G20と政策協調 市場安定へ行動が求められる

朝日新聞 2016年02月28日

G20協調 緩和依存から脱却を

年初来の世界金融波乱のあと初めて主要国の国際金融をつかさどる責任者たちが一堂に会した。きのうまで上海で開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、世界的な金融リスクがこれ以上高まらないように各国が政策を総動員することを確認した。

G20の協調を演出できたことは市場の動揺を抑えるのに一役買ったかもしれない。ただ、G20が有効な具体策を打ち出すことは難しい実情もあらわになったのではないか。

市場不安の主な要因は(1)中国経済の減速(2)原油価格の急落(3)米国の利上げ、の三つとされる。加えて欧州の難民問題、北朝鮮をめぐる緊張の高まり、泥沼化する中東情勢など、世界の不安定化が経済の長期停滞を市場に意識させている面もある。

リーマン・ショック以来、こういう事態に主要国はこぞって財政出動や金融緩和のエンジンをふかしてきた。ところが各国はほぼ手を打ち尽くし、今では追加策を打つ余地に乏しい。

しかもそうした対策の過剰が新興国バブルや資源バブルを生み、結果的にいまの金融波乱を招いてきた。危機対応が新たな危機を生む皮肉な構図である。

同じ過ちを繰り返さないためにも、主要各国が財政出動と金融緩和にこれ以上のめりこむことは避けるべきだ。今回のG20でそういう問題意識は共有されなかったが、軌道修正するときが来ているのではないか。

本当に必要な政策は長期的に経済を安定させる構造改革だ。中国なら過剰設備・過剰債務の解消や国有企業改革、欧州は財政統合の深化、日本は税と社会保障改革や財政の安定である。

心配なのは、各国が有効な手が見つからないなかで自国の輸出産業を有利にする通貨安政策に走ることだ。G20でも通貨安競争はしないことを確認した。

ただ、日本銀行が導入したマイナス金利政策には通貨安を促す効果がある。これを導入している日欧がこの政策を継続・強化すれば世界の通貨安競争を招きかねない。クリントン前国務長官など米大統領選の有力候補者たちが日本の円安誘導を批判しているのも気になる動きだ。

そもそも日欧が続ける超金融緩和は一時的なカンフル剤にすぎず、期待された経済成長にはつながってこなかった。しかもその長期化が次第に市場機能を損なう副作用の方が深刻になってきている。

日欧は一刻も早くこの「緩和依存」から脱却しなければならない。そのためにこそ主要国の協調が必要ではないか。

読売新聞 2016年02月28日

G20と政策協調 市場安定へ行動が求められる

世界的な金融市場の混乱を、これで抑えられるか。先進国と新興国は政策協調を実効あるものとしなくてはならない。

主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が閉幕した。採択された共同声明は、「世界経済の下方リスクと脆弱ぜいじゃく性が高まっている」とする厳しい認識を示した。

そのうえで、世界経済の失速回避に向けて、金融政策や構造改革、財政出動といった「全ての政策手段を総合的に用いる」との強い決意を表明した。

世界経済は、中国の成長鈍化や原油安、米国の利上げに伴う新興国からの資金流出など、多くの不安要因に覆われている。

G20が危機感を共有し、市場の安定化へ協調して臨む姿勢を打ち出したことは評価できよう。

各国は、過度な為替の変動が経済に悪影響を及ぼすとの見解で一致した。輸出促進のために自国通貨を切り下げる「通貨安競争」を避けることも確認した。行き過ぎた円高や、人民元切り下げを懸念する市場に配慮した形だ。

会議の焦点は、市場の混乱の震源地とされる議長国・中国が、動揺を鎮めるのに有効なメッセージを発信できるかどうかだった。

中国人民銀行の周小川総裁は、開会前に異例の記者会見を開いて追加の金融緩和策に言及するなど、市場の不信感を和らげるのに懸命だった。李克強首相も構造改革を進める方針を表明した。

だが、中国経済の先行きへの根深い不安を払拭するには、改革姿勢を強調するだけでは足りない。今後の政策の道筋を市場に明示することが求められよう。

麻生財務相が「具体的なスケジュールを伴った構造改革のプランを示す必要がある」と注文をつけたのは、もっともだ。

過剰設備の解消や国有企業の再編など、痛みを伴う改革をやり抜く行動力が欠かせない。

声明が、追加利上げを模索する米国などを念頭に、「政策の負の波及効果を最小化するため、明確にコミュニケーションを行う」と明記したのも妥当である。

新興国からの資金流出など、利上げの悪影響にも目配りしながら慎重な政策判断をしてほしい。

会議では欧州の金融システムの脆弱性も議論された。不良債権処理の加速や、経済を活性化する構造改革に力を注ぐ必要がある。

日本は、マイナス金利政策でデフレ脱却を図る考えを説明した。成長戦略を進め、内需主導の景気回復を実現することが急務だ。

産経新聞 2016年02月29日

G20声明 混乱収束へ具体的行動を

中国・上海で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が、財政、金融、構造改革など「すべての政策手段」を総動員し、世界経済の混乱を収束させるとする声明を採択した。

最近の国際金融市場の変調は、中国経済の減速や原油安、米国利上げなどが複合的に絡む。G20が結束して対処する姿勢を明確にできたのは前進である。

これを国際協調の演出に終わらせてはならない。日米欧や新興国が、国内事情だけでなく海外にも目を配り、効果的に政策を運営する。その具体的な行動こそが世界経済の安定化につながろう。

G20は「世界経済の見通しがさらに下方修正されるリスクへの懸念が増大している」との認識を共有した。通貨の競争的な切り下げを回避し、為替市場での「緊密な協議」を明記したのは、景気悪化を阻止する決意の表れだ。

声明は「金融政策のみでは均衡ある成長につながらない」とも指摘した。もとより、景気を一時的に刺激する金融、財政政策だけでは成長基盤を築けない。同時に生産性や潜在成長率を高める構造改革を進めるべきだ。

とくに注視したいのが中国である。過剰な設備や債務の解消のほか、国有企業改革や金融自由化など課題は多いが、その道筋はいまだに明確でない。

共産党独裁体制下で市場を支配しようとする構図も相変わらずである。市場との対話不足が世界経済の動揺を増幅させていることを厳しく受け止めるべきだ。

G20は、中国などの資本流出を抑える規制の指針作りを進めることでも合意した。ただ、過剰な規制で中国の自由化が後退する事態は許されない。議長国の中国が改革を確実に実行するよう強く迫る必要があろう。

声明は「機動的な財政政策」の実施も求めた。財政的な余力があるドイツや中国を念頭に置いた要請だが、景気が足踏み状態の日本でも、マイナス金利政策の実施に続く追加的な財政出動への期待が高まる可能性がある。

その際には財政健全化を踏まえつつ景気動向を見極め、その必要性を十分に吟味すべきである。

日本は伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)の議長国だ。G20だけでなく、先進7カ国(G7)の枠組みを通じて米欧との連携を強めるべきは言うまでもない。

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