金制度に関する検討会」を発足させた。職業によって違う年金制度を一元化する、といった基本原則を5月をめどに示す方針だ。

民主党の政権公約で、年金制度改革は政権3年目以降とされていた。参院選をにらんだアピールの側面はあるにせよ、前倒しで取り組むこと自体は評価できよう。

鳩山首相は、政府・与党で原案を固めてから野党に協議を呼びかける考えだ。だが、与党内で時間を費やすより、舞台を早く超党派協議の場に移すべきだろう。

与野党が同じテーブルに着くことは十分に可能である。将来も保険料方式を基本とすることでは、ほぼ一致しているからだ。

現行制度は公務員、会社員と自営業者で年金制度が別になっている。制度の複雑さが保険料の未納を助長し、年金をほとんどもらえない高齢者が増えつつある。

解決策として民主党は、国民共通の所得比例年金を創設し、受け取り月額が7万円以上になるように、最低保障年金を消費税財源で上乗せする案を掲げている。

かつて民主党は、税で手当てする最低保障年金を強調し、現行の保険料方式を全額税方式に転換するかのように印象づけていた。

しかし、昨年の総選挙からは説明を変えた。保険料による所得比例年金が基本であり、最低保障年金は補完と位置づけている。

対して野党は、公明党が現行制度を改善する形で、低所得高齢者に加算年金を上積みする案を唱えている。自民党も公明党に近い考え方が主流と見られる。

両者の主張は、対立するものではない。

民主党の構想でも40年程度は移行期間が要る。この間は新旧の制度が併存するため、現に生じている無年金・低年金者を救うには、公明党などが主張する現行制度の手直しもまた不可欠だ。

年金改革については読売新聞など言論機関や財界、労働界から多くの提言が出ている。これも生かして、超党派で合意形成を図ってもらいたい。

議論の大前提として避けられないのは、財源問題である。

長妻厚生労働相は「新制度への移行が進むまで最低保障年金に大きな財源は要らず、すぐに消費税を上げなくてもいい」と言う。

これは詭弁(きべん)に近い。移行期間に併存する現行制度の手直しには、兆単位の財源がただちに必要になる。消費税の議論を切り離して年金改革はできまい。

産経新聞 2010年03月09日

年金改革 具体案急ぎ与野党協議を

年金制度の抜本改革を議論する政府の関係閣僚検討会が、鳩山由紀夫首相を議長にスタートした。消費税を財源とする月額7万円の「最低保障年金」と保険料からなる「所得比例年金」を組み合わせた改革案を基に、5月をめどに新制度の基本原則をまとめる。

年金制度は国民との長期契約である。政権交代のたびに制度が大きく変わったのでは国民を混乱させるだけだ。肝心なことは、いかに持続性の高い制度を作るかだ。そのためには、党派を超えた政策合意が前提となる。国会に超党派の協議機関を早急に立ち上げ、与野党が歩み寄る形で議論を進める必要がある。

民主党は国政選挙のたびに年金改革を争点に掲げてきた。ところが、これまでは「野党なので制度設計に必要なデータを得ることが難しい」などとして、改革案の細部を明らかにしてこなかった。最低保障年金の対象となる年収水準や、将来の負担や給付水準もいまだにはっきりしない。そもそも現行方式の全面見直しがなぜ必要なのか、その説明も必要だ。

与党となった以上は、制度の具体像を明確にし、国民の疑問に答える義務がある。政府として民主党案の具体的検討に着手したことの意味は大きいが、「基本原則」といわず、制度の精緻(せいち)な設計図を早急に示さなければならない。

一方、自民党も具体的な改革案を急ぐべきだ。野党に転じたからといって、抵抗ばかりでは始まらない。国民の利益を守るための建設的な議論を期待したい。

制度設計にあたっては、財源論を避けては通れない。最低保障年金にはいくら必要なのか。消費税を年金だけに使うわけにはいかない。医療や介護、少子化対策を含む社会保障制度全体で、どの程度の税率引き上げが必要となるのか。鳩山政権は同時に検討を進める必要があろう。

新制度を作るにしても、完全移行までの数十年間は現行制度との並存となる。基礎年金の国庫負担分を「2分の1」に引き上げる財源をはじめ、現行制度で生じている課題も鳩山政権の責任で解決していかなくてはならない。

閣僚検討会の結論は、与野党協議の「たたき台」となるものだ。鳩山政権は改革法案を平成25年度までに成立させる方針だが、与野党は大局的見地に立ち、多くの国民が納得できる最終案をまとめなければならない。

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