首相改憲発言 参院選前に具体論を深めたい

朝日新聞 2016年03月04日

安倍首相へ あなたの憲法なのか

安倍首相が、憲法改正で踏み込んだ発言を続けている。

改憲案を国民投票にかけるのに必要な3分の2以上の議席確保をめざす考えに続き、先の参院予算委員会では「私の在任中に成し遂げたいと考えている」と、期限まで示した。

政治家だから、自らの政治目標を語ることは一般的にはあるだろう。しかし、憲法への首相の態度にはあべこべがある。

ひとつは改憲の進め方だ。

首相はまず3分の2の勢力を集めたいという。では憲法のどこをどう変えるのかと問われると、「各党が(案を)出して、(国会の)憲法審査会で議論していくことが求められている」と繰り返す。

何でもいいから変えたい、やりやすいところからやりたい。こう言っているに等しい。

背景には、米国に「押しつけられた」憲法を、自らの手で制定し直したいとの思いがあるのだろう。戦後の憲法論争が「変える」「変えない」を焦点にしてきたのも確かだ。

憲法のここが不都合だから、こう正したい、そんな議論なら分かる。だが、「とにかく変える」ことが何よりも先だというなら、順序が逆さまだ。

一方、首相は改憲への意欲に比べ、憲法を守ることにはこだわりがないようだ。もうひとつのあべこべである。

憲法を改正しなければ集団的自衛権の行使はできないとの歴代内閣の解釈を、内部の議論だけで覆してしまう。最高裁から定数配分を見直し、投票価値の平等を実現するよう繰り返し求められても、先送りを図る。

最近は、高市総務相が放送法などをたてにテレビ局の電波停止の可能性に触れ、首相もこれを容認した。

これには樋口陽一・東大名誉教授らが、「政治的公平」などを定めた放送法の文言だけを根拠に処分を行うのは違憲だとの見解を表明している。

樋口氏は「何人(なんぴと)も自分自身が関わっている事柄について裁判官となってはならない」と批判する。何が政治的公平かを政治家が判断することはおかしい、との指摘である。

憲法は、表現の自由など国民の権利がおかされないよう、権力に様々な制約を課している。ところが安倍政権は、こうした制約を乗り越えてしまうことに、あまりにためらいがない。

憲法を軽んじる姿勢が、中身はともかく改憲をという態度につながっているのではないか。

安倍首相は憲法によって縛られる側にいる。憲法は、権力者たるあなたのものではない。

読売新聞 2016年03月04日

首相改憲発言 参院選前に具体論を深めたい

夏の参院選に向け、与野党が憲法改正の議論を深める契機としたい。

安倍首相が参院予算委員会で、憲法改正について「自民党は立党当初から党是として掲げている」と強調したうえで、初めて「私の在任中に成し遂げたい」と言明した。

首相の自民党総裁任期は2018年9月までだ。参院選後の2年余で、与野党が改正内容を詰めた後、改正案を発議し、国民投票で過半数の賛成を得るのは、決して楽なスケジュールではない。

公明党には、「唐突な感じがする」との戸惑いの声もある。

だが、首相がえて改正の目標時期を区切ることで、参院選の主要な争点に据え、国会論議の活性化を図ったことを評価したい。

与党は、衆院では発議に必要な3分の2以上の議席を持つが、参院では30議席近く足りない。

首相が「与党、さらに他の党の協力もなければ難しい」と指摘したように、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党、新党改革といった、改正に前向きな野党との連携が欠かせない。

3分の2の勢力確保には、参院選で自民、公明、おおさか維新などとの合計で78議席を獲得する必要がある。13年参院選で自公両党は76議席を得て大勝したが、今回、憲法改正を争点に掲げれば、ハードルは決して低くあるまい。

国民投票が控えていることを考慮すれば、野党第1党の民主党などの協力も排除せずに、より広範な合意を形成して発議することが現実的な選択肢と言える。

11月に公布70年を迎える憲法は時代の変化に伴い、現実との様々な矛盾や乖離かいりが拡大してきた。

日本の安全保障環境は悪化し、自衛隊の国際平和活動参加への要請も高まっている。大規模災害に効果的に対処する仕組みや、衆参両院の役割分担、新たな人権のあり方も見直しが必要だろう。

大切なのは、衆参両院の憲法審査会で、改正項目の絞り込みと改正内容に関する具体的な議論を前に進めることである。

自民党は、緊急事態条項の創設を優先項目に挙げている。

巨大地震の際、円滑な被災者救助・支援や復旧のため、一時的な首相や政府の権限強化を定めておく。国政選が実施困難な場合、国会議員の任期延長を可能にする。こうした憲法規定の追加は国家の危機管理として当然である。

民主党は国民の権利制限に懸念を示すが、過剰な制限を避けるためにも、首相らの権限強化の枠組みを定める意義はあるはずだ。

産経新聞 2016年03月04日

首相の改憲発言 与党も争点化に向き合え

安倍晋三首相が国会で、憲法改正の実現に意欲を示す発言を重ねている。平成30年9月までの自民党総裁任期を念頭に、「私の在任中に成し遂げたい」と語った。

夏の参院選で、改正の国会発議に必要な3分の2以上の勢力確保を目指す考えも示した。首相は改正の実現を「歴史的使命」と位置づけてきた。その期限を区切ったのは評価できる。

ところが、首相周辺や与党はいかにも及び腰だ。それを正して、共に推進していく態勢を整えるのが首相の責任である。その覚悟が問われている。

菅義偉官房長官は「(首相は)今までと同じことを言っていた」と述べた。呼応して機運を高める気概は感じられない。公明党の漆原良夫中央幹事会会長は「わが党は改憲(勢力)に属する」としつつも、「(首相発言が)野党に結集軸を与え、利用される」と懸念を示した。

自民党は、13日の党大会で採択する運動方針案の憲法改正の項目から、原案にはあった「参院選での訴えを通じて」のくだりを削除した。党憲法改正推進本部も開店休業である。

これでは自民、公明両党に、憲法改正の必要性をしっかりと国民に訴えていく気があるのか疑わしい。参院選の争点にすることは得策ではないと思っているとしたら、情けない。

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