休暇の分散化 やってみる価値はある

毎日新聞 2010年03月05日

休暇の分散化 やってみる価値はある

観光庁が、春と秋に地域別で時期をずらした大型連休を創設するなどの休暇分散化案をまとめた。交通機関や旅館・ホテルの混雑を緩和し、新たな観光需要の掘り起こしなどにつなげる。議論を重ね、2012年にも実施したいという。

案によると、現在の「国民の祝日」の一部を休日でなくし、代わりに春と秋、土日を含む5連休を地域別に時期をずらして設ける。地域分けは北海道・東北・北関東▽南関東▽中部・北陸信越▽近畿▽中国・四国・九州・沖縄--の五つだ。

分散化の検討は観光業界の要望で始まった。ゴールデンウイークをはじめ休暇が集中している結果、観光産業が収益を上げられる日数は限られ、黒字の日は年間100日程度とも言われる。また、客の側も混雑や渋滞、繁忙期料金の高さなどで旅行をあきらめる傾向がある。分散化で観光産業の収益力が高まれば、雇用創出や地域活性化につながるし、サービスの質や外国人観光客を受け入れる対応力の向上も期待できるというもくろみだ。

混乱を心配する声も多い。経済界からは、勤務地や通学先で家族の休みがバラバラになる恐れがある▽全国で事業展開する企業は対応が難しい、との意見が出ている。観光庁の国民意識調査でも「この時期の祝日のそもそもの意識が薄れる」「分散して休むと、逆に業務に差しさわりが出る」「祭事やイベントに参加しづらくなる」という理由で、約3割が分散化に反対だった。

「休日でない祝日」ができることが祝日法の趣旨に合うかといった疑問もある。特に、憲法記念日やこどもの日が休日でなくなるのは反発を呼びそうだ。

しかし、こうした問題点をふまえても意義深い試みだと評価したい。内需拡大や観光振興という経済的側面だけではない。「休むことが苦手で下手」と言われる日本人にとって、働き方や家族とのかかわりを主体的に考え直すきっかけになると思えるからだ。「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」は言葉としては広まり定着した。しかし、民間労働者の年休取得率は08年で47・4%にすぎず、ほぼ100%の英独仏などとの開きは大きい。

どう休むかは個人の問題だ。それぞれの自由な選択で休暇を取りやすくする一人一人の意識改革が大切なのは言うまでもない。政府が休み方を誘導し、観光需要をならすのはやりすぎかもしれない。しかし、「みんなが休むから休もう」「みんなが働いているから休めない」の横並び意識がなかなかぬぐえず、「調和」への道のりが遠い中、休暇分散化はやってみる価値のある試みである。

産経新聞 2010年03月08日

連休分散化 効果よりも混乱が大きい

春と秋にそれぞれ5連休を設け、全国5つの地域別にずらして取得させるという政府の「連休分散化案」が明らかになった。大型連休につきものの混雑や交通渋滞が緩和され、観光需要の平準化が期待できるほか、地方の産業振興と雇用創出を通じて内需の拡大につなげるのが狙いという。

たたき台を作った観光庁によれば、新連休は既存の祝日を土日と組み合わせる形で創設するため、休日総数が増えることはなく、企業にも負担にならないという。早ければ、平成23年度からの実施を目指す構えだ。

だが、一見、結構ずくめにも見えるこのアイデアには、大きな問題点がいくつもある。

説明とは裏腹に、地域で休日が異なり、大手、中小を問わず、取引相手との営業日に齟齬(そご)が生じれば、企業活動への影響は避けられない。個人レベルでも、家族の休日が勤務先や通学先によって異なる可能性が出てくる。

肝心の観光業も、歓迎一色とはいかない。旅館やホテル、テーマパークなど常設の事業者はともかく、地域に定着した伝統行事が売り物の観光地は、逆に集客が落ち込む心配がある。

金融機関はオンライン化された決済システムの改定を迫られる。就業規則や労使協定見直しも不可欠で、とりわけ中小企業には、過大なコスト負担となりそうだ。

日本経団連など経済界も、観光需要の拡大などに期待する一方、実施に向けては国民への周知など相当の準備期間が必要だと指摘している。当然の懸念である。

法による連休の分散化は欧州の一部で実際に行われているという。だが、いずれも1カ月程度の長期連続休暇が慣例として根付いている国の話だ。有給休暇の完全取得すらままならない日本とは、比べること自体に無理がある。

まず政府が取り組むべきは、既に制度としてある休暇を完全消化させる仕組みをつくることだ。

制度変更で影響を受ける祝日の取り扱いも問題だ。観光庁案では、記念日としては残すが、休日ではなくなる。

祝日とは本来、「国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日」(祝日法第1条)であり、休日としてこそ意味を持つ。連休を増やすためだけの理由で制度の根本をいじるのは安易すぎる。連休の分散化は祝日に対する国民の認識をさらに希薄化させかねない。

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