TPP審議入り 新貿易圏の活用へ議論深めよ

朝日新聞 2016年04月06日

TPPと国会 承認ありきは許されぬ

環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と、関連する11本の法律を一括改正する法案の審議が、衆院で始まった。

世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥った後、二国間や多国間の自由貿易・経済連携協定が自由化の推進役となっている。中でもTPPには世界経済を引っ張るアジア太平洋の12カ国が参加し、国内総生産(GDP)で世界の4割を占める。低成長が続く日本にとって、その効果への期待は小さくない。

TPPが扱うのは関税の撤廃・引き下げや投資の自由化などのほか、知的財産や環境・労働分野に及び、「21世紀型」と呼ばれる。さまざまな産業や国民生活への影響が予想され、不安や疑問、反対論も根強い。

審議を通じてそうした声に向き合うことが、国民の代表としての国会の責任だろう。各党は「消費者の利益」を基準に、是非と対策を考える姿勢で審議を尽くしてほしい。

気がかりなのは、今の国会でTPPを承認しようという与党と政府の前のめりな姿勢だ。

参加12カ国は2月にTPPに署名したが、発効には各国が議会承認を含めて必要な手続きを終えねばならない。TPPの規定では、2大国である米国と日本の手続き完了が不可欠だ。

大統領選の最中にある米国では、民主、共和両党とも有力候補はこぞってTPPに否定的。議会承認は11月の大統領選後、との見方がもっぱらである。

安倍政権はTPPをアベノミクスの柱の一つと位置づける。「日本が率先して発効への機運を高める」と意気込むが、拙速な審議は許されない。夏の参院選や、取りざたされる衆参同日選をにらみ、懸案を片付けておこうとの思惑なら本末転倒だ。

民進党は、農林水産分野の関税撤廃・引き下げ問題を中心に追及する構えだ。

衆参の農林水産委員会は3年前、コメなど重要5項目に十分に配慮するよう決議している。TPPの協定案が5項目を「聖域」として守っているかを突くだけでなく、幅広い視点からの議論を心がけてほしい。

徹底した審議には十分な情報が必要だ。交渉で主役を演じた甘利明・前TPP担当相とフロマン・米通商代表部代表の会談資料について、政府はようやく開示に応じることを決めたが、黒塗りだという。できるだけ情報公開に努めるべきだ。

甘利氏が金銭授受疑惑について説明責任を果たすことも、改めて求めたい。体調がすぐれず難しいなら、なおさらTPPの承認を急ぐべきではない。

読売新聞 2016年04月06日

TPP審議入り 新貿易圏の活用へ議論深めよ

日米など12か国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案と関連法案について、国会での審議が始まった。

関連法案には、著作権の保護期間の延長や、畜産業者への経営支援の拡充などが盛り込まれている。

安倍首相は衆院本会議で、「TPPを我が国の成長戦略の切り札にしていく」と述べ、加盟の意義を強調した。

世界経済の先行き懸念が強まる中、透明性の高い新たな自由貿易圏を構築し、アジア太平洋地域を活性化する重要性は一段と増している。与野党は、今国会での着実な承認を図るべきだ。

民進党の山尾政調会長は、TPP合意が、コメや麦など「重要5項目」の関税維持を求めた国会決議に違反すると主張した。「国益が守られたと強弁するには無理がある」などとも批判した。

だが、日本の農林水産品の関税撤廃率は81%で、軒並み90%を超える他国を大きく下回る。

首相が、「決議の趣旨に沿うものと評価してもらえる」と反論したのは理解できる。

野党からは、交渉経緯や合意内容に関する政府の情報提供が不十分で、食の安全などへの不安が強まっているとの指摘も出た。政府は丁寧に説明し、国民の懸念や誤解を払拭する必要がある。

与野党は、交渉経緯をまとめた文書を政府が提出したことなどを受け、TPP特別委員会の審議に入ることで合意した。

夏に参院選を控えて国会会期の延長は難しく、審議日程は窮屈だ。与野党がいたずらに対立し、時間を浪費してはならない。

巨大な自由貿易圏をどのように活用して、力強い成長につなげるか。そうした建設的な議論を深めることが大事だ。

政府が昨年11月にまとめたTPP政策大綱は、農家の保護策が手厚い一方で、農産品の輸出促進といった「攻め」の施策は全体として手薄だった。

TPPの負の影響を和らげる配慮は大切だが、過度な保護行政は、かえって日本農業の弱体化に拍車をかけかねない。国会では、国際競争力を高める具体策について、話し合ってもらいたい。

気がかりなのは、11月に大統領選を控える米国で、民主、共和両党の有力候補がそろってTPP反対を表明していることである。

TPP発効には、日米両国の承認が不可欠だ。米議会に早期承認を促すためにも、日本の国会での迅速な審議が求められる。

産経新聞 2016年04月05日

TPP審議入り 成長への具体策を論ぜよ

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の承認案件と関連法案の国会審議が始まる。

国内市場の縮小など構造問題を抱える日本にとって、海外の経済活力を取り込めるTPPの意義は極めて大きい。

これをどう活用し、成長につなげるか。与野党には、その道筋や具体策の議論を深めてもらいたい。

TPP発効に必要な国会承認を得ることは、大統領選でTPP反対論が増す米国を後押しすることにもなる。安倍晋三政権は今国会で確実に成立を図るべきだ。

政府試算では、TPPで実質国内総生産(GDP)は13・6兆円押し上げられる。関税分野だけでなく、知的財産や投資のルールなど多岐にわたるのがTPPだ。

政府はこれらが経済に及ぼす影響やその予測を丁寧に説明し、メリットを最大化する規制緩和や税制の方向性を明確にすべきだ。

民進党は、審議に向けてTPPの交渉経過を調査する特命チームを設置した。参加12カ国の間で重ねられた秘密交渉の妥当性などを検証する狙いだろう。

だが、与野党ともに陥ってはならないのは「守りの議論」に終始することだ。農産物の重要5分野を守れたかどうかを論じるばかりでは、自由貿易拡大に向けて関税の撤廃を原則としたTPPの本質を見失うだろう。

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