シリア和平協議 流血止める好機を逃すな

朝日新聞 2016年03月22日

シリア和平 機運逃さず各国努力を

泥沼の内戦に陥ったシリアの情勢をめぐり、国連主導の和平協議がスイスで始まった。

国家と地域社会を崩壊させ、多くの犠牲者と未曽有の難民を出した紛争が収拾の糸口を見いだせるか、注目されている。

もちろん、楽観はできない。協議に参加するアサド政権や反体制派は、勢力の拡大を狙って自らの立場を譲らず、妥協の気配がうかがえない。

協議の対象ではない過激派組織「イスラム国」(IS)などへの対応をどうするか、見通しは立っていない。

とはいえ米国とロシアが仲介した停戦が発効した先月以降、大規模な戦闘は伝えられていない。ロシアは主要部隊の撤収と空爆停止を表明し、前向きな兆しが生まれている。

この機会を逃さず、確固たる和平への流れにつなげたい。節度を欠く駆け引きや交渉の引き延ばしは許されない。

折しもフリージャーナリストの安田純平さんと見られる男性がシリアで拘束された、との情報が流れている。安否が気遣われるが、情報は錯綜(さくそう)しており、現地の混沌(こんとん)ぶりが伝わる。

シリアの荒廃を長期化させてはならない。米国や欧州連合(EU)、地域の有力国は、各勢力に対して協議を進展させるよう働きかけるべきだ。

ロシアは昨年9月、IS対策を名目に介入したが、ISと関係のない反政府勢力を攻撃し、空爆で民間人に被害も出して、批判を浴びてきた。

撤収に踏み切ったプーチン大統領の真意は不透明だが、単に退くだけでなく、安定化へ積極的に関与し続けるべきだ。

ロシアにはアサド政権に対し反体制派と真剣な対話を進めるよう説得する責任がある。さもないと、ロシアがウクライナ危機で失った国際社会の信頼は、到底回復できないだろう。

ロシアとともに停戦を呼びかけた米国は、停戦の継続へ影響力を駆使するとともに、国連、関係国・組織間の対話を率先してゆかねばならない。

同時に姿勢が問われるのは、トルコ、サウジアラビア、イランなど中東の主要な国々だ。これまで、それぞれが影響力を持つシリア国内の各勢力の利益を守る態度が目立った。しかし、シリアの和平なしに中東全体の繁栄と安定はありえないことを十分認識するときだ。

日本にとっても中東の混迷は積極的に関与すべき人道問題であり、また、エネルギー確保に直結する問題でもある。経済援助や難民支援を含め、多様な面からかかわり方を探りたい。

読売新聞 2016年03月19日

シリア和平協議 露軍撤収で道は開けるのか

シリア内戦を巡るアサド政権と反体制派による和平協議が、約1か月半ぶりに再開した。

米露の仲介によって、2月末に発効した停戦合意は大筋で維持されている。話し合いの環境がようやく整ったことは、一応評価できる。

5年に及ぶ内戦は、25万人以上の死者と数百万人規模の難民を出した。「イスラム国」などの過激派組織を掃討し、欧州への難民流出を食い止めるためにも、この好機を生かさねばならない。

和平協議は、移行政権の樹立、選挙実施を経て、新政権を発足させる行程表の進め方が焦点となる。アサド大統領の続投を主張する政権側と、早期退陣を求める反体制派の溝は深い。

移行政権を双方の幹部で構成するなどの歩み寄りがなければ、前進は期待できまい。国連と米露などの仲介の成果が問われる。

カギとなるのは、アサド政権を支援するロシアの動向だ。プーチン大統領は、昨年9月から過激派掃討の名目でシリアを空爆してきた部隊の一部撤収を命じた。

ロシアがいつまでも軍事的関与を続ける保証はないとのメッセージをアサド政権に送り、行程表の履行に取り組ませる一定の圧力をかけた、という見方もある。

しかし、原油価格下落と通貨安でロシア経済が厳しい中、戦費支出の長期化を避けたいというのが本音ではないのか。

懸念されるのは、ロシアが影響力を拡大し、シリア情勢の主導権を握っている現状である。米国は、反体制派の軍事力強化やアサド氏退陣後の受け皿作りに失敗し、後手に回る事態が続いている。

内戦終結には、関係国が協調し、停戦や和平協議を後押しすることが肝要だ。だが、米露に信頼関係はなく、ロシアの一方的な行動が目立つ。撤収についても、米国に事前説明はなかったという。

ロシアはシリア内の基地を維持しており、撤収した部隊をいつでも再投入できる。

ケリー米国務長官は近くロシアを訪問する。米国はロシアの動向や意図を見極め、今後の戦略を練る必要がある。

心配なのは、シリアで昨年6月に消息を絶ったジャーナリスト安田純平さんとみられる男性の動画がネット上で公開されたことだ。反体制派の一つである過激派「ヌスラ戦線」の勢力圏で拘束されたとの情報がある。

政府は安田さんの所在確認と全体像の把握を急いでいる。救出に全力を尽くしてもらいたい。

産経新聞 2016年03月16日

シリア和平協議 流血止める好機を逃すな

シリア内戦を終息へ向かわせるこの好機を逃さないでもらいたい。

2月初めに中断した国連主導の和平協議が再開した。デミストゥラ国連特使がアサド政権と反体制派を仲介し、移行政権の樹立や選挙実施、新政権発足につなぐ行程表について合意を目指す。

約27万人が犠牲となり、数百万規模の難民を生んだこの問題は、欧州内外で「移民排斥」の動きをもたらすなど、国際的な広がりを見せている。

米露を含むすべての当事者が、シリアの将来像を共有し、流血を止めることに尽くすべきだ。

反体制派とアサド政権にそれぞれ影響力をもつ米露両国は、協議を決裂させないよう当事者たちに強く働きかけ、妥協点を見いだす責務がある。

アサド政権支援のため、シリアに一方的に軍事介入していたロシアのプーチン大統領は、「大方の目的を達成した」として、15日からの主力航空部隊の撤退を命じた。言葉通りに、今後は介入を繰り返すべきではない。

「アラブの春」の際に米欧が軍事介入し、カダフィ体制を崩壊させたリビアの「その後」を思い起こすべきだ。事実上の無政府状態を招き、いまや過激組織「イスラム国」(IS)の第2の拠点となりつつある。

多数の自国民の死に責任のあるアサド氏は正当性を失った。ただ、難しいのは性急に政権排除を目指すだけではシリアがリビアの二の舞いとなりかねない点だ。

和平協議では、強力な治安・統治能力を備えた新政権の樹立を構想する必要がある。

サウジアラビアやイラン、トルコなど、自国の利益のために紛争当事者にてこ入れする周辺国も「代理戦争」をやめ、協議進展に向けた調整に徹すべきだ。

ISのテロの矛先は米欧だけでなく、中東各国にも向いている。シリア情勢の沈静化は、IS掃討につながる共通利益であることを忘れてはならない。

協議再開に先立ち、米露の圧力で2月末に実現した停戦はおおむね順守されている。シリア各地で政府軍や反体制派双方に包囲されて暮らす困窮地域の一部住民には、毛布や水、食料など国連物資が届き始めたという。

日本を含む国際社会は、人道支援の面でも和平プロセスを後押ししたい。

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