EUトルコ合意 難民流入に歯止めはかかるか

読売新聞 2016年03月20日

EUトルコ合意 難民流入に歯止めはかかるか

欧州を揺るがす難民や移民の大量流入の収束につながるのだろうか。

欧州連合(EU)とトルコは首脳会議を開き、難民らの移動制限に向けた枠組みに合意した。

今後は、トルコからギリシャに密航した難民らは原則送還する。その代わりにEUは、トルコで正式な手続きを経たシリア難民を7万2000人まで受け入れる。20日から実施される合意の柱だ。

エーゲ海経由のルートを遮断することにより、難民の流入を抑制する狙いがある。

EUとトルコは共同声明で、難民らの送還について、「一時的な特別措置だ」と強調した。難民保護の国際規範に抵触しかねないとの懸念に配慮したものだろう。

EUは、トルコの協力を得る見返りとして、難民支援を60億ユーロ(7500億円)に倍増する。トルコ国民のEU諸国への渡航ビザ免除や、トルコのEU加盟交渉を加速させることも約束した。

トルコ政府は最近、体制に批判的な新聞を管理下に置いた。EUがこれを事実上、不問に付したのは、難民問題の解決が待ったなしであることを物語っている。

EUは昨年秋、国別の難民受け入れの割り当てを決めたが、ハンガリーなど東欧諸国の抵抗により、ほとんど実現していない。

ギリシャからドイツなどに向かう難民らが経由地の中・東欧に滞留し、混乱が広がった。今年も、1日あたり約2000人がギリシャに到着しているとされる。

今回の合意が履行されても、北アフリカからイタリアに向かう別の密航ルートに移るだけではないか、との疑問も残る。

深刻なのは、最大の難民受け入れ国のドイツでも、反難民の世論が高まっている事態である。

昨年の大みそかに、難民申請者らの集団による性犯罪事件が起きたことがきっかけになった。

今月中旬に行われた三つの州議会選では、難民受け入れに反対する新興右派政党が躍進した。メルケル首相の指導力に陰りが出ていることは否めない。

「域内移動の自由」を理念とするEUは、シェンゲン協定により、国境検査の廃止を進めてきた。だが、難民流入抑制やテロ対策のため、独やベルギーなど8か国が独自検査を復活させている。

このまま協定が有名無実化すれば、人やモノの流れが停滞し、巨額の経済的損失が出かねない。

EUはトルコとの合意を機に結束を取り戻し、難民問題に取り組むことが欠かせない。

産経新聞 2016年03月21日

トルコ紙「接収」 露骨な言論弾圧許されぬ

中東の民主主義の手本ともいわれた国の「報道の自由」は、風前のともしびなのか。

トルコの裁判所が今月初め、政権に批判的な有力紙ザマンを政府が事実上、接収することを認めた。紙面は政権寄りに一変した。

決定に抗議する読者や従業員の家族ら数百人を警官隊は放水や催涙ガスで強制排除し、本社を制圧した。露骨な言論弾圧というしかない。憂慮すべき事態である。

与党・公正発展党(AKP)のダウトオール首相は「政府転覆を企てた相手に対する正当な措置だ」などと主張したが、到底、言葉通りには受け取れない。

裁判所が理由の詳細を明らかにしていないのもおかしい。

米政府は「トルコの憲法が重視する民主的価値を維持すべきだ」と批判し、欧州からも懸念の声が上がった。当然の反応だ。

ザマン紙接収の背景には、同紙と関係の深いイスラム教指導者ギュレン師とエルドアン大統領の対立があると指摘されるが、政治的動機があるとすれば、なおさら許されるものではない。

AKP政権は過去にも、記者を逮捕・拘束し、メディア自体の接収を行ってきたと批判されている。問題の根は深い。

トルコ情報機関によるシリアのイスラム過激派への武器輸送疑惑を伝えた左派系紙の編集局長はスパイ容疑で有罪判決を受けた。

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