障害の有無を問わず、誰もが個性を尊重し合う暮らしやすい社会を実現する。そうした意識と行動を国民全体に根付かせる契機としたい。
障害者差別解消法が今月、施行された。行政機関や民間事業者に対し、不当な差別的扱いを禁じるとともに、障害者を手助けする「合理的配慮」を求めている。
日本が2007年に署名し、14年に批准した国連の障害者権利条約に沿った内容だ。既に約160か国・地域が締結している。
障害を理由にサービスの提供を拒否・制限したり、介助者同伴などの条件をつけたりする行為が、差別的扱いに該当する。
「合理的配慮」とは、障害者が直面する様々な障壁を取り除くため、負担が過重にならない範囲で対応することを意味する。
車いす利用者のためにスロープを設置するのが典型例だ。視覚・聴覚障害者のために点字資料や手話通訳を用意するなど、障害者の身になったきめ細かな取り組みを可能な限り広げたい。
健常者と全く同様に対処するだけでは、平等にならない場合も多い。移動や意思疎通を支える手段がなければ、障害者の行動は制約される。「合理的配慮」をしないのも差別に当たると明確にしたのは、新法の大きな特徴だ。
新法は、行政機関に「合理的配慮」を義務付けた一方、事業者については努力義務とした。
ただ、交通機関や商業施設など、障害者が日常生活で接する事業者の対応が不十分では、新法の実効性は限られる。前向きな取り組みが望まれる。
国内の障害者は788万人に上る。高齢化の進展で今後、さらに増えるのは確実だ。障害者に対応したサービスや製品を提供していくことは、企業のイメージアップにとどまらず、経営上の大きなメリットになるだろう。
差別が絡むトラブルの解決には課題が残る。新法では、関係機関が連携してトラブル防止や解決の支援に当たる地域協議会の設置を自治体に促している。
都道府県での設置は進むものの、市町村では遅れ気味なのが現状だ。差別解消には、身近な生活圏での対処が重要である。
新法の成立から3年近くが経過したが、その趣旨が社会に浸透しているとは言い難い。
障害者に配慮したバリアフリー化の推進は、高齢者や子供連れの人にも恩恵が及ぶ。20年には東京パラリンピックも控える。政府は新法の周知に努めるべきだ。
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