教科書謝礼問題 嘆かわしい教員のモラル低下

朝日新聞 2016年04月02日

教科書選定 開かれた制度づくりを

教育委員会の教科書選びに、お金が影響しているのではないか。そんな疑いを抱かせる行為が広がり、常態化していた。あってはならない事態である。

教科書会社が検定中の教科書を教員らに見せて意見を聴き、謝礼を渡していた問題で、文部科学省が調査結果を公表した。

教科書会社が検定中の本を見せたのは4525人。このうち教員や教育委員ら1009人が選定にかかわり、うち818人が謝礼を受けていたという。

公務員としての倫理観が欠けていたと言わざるを得ない。

ほかに教委事務局の職員も謝礼を受け取ったとされる。教委はどの教科書を選ぶか決める権限を持つだけに深刻だ。

実際に選定に手心を加えた例はあったのか。教委が議事録や資料を確認したところ、なかったと文科省はいうが、真相はどうか、なお疑問が残る。

教員らも会社も教科書への信頼を傷つけた責任は重い。両者は襟を正すべきである。

文科省は調査結果を受けて、再発防止の通知を出した。

特定の会社に協力した人が選定にかかわらないよう、本人に事前聴取したり自己申告させたりすることを求めた。公正さを保つには必要な手続きだろう。

通知の内容で注目されるのは、質の高い教科書をつくるために、会社が教員らから意見を聴くことには「大きな意義」があると認めたことだ。

一連の問題を受けて教員らが会社との関係を断ち、現場の声が教科書に反映されなくなることは避けねばならない。

大阪市教委は、教員が教委の承認を得ないまま会社と接触することを禁じる方針というが、萎縮を招かないか。

文科省は教科書選びの期間中、会社が講習会などを開くことを禁じていた。これを見直し、各社合同の説明会を検討することも通知でふれた。

小さな会社が不利にならないよう工夫し、多くの教員が参加できる方法を探ってほしい。

検定中の本を外部に見せることを禁じるルールについては、今回の通知でも変えていない。検定する審議会が静かな環境で話し合えなくなる、と文科省はいう。

だが、教員や研究者らと会社がオープンな場で意見を交わせる方が、様々な角度からの検討が進むはずだ。水面下で接触するからこそ、不正をうみかねないのではないか。

教員、会社双方に反省を求めるだけでなく、開かれた検定と選定の制度を目指す。その議論を進めたい。

読売新聞 2016年04月01日

教科書謝礼問題 嘆かわしい教員のモラル低下

検定中の教科書を閲覧し、教科書会社から金品を受け取る。教員のモラル低下が嘆かわしい。

検定教科書を巡る謝礼問題で、文部科学省が都道府県教育委員会の調査結果を公表した。

2009年度以降、3000~5万円の現金などを受け取ったとされる公立小中学校の教員ら約3400人のうち、839人がその後、教科書の選定(採択)に調査員などとして関与していた。

すべての教委が文科省に、「教科書の選定は公正に行われた」と報告している。特定の教科書を強く推す発言などが確認されなかったことが根拠だという。

だが、謝礼の影響が本当になかったと言い切れるのか、なお疑問が残る。それまで使っていた教科書を、謝礼を払った会社の発行する教科書に切り替えたケースは、29都道府県で88件に上る。

教科書は学習のり所だ。選定対象の教科書を読み、特徴や評価をまとめる調査員の役割は重い。教科書会社との間で金銭の授受があれば、調査に手心を加えたと見られても仕方がない。

そもそも、文科省の規則で、検定中の教科書は外部の閲覧が禁じられている。教科書を見たのは規範意識が乏しいことの表れだ。地方公務員である公立学校の教員は、副業が禁止され、許可なく報酬を受け取ることもできない。

教員は襟を正すべきだ。

より深刻なのは、市町村教委の現職職員が、謝礼を受け取っていた問題である。課長や指導主事など幹部クラスも含まれる。

市町村教委は、どの教科書を使うかを最終的に決める権限を有する。教員を指導し、教科書選定の公正さを確保する立場であることを自覚しなければならない。

教科書選定の信頼回復には、再発防止の徹底が急務である。

教科書業界は、過度な営業活動を自粛する行動規範を策定中だ。文科省は、教員らが教科書会社と適切な関係を保つよう求める通知を出した。違反には人事面などで厳正な対処が必要だろう。

教科書の選定について、各教委が保護者や地域住民に対し、説明を尽くすことも重要である。

15年度の中学校教科書の選定で、結果をホームページなどで公表した教委の割合は64%、理由を公表したのは45%だった。

外部からの圧力を避けるため、静かな環境で選定を行う。終了後はできる限り、選定の経緯や理由を明らかにして、透明性を高める。こうした努力が欠かせない。

産経新聞 2016年04月03日

教科書謝礼問題 癒着断ち公正な採択守れ

教科書会社が公立小中学校の教員らに検定中の教科書を見せ謝礼を渡していた問題で、多くの教員がその後の採択にも関わっていた。

いくら否定しようが、教科書選定をめぐる教員の影響力を期待した「賄賂」に映る。採択制度をゆがめる不正だ。

文部科学省と教育委員会は事態を深刻に受け止め、再発防止を徹底してもらいたい。

謝礼問題は小中学校の教科書を発行する22社のうち12社が検定中の教科書を見せ、うち10社が3千~5万円の現金や図書カードなどを渡していたというものだ。

文科省の調査では、教育委員会に採択への影響を聞いた。その結果、謝礼を渡された教員ら約3400人のうち4人に1人が、教科書の特徴を教委に報告する調査員を務めるなどの形で関与していた。別の教科書から、謝礼を渡した会社の教科書に変わったケースも90件近くあった。

にもかかわらず、すべての教委は「採択に影響がなかった」と結論づけた。積極的にその教科書を推すなどの発言が確認できなかったからだというが、あまりにも認識が甘い。

教科書会社は謝礼の趣旨について「よりよい教科書をつくる情報交換の一環」などと言い訳する。ならば、規則に沿って堂々とやればよい。謝礼は不要だ。

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