米国の民意はどこへ向かうのか。「トランプ現象」はもはやブームではない。保守層の中で確かな流れになりつつある。
実業家のドナルド・トランプ氏が2大政党のひとつ、共和党の大統領候補指名に向けて着実に歩を進めている。
50州のうち、11州でおとといあった予備選や党員集会でも、ライバルとの差を広げた。この勢いが続けば、党の候補の座を獲得し、11月の大統領選挙に臨むことになるかもしれない。
多くの国の人びとが不安の目を注いでいる。トランプ氏は、米国と世界を覆う難題への冷静な取りくみではなく、むしろ、米国内外の社会の分断をあおる言動を重ねてきたからだ。
やり玉に挙げるのは、メキシコ人であり、イスラム教徒であり、中国や日本でもある。民族や宗教などに標的を定めて攻撃し、テロの心配や雇用難などで怒る有権者の歓心を買う。
そんな扇動的な訴え方が、自由主義の旗手を自負する大国のリーダーとしてふさわしくないのは明らかだ。
トランプ氏は、人種や性問題での差別意識の疑いも漂わせてきた。白人至上主義を唱える団体の元幹部からの支持も、明確に拒む姿勢を見せていない。
もし人種的な意識が潜んでいるならば、危うい時代錯誤だ。米国の人口構成は着実に旧来の「白人」の比率が減り、中南米系やアジア系が増えている。
流入する移民とともに世界の頭脳と活力を吸収する成長力こそ米国の強みであり、実際、米国経済を引っぱる情報技術や金融界での移民の貢献は甚大だ。
多様性を否定するような言動は移民の国としての自己否定であり、トランプ氏が言う「米国の復活」にもつながるまい。
米国民の心情に、政治への強い鬱屈(うっくつ)があるのはわかる。新たな政治を求めて誰かを選ぶというより、旧来の政治を壊すために極端な主張に支持を寄せる現象は近年、他の民主主義国でもめだっている。
経済でもテロ問題でも、一国の有権者には見えにくい地球規模の情勢が、暮らしを左右する時代である。政治家たちが問題のありかを国外に求め、自国優先を唱えれば心地よく響く。それは各国共通の事情だろう。
だが現実には、移民を排し、外国を責め、国を閉じることで問題は何も解決しない。米国にいま必要なのは、多様な国民を統合し、国際社会と手を携えてグローバルな課題に向き合える有能な指導者を選ぶことだ。
秋の選挙に向けて賢明な選択を下すよう米国民に期待する。
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