暴力団の対立抗争に、市民が巻き込まれることがあってはならない。警察は安全確保に全力を挙げてもらいたい。
全国最大の指定暴力団山口組と、分裂した神戸山口組の衝突が相次いでいる。警察庁は両組織が対立抗争状態にあると認定し、集中取締本部を設置した。
抗争とみられる事件は、昨年8月の分裂以降、50件を超える。最近は、組事務所への車両突入や発砲事件などが各地で頻発している。14日には、東京・歌舞伎町で乱闘事件を起こしたとして、山口組系組長ら4人が逮捕された。
今のところ、市民に被害が出ていないのは幸いだ。
だが、組事務所に近い学校では、通学路の変更を強いられている。保護者が子供の登下校に付き添っている地域もある。社会の不安を増幅させる抗争を早期に収拾させるのが、警察の使命である。
警察庁の金高雅仁長官は、全国の担当者を集めた緊急会議で、「我が国の暴力団対策の力量が問われる」と強調した。都道府県警は、組事務所周辺などの警戒警備を徹底することが肝要だ。
山口組は神戸市に、神戸山口組は兵庫県淡路市にそれぞれ本拠を置く。山口組組長の出身母体の組が勢力を拡大したことから、それに反発する一派が離脱し、神戸山口組を結成したとされる。
問題なのは、神戸山口組が全国3番目の規模となったにもかかわらず、暴力団対策法に基づく「指定暴力団」ではない点だ。
未指定のため、組員が飲食店や企業などにみかじめ料を要求しても、中止命令を出せない。組員の不法行為により、市民に損害が生じた場合、組長に賠償責任を負わせることも困難だ。
指定には、組長を頂点とした階層的組織である実態などを立証する必要がある。
都道府県警が神戸山口組の関係箇所を捜索するなどして、現状把握を進めている。兵庫県公安委員会は指定に向け、22日に組関係者からの意見聴取を実施する。
指定作業を加速すべきだ。今回の事態を教訓に、もっと迅速に指定が可能になるよう、暴力団対策法の見直しも検討する余地があるのではないか。
両組織を弱体化させるには、資金源を断つことも重要である。
山口組の抗争では、1980年代の「山一抗争」が知られる。一和会との分裂を巡り、暴力団関係者25人が死亡した。市民と警察官を含む70人が負傷した。こうした抗争に発展させてはならない。
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