民政ミャンマー 不安残る経済発展路線の継承

朝日新聞 2016年03月31日

ミャンマー 問われる真の民主改革

ミャンマーで新政権が発足した。人口5千万強の国を率いるのは、昨秋の選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)である。

自由選挙による文民政権は、1962年の軍事クーデター後は初めて。アウンサンスーチー氏率いるNLDへの支持は、軍政脱却を願う民意の表れだ。

とはいえ、まだ体制の変革とは言いがたい。軍政がつくった憲法の枠組みが今もある。民主化の力量が問われるのはまさにこれからである。

国防、内務、国境相は軍が指名し、非常時は最高司令官が全権を握ると憲法にある。国会の4分の1は軍人枠で、その同意なしに憲法改正は難しい。

新政権では、スーチー氏側近のティンチョー氏が大統領に就く。スーチー氏は外相など4閣僚を兼務し、実質的に政権を率いるという。外国籍の家族がいれば大統領になれない憲法上の制約を受けた苦肉の策だ。

この国が民主化への軌道にのれるかどうかは、新政権と軍が穏当な関係を築けるかどうかにかかっている。経験のない新政権が軍と対等に向き合うには、スーチー氏のカリスマ的な指導力に頼るのは当然だろう。

だとしても、「大統領も憲法も超える存在になる」というスーチー氏の発言は、新たな独裁者になるかのような印象を与える。法治の原則を見失えば、健全な国家建設の道は遠のくことを忘れずにいてもらいたい。

軍は経済にも根を張っている。前政権下で諸改革が進んだが、軍と関係の強い企業群の利権は依然大きい。その構造に新政権が切り込めるか、そこにも高いハードルがある。

国内では今なお少数民族の武装勢力が軍とにらみ合う。新政権は、その問題の解決も期待されているが、ここでは軍の協力を求める必要もあろう。

前途多難だが、やはり新政権が目指すべきは憲法改正だ。軍政への逆戻りを阻むために不可欠な手続きである。そのためには、国際社会との共栄をめざす価値観が国の将来に必要だという大局観を、軍関係者にも説き続けるほかないだろう。

残念ながら今の世界では、民主化の流れが滞っている地域が多い。タイが民政と軍政の間で揺れ動き、中国という巨大な権威主義体制が存在する。そんな中でミャンマーの民主化が前進することの意義は大きい。

1人あたり国内総生産は約1200米ドルで、「東アジアの奇跡」から取り残されてきたが、潜在成長力が大きい。法制度やインフラの整備、人材育成に、日本も支援を強めたい。

読売新聞 2016年03月31日

民政ミャンマー 不安残る経済発展路線の継承

経済発展路線を円滑に継承できるか。新体制のかじ取りが問われよう。

ミャンマーで、国民民主連盟(NLD)のティン・チョー大統領率いる新政権が発足した。

NLDが昨年11月の総選挙で、軍政の流れをくむ連邦団結発展党(USDP)を破って圧勝したことに伴う政権交代である。民主的な選挙を経た文民大統領の誕生は約半世紀ぶりとなる。

NLDのアウン・サン・スー・チー党首は、外相や大統領府相など4閣僚を兼務する。「大統領の上に立つ」と公言していたように、側近のティン・チョー氏を通じて政権を主導するのだろう。

憲法は外国籍の親族がいる者の大統領就任を禁じており、英国籍の子息をもつスー・チー氏に、その資格はない。関連条項の一時凍結という裏技による大統領就任を目論もくろんだが、軍の反発に配慮して見送ったとされる。

ティン・チョー氏は国会での就任演説で、「民主的な基準に沿った憲法にする責任がある」と強調した。憲法改正に事実上の拒否権を持つ軍に対し、改正を粘り強く働きかけるとみられる。

スー・チー氏が就いた外相は、大統領や軍首脳らと並んで、非常時に強大な権限を有する「国防治安評議会」のメンバーでもある。入閣により、軍の影響力を牽制けんせいする思惑があるのではないか。

NLDは人材に乏しく、スー・チー氏の政治手腕も疑問視されている。民間の専門家やUSDP出身者を閣僚に起用したのも、苦肉の策だろう。軍やUSDPとの協調が欠かせない。

国民の生活水準の向上など、新政権の課題は山積している。

テイン・セイン前政権は、中国一辺倒の外交政策を転換し、米欧との関係改善を図った。経済改革を進めて、投資環境を整備することで外資を呼び込み、高成長を実現してきた。

懸念されるのは、新政権の具体的な経済政策や外交方針がなおも明確でないことだ。

スー・チー氏の行き過ぎた情報統制も指摘される。新政権の政策決定過程の透明性が十分に保たれないようなら、外国企業の投資拡大への不安は拭えまい。引き続き規制緩和や法制度整備などに努める必要があろう。

東南アジアと南アジアを結ぶ要衝にあるミャンマーが民主国家として安定した発展を遂げることは、日本にとっても重要だ。日本は従来通り官民を挙げて、ミャンマーの国造りを後押ししたい。

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