児童虐待対策 根絶へ体制強化を急ぎたい

朝日新聞 2016年03月30日

待機児童対策 財源確保して充実を

「保育園落ちた」の匿名ブログをきっかけに国会でも論議になった待機児童問題で、厚生労働省が緊急対策を発表した。

柱は、待機児童が多い地域での規制緩和だ。人員配置や面積の基準が国の最低基準よりも厳しい自治体に、国の基準並みにして受け入れを増やすよう要請する。小規模保育所での受け入れの上限を19人から22人に引き上げる、といった具合だ。

だが、保育の現場からは国の基準がそもそも低すぎるとの声も聞かれる。自治体が独自に高い基準を設けるのも、安心・安全のために他ならない。子どもたちや現場の保育士にしわ寄せがいかないかが心配だ。

どこまで基準を緩めるかは自治体に委ねられている。判断も責任も丸投げされた自治体側も困惑しているのではないか。

問題解決の道筋を示したうえでの応急措置というならまだわからないでもない。だが、厚労省はこれまでも面積基準などを緩和してきた。本来は時限措置のはずが常態化している。同じことを繰り返すのか。

必要なのは、安心して子どもを預けられる保育サービスを増やすことだ。まずは、保育のニーズを把握することだ。

昨年4月に始まった子ども・子育て支援新制度では、待機児童にはカウントされない潜在的な保育ニーズも含めて整備計画を立てることになっているが、保育所整備の規模、スピードは実態から離れたままだ。今の整備計画が妥当なものなのか、再点検が必要だ。

ニーズに即して受け皿を整備する際には、人材確保も考えなければならない。各地で保育士不足が深刻化し、施設を作っても保育士が確保できず受け入れを制限しているところもある。

一方で、保育士の資格はあるのに働いていない潜在保育士は80万人弱とも言われる。背景にあるのは、低賃金や長時間労働などの待遇の問題だ。

自民、公明、民主の3党で合意した社会保障と税の一体改革では、消費税を財源に、保育士の給与を引き上げたり、職員の配置を手厚くしたりすることになっていた。

だが必要な財源には、消費税が10%になっても3千億円足りない。その10%も15年の実施予定が延期され、子育て支援の予算は大きな穴が開いたままだ。

安倍政権に求められていることは財源を確保し、約束を果たす姿勢を明確にすることだ。

これまでの延長線上で小手先の対応を繰り返しているだけでは、いつまでたっても深刻な事態は打開できない。

読売新聞 2016年03月30日

待機児童対策 「緊急」と「抜本」の連動が重要だ

子供の預け先が見つからず、親が退職に追い込まれる。そんな事態をなくすため、官民で取り組みを加速させたい。

政府が、保育所に入所できずにいる待機児童の解消に向けた緊急対策を公表した。

小規模保育所の定員上限19人を22人に引き上げるなど、既存の施設や制度の規制緩和が柱である。昨年4月に待機児童が50人以上いた114市区町村を中心に、積極的な実施を促していく。

小規模保育所は、待機児童の多い0~2歳児を預かる。マンションの一室や空き店舗でも開設できるため、用地取得が難しい都市部での有力な受け皿と言える。

認可保育所については、国の基準より手厚く保育士を配置している自治体などに定員枠の拡大を求める。子供の「一時預かり」事業での定期利用も可能にする。

認可保育所の増設には時間がかかる。新年度の直前になっても預け先が見つからない保護者向けの緊急対策として、規制緩和で受け皿を確保するのは理解できる。抜本対策ではないが、自治体は、前向きに対応してもらいたい。

待機児童は昨年4月時点で2万3167人と、前年より1796人増えた。保育所定員は着実に伸びているが、共働き世帯の増加に伴う需要拡大に追いつかない。

深刻なのは、やむなく認可外保育所に入ったり、保護者が育児休業を延長したりして、待機児童に含まれない「隠れ待機児童」が6万人にも上っていることだ。

2015年度に始まった「子ども・子育て支援新制度」は、潜在ニーズも踏まえた保育サービス整備を自治体の責務と位置付けた。だが、財政難などを理由に、自治体の対策は後手に回っている。

緊急対策について、子供の「詰め込み」になるとして、保育の質の低下を懸念する声も強い。

規制緩和は、政府が定める最低基準の範囲内にとどまり、質の確保に一定の配慮をしているが、保育士の負担が増える恐れがある。時限措置とするのも一案だ。

無論、抜本対策として認可保育所の増設は欠かせない。最大の課題は、保育士の確保である。

安倍首相は、5月に策定する「ニッポン1億総活躍プラン」に、保育士の待遇改善を含む中長期的対策を盛り込む考えを示した。

民間保育士の月給は全産業平均を10万円以上も下回る。着実に賃金を上昇させる具体策を打ち出すことが求められる。研修の充実などで専門性を高め、職場への定着を促す取り組みも重要である。

産経新聞 2016年03月31日

待機児童対策 安心して託せる仕組みを

安心して子供を託せるかという、本質的な問題を忘れてはならない。

厚生労働省が待機児童の解消に向け、受け皿の拡大を優先させる緊急対策をまとめた。手順としては理解できるが、保育の質を確保する取り組みを同時に強化することが極めて重要である。

「保育園落ちた」といった匿名ブログを機に、この問題をめぐる安倍晋三政権の対応に批判が高まった。国政選挙を控え、急ごしらえで対策をまとめた印象は拭えない。

緊急対策は、小規模保育所の定員枠の拡大や、保護者が緊急時などに利用できる「一時預かり」を保育所が見つかるまで定期利用できるようにするなど、既存施設の規制緩和が中心となった。

受け皿の拡大を急ぐあまり、保育士の負担が重くなり、保育の質の低下を招くのではないかという懸念も残る。

そうでなくとも、保育士不足が深刻化している。平均賃金が全職種に比べ月約11万円も低い状況にあることが、根本的な原因だ。

フルタイムで働く親が増える分、子供を預けようとする時間も長くなり、労働条件はより厳しくなる。保育士の資格を持つのに、職に就かない人が相次いでいる現状を重く見るべきだ。離職者の復帰などが期待されても、条件の悪さは経験者も遠ざける。

読売新聞 2016年03月27日

児童虐待対策 根絶へ体制強化を急ぎたい

児童虐待による悲惨な事件が後を絶たない。警察庁によると、昨年、虐待に絡む事件で26人の子供が死亡した。

根絶へ向けた体制強化が急務である。

厚生労働省が、児童虐待対策を拡充する児童福祉法等改正案をまとめた。厚労省の検討会が今月公表した報告書に沿う内容だ。近く国会に法案を提出する。

全国の児童相談所が扱った2014年度の児童虐待件数は、過去最悪の8万8931件に上った。15年間で7・6倍に増えた。

一方で、対応にあたる児童福祉司の配置数は2・3倍にとどまる。人員不足で十分に対処できていないと指摘されてきた。

児童相談所が関与しながら、悲劇を防げなかった例は多い。

神奈川県相模原市では、両親から虐待を受けて児童相談所に通所していた男子中学生が自殺した。繰り返し保護を求めていたが、相談所では緊急性がないと判断し、両親が通所に応じなくなっても、家庭訪問すら行わなかった。

こうした現状を踏まえれば、改正案が、児童相談所の体制強化を打ち出したのは妥当である。

改正案では、児童相談所の増設を目指し、東京23区の独自開設を認めた。親から子供を引き離す際に法的サポートをする弁護士らの確保も義務づけた。家庭に強制的に立ち入る「臨検」の手続きを簡略化し、権限強化を図る。

児童相談所と市町村との役割分担の明確化も盛り込んだ。

児童相談所の業務は、一時保護などが必要な深刻なケースに特化する方向だ。保護に至らない子供や養護施設から家庭に戻った子供の支援は、主に市町村の業務となる。その支援拠点も整備する。

児童相談所は、親子関係の再構築支援も担ってきたことから、親に配慮して保護を躊躇ちゅうちょする傾向があるとされる。保護と支援の機能を分けることは、適切な対応を可能にするために有効だろう。

最大の課題は、専門性の高い人材の確保である。児童相談所に配置される専門職の増員や、児童福祉司の任用要件の見直しなど、資質向上策の検討を急ぐべきだ。

虐待を受けた子供の自立支援の充実も求められる。改正案では、養子縁組の相談・支援を児童相談所の業務と位置づけた。施設出身者らが利用できる「自立援助ホーム」の対象年齢は、現行の20歳未満から22歳までに引き上げる。

虐待の被害から子供を守るためには、政府と自治体が連携し、多面的に取り組むことが重要だ。

産経新聞 2016年03月31日

「保育園落ちた」ブログで急ごしらえの待機児童対策 でもいたずらに政治問題にしても前進しない

安心して子供を託せるかという、本質的な問題を忘れてはならない。

厚生労働省が待機児童の解消に向け、受け皿の拡大を優先させる緊急対策をまとめた。手順としては理解できるが、保育の質を確保する取り組みを同時に強化することが極めて重要である。

「保育園落ちた」といった匿名ブログを機に、この問題をめぐる安倍晋三政権の対応に批判が高まった。国政選挙を控え、急ごしらえで対策をまとめた印象は拭えない。

緊急対策は、小規模保育所の定員枠の拡大や、保護者が緊急時などに利用できる「一時預かり」を保育所が見つかるまで定期利用できるようにするなど、既存施設の規制緩和が中心となった。

受け皿の拡大を急ぐあまり、保育士の負担が重くなり、保育の質の低下を招くのではないかという懸念も残る。

そうでなくとも、保育士不足が深刻化している。平均賃金が全職種に比べ月約11万円も低い状況にあることが、根本的な原因だ。

フルタイムで働く親が増える分、子供を預けようとする時間も長くなり、労働条件はより厳しくなる。保育士の資格を持つのに、職に就かない人が相次いでいる現状を重く見るべきだ。離職者の復帰などが期待されても、条件の悪さは経験者も遠ざける。

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