障害者対策 新法施行を差別なくす契機に

朝日新聞 2016年04月08日

障害者差別 解消へ新制度を育もう

障害を持つ人への差別を禁じた新法が今月から施行された。

障害者差別解消法。2014年に批准した国連の障害者権利条約に合わせた法整備の一環だ。日常生活のさまざまな場面にかかわり、国民一人ひとりの意識と行動が問われる。誰もがお互いに尊重し支え合う社会への第一歩にしたい。

法律は国や自治体、民間事業者に対し障害を理由にした不当な差別的取り扱いを禁止した。障害者が直面する「壁」を取り除くための「合理的配慮」を行政機関に義務づけ、事業者も取り組みに努めるよう求めた。

例えば、車いすの利用者であることを理由にお店が入店を断れば、不当な差別的取り扱いにあたる。店にスロープを付けるなど車いすの人も使いやすくするのが合理的配慮だ。

耳が不自由な人との筆談、目が不自由な人への音読と、求められる配慮は多様だ。心臓病など見ただけではわかりにくい障害もある。援助や配慮が必要な人を示すマークの普及を急ぐなど、障害の特性に応じた細やかな対応や支援が大切になる。

合理的配慮は「負担が重すぎない範囲で」とされた。とりわけ、努力義務にとどまる民間事業者の対応がどこまで進むか、心配する声もある。

しかし、大がかりな施設の改修などをしなくてもやれることはあるはずだ。店の出入り口に段差があるなら、店員が手を貸すことで対応できる。前向きに支援する方法を考え、工夫する姿勢でのぞんでほしい。

障害者団体からは、個々の相談や救済にあたる新機関の設置を求める声もあったが、今回の法律には盛り込まれず、一部の自治体が条例で独自に設けるのにとどまっている。

相談事例を共有し、対策を話し合う地域協議会もつくることになっているが、設置は今年度前半までの見込み分を含めても全市町村の3割に満たない。

個別の相談にどう向き合い、具体的な解決につなげていくか。先行する自治体の取り組みも参考に、3年後の見直しに向けた議論に生かしてほしい。

対応を求められるのは行政機関や事業者だけではない。例えばスーパーでは、駐車場の障害者用スペースに対象外の人が車を止めている、との苦情がしばしば寄せられるという。一人ひとりの意識改革が不可欠だ。

障害を持つ人がどんなことで困っていて、どのような支援を求めているのか。対話を重ね、お互いに理解を深めていくことが、新たな制度を定着させ、育てていくことにつながる。

読売新聞 2016年04月06日

障害者対策 新法施行を差別なくす契機に

障害の有無を問わず、誰もが個性を尊重し合う暮らしやすい社会を実現する。そうした意識と行動を国民全体に根付かせる契機としたい。

障害者差別解消法が今月、施行された。行政機関や民間事業者に対し、不当な差別的扱いを禁じるとともに、障害者を手助けする「合理的配慮」を求めている。

日本が2007年に署名し、14年に批准した国連の障害者権利条約に沿った内容だ。既に約160か国・地域が締結している。

障害を理由にサービスの提供を拒否・制限したり、介助者同伴などの条件をつけたりする行為が、差別的扱いに該当する。

「合理的配慮」とは、障害者が直面する様々な障壁を取り除くため、負担が過重にならない範囲で対応することを意味する。

車いす利用者のためにスロープを設置するのが典型例だ。視覚・聴覚障害者のために点字資料や手話通訳を用意するなど、障害者の身になったきめ細かな取り組みを可能な限り広げたい。

健常者と全く同様に対処するだけでは、平等にならない場合も多い。移動や意思疎通を支える手段がなければ、障害者の行動は制約される。「合理的配慮」をしないのも差別に当たると明確にしたのは、新法の大きな特徴だ。

新法は、行政機関に「合理的配慮」を義務付けた一方、事業者については努力義務とした。

ただ、交通機関や商業施設など、障害者が日常生活で接する事業者の対応が不十分では、新法の実効性は限られる。前向きな取り組みが望まれる。

国内の障害者は788万人に上る。高齢化の進展で今後、さらに増えるのは確実だ。障害者に対応したサービスや製品を提供していくことは、企業のイメージアップにとどまらず、経営上の大きなメリットになるだろう。

差別が絡むトラブルの解決には課題が残る。新法では、関係機関が連携してトラブル防止や解決の支援に当たる地域協議会の設置を自治体に促している。

都道府県での設置は進むものの、市町村では遅れ気味なのが現状だ。差別解消には、身近な生活圏での対処が重要である。

新法の成立から3年近くが経過したが、その趣旨が社会に浸透しているとは言い難い。

障害者に配慮したバリアフリー化の推進は、高齢者や子供連れの人にも恩恵が及ぶ。20年には東京パラリンピックも控える。政府は新法の周知に努めるべきだ。

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