教育委員会の教科書選びに、お金が影響しているのではないか。そんな疑いを抱かせる行為が広がり、常態化していた。あってはならない事態である。
教科書会社が検定中の教科書を教員らに見せて意見を聴き、謝礼を渡していた問題で、文部科学省が調査結果を公表した。
教科書会社が検定中の本を見せたのは4525人。このうち教員や教育委員ら1009人が選定にかかわり、うち818人が謝礼を受けていたという。
公務員としての倫理観が欠けていたと言わざるを得ない。
ほかに教委事務局の職員も謝礼を受け取ったとされる。教委はどの教科書を選ぶか決める権限を持つだけに深刻だ。
実際に選定に手心を加えた例はあったのか。教委が議事録や資料を確認したところ、なかったと文科省はいうが、真相はどうか、なお疑問が残る。
教員らも会社も教科書への信頼を傷つけた責任は重い。両者は襟を正すべきである。
文科省は調査結果を受けて、再発防止の通知を出した。
特定の会社に協力した人が選定にかかわらないよう、本人に事前聴取したり自己申告させたりすることを求めた。公正さを保つには必要な手続きだろう。
通知の内容で注目されるのは、質の高い教科書をつくるために、会社が教員らから意見を聴くことには「大きな意義」があると認めたことだ。
一連の問題を受けて教員らが会社との関係を断ち、現場の声が教科書に反映されなくなることは避けねばならない。
大阪市教委は、教員が教委の承認を得ないまま会社と接触することを禁じる方針というが、萎縮を招かないか。
文科省は教科書選びの期間中、会社が講習会などを開くことを禁じていた。これを見直し、各社合同の説明会を検討することも通知でふれた。
小さな会社が不利にならないよう工夫し、多くの教員が参加できる方法を探ってほしい。
検定中の本を外部に見せることを禁じるルールについては、今回の通知でも変えていない。検定する審議会が静かな環境で話し合えなくなる、と文科省はいう。
だが、教員や研究者らと会社がオープンな場で意見を交わせる方が、様々な角度からの検討が進むはずだ。水面下で接触するからこそ、不正をうみかねないのではないか。
教員、会社双方に反省を求めるだけでなく、開かれた検定と選定の制度を目指す。その議論を進めたい。
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