犯行を自白した取り調べの映像が、有罪の立証に重要な役割を果たしたということだろう。
2005年に栃木県今市市(現日光市)の小学1年の女児が殺害された事件の裁判員裁判で、宇都宮地裁は、被告の33歳の男に、検察側の求刑通り無期懲役を言い渡した。
争点は、被告の自白が信用できるかどうかだった。
判決は「殺害状況を具体的に供述し、内容も迫真性に富んでいる。取調官による誘導を受けた形跡もない」として、信用性を認定した。裁判員が自白を決め手に、有罪を導いたことがうかがえる。
物証に乏しい事件だった。判決も、被告が運転する車の通行記録などの状況証拠だけでは「犯人だと認定できない」と指摘した。捜査段階で殺害を認めた被告は、公判で否認し、無罪を訴えた。
検察は、自白の任意性や信用性を立証するため、取り調べのやりとりを録音・録画した映像を、法廷で再生した。
判決は「殺人について聞かれた当初の被告の激しく動揺した様子は、あらぬ疑いをかけられたとしては、極めて不自然」との見方を示した。裁判員が有罪の心証を固める上で、映像が根拠の一つになったのは間違いない。
取り調べの録音・録画には、捜査過程をガラス張りにし、冤罪を防ぐ一定の効果があるだろう。同時に、検察にとっても、立証上のメリットが小さくないことが裏付けられたのではないか。
裁判員裁判対象事件などで取り調べの全過程の録音・録画を義務づけた刑事司法改革関連法案の審議が近く、参院で再開される。成立後は適正運用が求められる。
取り調べ映像を裁判で用いる場合には、裁判員の負担を考慮する必要がある。今回、映像の再生は7時間以上にも及んだ。公判前に争点を整理する手続きで、立証に必要な映像に絞るといった目配りが欠かせない。
この事件では、遺体の付着物から検出したDNA型の中に、捜査幹部のものが誤って混入し、捜査が難航する一因になった。物証を収集する重要性を、警察・検察は改めて肝に銘じてもらいたい。
被害者の女児は、下校途中で行方不明となり、翌日、山林で遺体が見つかった。事件後、地元の自主防犯組織は、通学路の見守りを続けているという。
子供が凶悪事件に巻き込まれる悲劇は後を絶たない。警察、学校、地域住民が連携して、子供の安全を守る努力を重ねたい。
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