広島・中3自殺 不適切な指導が追い詰めた

朝日新聞 2016年03月13日

広島中3自死 取り返せぬ学校の失態

ミスや思い込みが原因というには、あまりに深刻だ。

広島県府中町の町立府中緑ケ丘中学校3年の男子生徒(当時15)が昨年12月、自ら命を絶った。学校は、この生徒が1年生のときに万引きをしたとする誤った記録に基づき、「志望校に推薦できない」と伝えていた。

なぜこんなことが起きたのか。学校は調査報告書をまとめて謝罪したが、生徒の親は納得していない。さらに調査を進め、問題の所在を徹底的に明らかにし、関係者が納得する形で再発防止に努める必要がある。

学校によると、13年10月、広島市内のコンビニ店で別の生徒2人が万引きをした。対応した教諭は、生徒指導の担当教諭に連絡、この教諭がパソコンに記録を入力する際、誤って男子生徒の名を記入したという。

後日、生徒指導の会議で資料が配布され、誤りに気づいた教諭が指摘したが、元データは修正されないままだった。

結果的に進路指導にも使われた資料で、固有名詞の誤りを放置した学校の責任は重い。

だが問題はそれだけではない。担任教諭が十分な確認をせず進路指導にあたったことだ。

担任は昨年11~12月に計5回、個人面談した。万引きについて、生徒が明確に否定しなかったので事実確認ができたと認識したという。面談は廊下で立ったまま、1回5分程度、話しただけだ。進路に関わる以上、プライバシーにも配慮して慎重に確認するべきだった。

目の前の生徒を見ずに、記録を信用する。そんな本末転倒の対応が、重大な結果を招いた一因ではないか。

情報管理のずさんさや、教員同士の連携不足、進路指導のあり方。問われる問題は多いが、見逃せないのは、学校が、生徒が法に触れる行為をすれば入試で推薦しないという基準を設けていたことだ。過ちがあればいくら頑張っても取り戻せない。それで指導といえるだろうか。

教育には、ゼロトレランス(寛容度ゼロ)という考え方がある。非行の行為をランク付けし、段階に応じて罰則を定める生徒指導法のことだ。ルールの大切さを学ぶ効果はあるだろう。だが、罰則を一律に当てはめるだけでは、問題の根本的な解決にはならない。これを機にそのことも肝に銘じたい。

学校教育で大切なのは、先生が生徒と一対一で人間関係を築くことだ。そのためには子どもを個人として尊重することが欠かせない。全国の学校は今回の件を他山の石とし、教育の原点を見つめ直してほしい。

読売新聞 2016年03月13日

広島・中3自殺 不適切な指導が追い詰めた

度重なる教師のミスが生徒を死に追い込んだ。教育現場であってはならない事態である。

広島県府中町の町立中学3年の男子生徒が昨年12月、自殺した。

別の生徒の万引きが、この生徒の行為と誤記された資料を基に、担任教師から志望の高校に推薦できないと告げられた後だった。

資料は2年前に作成された生徒指導用の記録で、パソコンに入力する時に名前を間違った。万引きの場合、学校は、保護者を交えた面談などを行うことになっていたが、校内暴力への対応を優先し、怠っていた。

生徒指導の会議で資料の誤りが指摘され、その場では訂正された。ところが、パソコンの元データは修正されず、ほぼ毎週開催の同じ会議で6回にわたり、名前が誤記されたまま使われた。

町教育委員会と学校は、誤った進路指導が自殺の原因になったと認め、生徒の両親に謝罪した。

教師が初歩的なミスを重ね、生徒を苦しめて自殺にまで追い詰めたことは深刻である。

両親は「ずさんなデータ管理、間違った進路指導がなければ、我が子が命を絶つことは決してなかった」とコメントした。無念さはいかばかりだろうか。

町教委は第三者による調査委員会を設ける。原因を徹底解明することが欠かせない。

問題なのは、進路指導の方法も不適切だったことである。

担任教師がこの生徒と5回行った進路面談は、廊下で5分話した程度だった。慎重に扱うべき非行歴も、具体的な事実を確認せず、「万引きがあるよね」と問いかけただけだったという。

生徒は家で「どうせ先生は聞いてくれない」と漏らしていた。教師が生徒と信頼関係を築けていないことも背景にあるのだろう。

学校は昨年11月に高校への推薦基準を変更した。推薦決定まで1か月ほどしかなく、教師が作業に追われていた可能性も大きい。

生徒の将来にとって重大な判断を行う役割を担っているとの緊張感が欠けていたのではないか。

不適切な指導が最悪の結果を招いた事例はこれまでにもある。

昨年10月には、札幌市の男子高校生が携帯電話を盗んだ疑いをかけられて失踪し、遺体で見つかった。2009年には、福岡市で上履きを隠したと問いつめられるなどした男子中学生が自殺した。

指導を誤れば、生徒の心に深い傷を負わせることがある。教師は肝に銘じねばなるまい。

産経新聞 2016年03月15日

広島の中3自殺 目の前の生徒見ていたか

広島県府中町で町立中学3年の男子生徒が自殺した。「万引」をしたという誤ったデータに基づき、進路指導が行われていた。

目の前の生徒よりも誤記録を信じ、正すことを怠る。それでは教育といえまい。調査検証を尽くしてほしい。

町教委が自殺を公表してから約1週間たつが、学校側の失態が次々と判明した。

男子生徒は、進路について担任教諭、保護者との三者面談が予定されていた昨年12月に自宅で自殺した。個人面談で担任から、中1のときの「万引」を理由に、志望する私立校への推薦は難しいと言われていた。しかし、万引は他の生徒の行為が、誤って記載されたものだった。

学校側が2月末にまとめた報告書では、過去の会議で誤りが指摘されながら元データが修正されなかった経緯などが明らかにされ、「担任教諭らの思い込みやミスが重なり、学校として責任がある」としている。生徒の重要な情報について誰が責任を持つのかさえ不明確で、ずさんきわまりない。

それ以前に疑問なのは、1年時の問題行動の記載だけで推薦しない、という指導だ。あまりに事務的で冷たく見える。根本的な教育姿勢の誤りではないか。

同中学では、万引など触法行為があった場合、推薦しないという基準を3年時だけの行為から、1年時からの行為に急に広げていた。同校で問題行動が頻発していた事情などがあるという。

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