電力自由化 市場をつくる自覚こそ

朝日新聞 2016年04月01日

電力自由化 市場をつくる自覚こそ

電力の小売りが、きょうから全面自由化される。一般の家庭でも、電気をどこから買うか選べるようになり、8兆円規模の市場が新たに開放される。

当面の話題は、「どの会社の契約が得か」に向きがちだ。思ったほど選択肢がなく、期待はずれに感じる人も少なくないだろう。事業者や行政には一層のサービス向上を求めたい。

大きな電力改革の流れから見れば、今回の自由化は通過点にすぎない。制度やインフラなどの整備にはなお時間がかかる。

価格への注目は当然だが、そこにとどまらず、電気の使い方と選び方を家庭で考える機会としたい。自分の使う電気の源は何かを出発点に、暮らしを支えるエネルギーのあり方に関心を深めていくことが大切だ。

3月末までに小売り登録を済ませたのは約270社。ガス、石油といったエネルギー企業のほか、鉄道、通信、放送などのインフラ産業、商社や再生可能エネルギー関連会社、地域主導の「ご当地電力」など多彩な顔ぶれがそろった。

ただ、新規参入が多いのは都市部中心で、地域的な偏りが大きい。また、営業の的は、電気の使用量が多く、利益が見込める世帯向けに絞られている。

どんな電源から調達しているか、電源構成についての情報公開も今回の改革では努力義務にとどまった。選びたくても情報が乏しければ困る。法制化は今後の重要な検討課題だ。

企業向けでは、新電力5位の日本ロジテック協同組合が必要な電力を確保できず、破産手続きに入るなど、自由化の負の側面もあらわになった。競争に淘汰(とうた)はつきものだが、混乱を避ける手立ての充実が求められる。電力の売買がやりやすい卸売市場の活性化も急務だろう。

なにより、2020年には大手電力がもつ送配電網の分離・中立化(発送電分離)が予定されている。その履行を着実にしなければならない。再エネ普及を促し、電気料金を抑えるためには、誰もが公平に接続できる送配電網が不可欠だからだ。

大手電力の間には、発送電分離への抵抗感がなお強い。既得権が温存されないよう、新設された規制機関だけでなく、消費者もしっかり監視し続ける必要がある。

福島第一原発事故まで、日ごろから電源に思いを巡らせる人は多くなかっただろう。だが電気を自由に消費する社会と原発のリスクは表裏一体の問題だ。自由化を機に、一人ひとりが電力市場を形づくる参画者であることを自覚したい。

読売新聞 2016年04月04日

電力市場自由化 供給力確保に万全を期したい

電力自由化を、料金引き下げと利便性向上につなげることが大切だ。

4月1日から電力小売りが全面自由化された。これまで各地方の大手電力会社からしか電気を買えなかった一般家庭も、自由に電力会社を選べるようになった。

ガスや通信など新規参入業者は200社を超える。携帯電話など他のサービスとセットで契約すると、従来の電気料金より、年1万円程度安くなるケースもある。

自由化によって、消費者の選択肢が広がる意義は小さくない。

ただ、電気の使用量が少ない家庭が乗り換えると、料金負担が増えることもある。契約内容を吟味して、判断する必要があろう。

3月25日までに契約の切り替えを申し込んだのは38万件で、全体の0・6%にとどまる。新規参入が多く、競争が激しい東京電力管内でも1%にすぎない。

料金プランが増えて複雑になり、どの契約が一番得なのか、決めあぐねている人も多い。

来春の都市ガス小売りの全面自由化では、逆に大手電力などが新規参入する。さらに増える料金プランを見極めて判断したいという消費者も少なくないのだろう。

携帯電話の「2年縛り」のように、途中解約に違約金を課す料金プランも少なくない。行き過ぎた顧客の囲い込みは、利用者の利益を損なう。各社は、消費者にとって魅力的なサービスの提供に、知恵を絞ってもらいたい。

全面自由化を目前に、新電力5位の日本ロジテック協同組合が、経営不振に陥ったのは、拡大路線が裏目に出たためである。

発電設備を持つ自治体などから購入した電気を、企業などに大手電力より安く販売していたため、利幅が薄く、資金繰りが悪化した。契約先に送るための電気を十分に確保できず、供給責任さえも果たせなくなった。

電気事業者にとって、電気の安定供給は最大の責務である。

新電力が破綻した際は、大手電力が代わりに電気を供給する責任を負うことになっている。

停電などのトラブルを回避するため、全国的な電力需給の調整を担う電力広域的運営推進機関が、円滑な電力融通に関する役割をきちんと果たさねばならない。

気がかりなのは、原子力発電所の再稼働が遅れ、大手電力の供給力も十分ではないことだ。自由化による競争促進は、電力の安定供給が前提である。安全が確認された原発の再稼働を進め、供給余力を確保することが欠かせない。

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