経済分析会合 増税先送りの布石か

朝日新聞 2016年03月17日

経済分析会合 増税先送りの布石か

消費税率の10%への引き上げを再び先送りする、その布石なのか。安倍首相自身や、首相に助言している学者らの最近の発言を聞けば、そうした見方が出るのも当然だろう。

「国際金融経済分析会合」が始まった。内外の著名な経済学者らを招き、首相や主要閣僚が意見に耳を傾ける。5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の議長国として、経済政策のあり方を議論する際の参考にするという。

しかし、首相が14年11月、翌年秋に決まっていた10%への消費増税の先送りと衆院解散を発表した際も、事前に有識者からの聞き取りを重ねていた事実を誰もが思い出すのではないか。

そこに、最近の言動が重なる。消費増税について、首相は「リーマン・ショックや東日本大震災級の事態が発生しない限り、予定通り引き上げる」と繰り返してきたが、先月下旬の国会答弁で「世界経済の大幅な収縮が起こっているか、専門的な見地の分析も踏まえ、その時の政治判断で決める」と加えた。

その後、首相自身は元の発言に戻したものの、分析会合でまず意見を述べたノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ・米コロンビア大教授は、世界経済の弱さを強調し、消費増税の見送りを進言した。

リーマン・ショック並みの経済混乱に見舞われたら、増税の延期は当然だ。海外経済に不透明感が漂うのも事実である。

しかし、現状は「リーマン級」にはほど遠い。消費増税は予定通り実施するべきだ。

なぜ消費増税が必要なのか。

私たち、今を生きる世代は様々な社会保障サービスを受けているが、財源が全く足らず、多額の国債発行でまかなっている。自らへの給付を支えるために負担を増やし、将来世代へのつけ回しを少しでも減らす。同時に、子育て支援など不十分な分野を充実させていく財源も確保する。それが「社会保障と税の一体改革」だったはずだ。

首相は、自らの発言に責任を持ってほしい。14年秋の記者会見で、その後の基本姿勢として「(消費増税を)再び延期はしないと断言する」と語ったではないか。経済状況次第で増税延期に道を開く「景気条項」を消費増税法から削除するよう命じたのも、その決意の表れではなかったのか。

近づく参院選を意識し、さらには衆院解散の時期を探ることが最優先なのだろうか。足元の株価に一喜一憂し、目先の対応を繰り返しても、日本経済の真の再生にはつながらない。

読売新聞 2016年03月18日

経済分析会合 消費増税再延期の地ならしか

安倍首相と閣僚らが、国内外の有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」が始まった。

5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で、議長国の日本が議論を主導するのに役立てるのが狙いとされる。

2017年4月に予定される消費税率10%への引き上げを再延期するための地ならしではないか、との見方も強まっている。

首相は14年11月に衆院解散とともに消費増税の先送りを決めた際、有識者会合を開き、判断材料としていた。増税に慎重な学者を今回の会合に多く招いたことが、こうした観測を呼んでいる。

ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は会合で、「消費増税は需要を増加させない。今のタイミングは適切ではない」と述べ、増税の再延期を勧めた。

22日の会合に出席するポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大教授も14年11月、首相と面会した際、デフレ脱却前に増税を実施する危険性を説いたという。

ただ、日本の財政は先進国で最悪の状態にある。しかも、消費税の増収分は全額、高齢化の進行を背景に膨張を続ける社会保障費に充てることになっている。

増税延期の是非を判断するには景気動向だけでなく、財政再建への影響や代替財源の確保など、多角的な検討が求められよう。

会合では、世界経済の先行きについて厳しい見方が相次いだ。

スティグリッツ教授は、「世界経済は低迷している。16年は、金融危機以降で最悪だった昨年よりも弱くなる」と指摘した。

年初来、混乱が続いた金融市場は一応、落ち着きを取り戻しつつある。だが、世界経済の前途にはなお、中国など新興国の景気減速や、原油価格の低迷といった不安材料が山積している。

安倍首相が「サミット議長国として、世界経済の力強い成長へ、明確なメッセージを出したい」と強調したのは理解できる。

リーマン・ショック後の世界経済を支えた新興国の成長鈍化が続く中、先進国が本来の役割を果たす重要性は高まっている。

サミットで具体的な処方箋を示すため、日本がいかに指導力を発揮するかが問われよう。

会合で、デール・ジョルゲンソン米ハーバード大教授は「生産性の向上を促すため、岩盤規制を撤廃すべきだ」と唱えた。

日本が民需主導の安定成長を実現するには、企業や個人の活力を高める成長戦略を着実に強化し、実行していかねばなるまい。

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