度重なる教師のミスが生徒を死に追い込んだ。教育現場であってはならない事態である。
広島県府中町の町立中学3年の男子生徒が昨年12月、自殺した。
別の生徒の万引きが、この生徒の行為と誤記された資料を基に、担任教師から志望の高校に推薦できないと告げられた後だった。
資料は2年前に作成された生徒指導用の記録で、パソコンに入力する時に名前を間違った。万引きの場合、学校は、保護者を交えた面談などを行うことになっていたが、校内暴力への対応を優先し、怠っていた。
生徒指導の会議で資料の誤りが指摘され、その場では訂正された。ところが、パソコンの元データは修正されず、ほぼ毎週開催の同じ会議で6回にわたり、名前が誤記されたまま使われた。
町教育委員会と学校は、誤った進路指導が自殺の原因になったと認め、生徒の両親に謝罪した。
教師が初歩的なミスを重ね、生徒を苦しめて自殺にまで追い詰めたことは深刻である。
両親は「ずさんなデータ管理、間違った進路指導がなければ、我が子が命を絶つことは決してなかった」とコメントした。無念さはいかばかりだろうか。
町教委は第三者による調査委員会を設ける。原因を徹底解明することが欠かせない。
問題なのは、進路指導の方法も不適切だったことである。
担任教師がこの生徒と5回行った進路面談は、廊下で5分話した程度だった。慎重に扱うべき非行歴も、具体的な事実を確認せず、「万引きがあるよね」と問いかけただけだったという。
生徒は家で「どうせ先生は聞いてくれない」と漏らしていた。教師が生徒と信頼関係を築けていないことも背景にあるのだろう。
学校は昨年11月に高校への推薦基準を変更した。推薦決定まで1か月ほどしかなく、教師が作業に追われていた可能性も大きい。
生徒の将来にとって重大な判断を行う役割を担っているとの緊張感が欠けていたのではないか。
不適切な指導が最悪の結果を招いた事例はこれまでにもある。
昨年10月には、札幌市の男子高校生が携帯電話を盗んだ疑いをかけられて失踪し、遺体で見つかった。2009年には、福岡市で上履きを隠したと問いつめられるなどした男子中学生が自殺した。
指導を誤れば、生徒の心に深い傷を負わせることがある。教師は肝に銘じねばなるまい。
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