炉心溶融 説明は納得できない

朝日新聞 2016年02月26日

炉心溶融 説明は納得できない

東京電力福島第一原発事故の発生直後、東電が認めようとしなかった「炉心溶融」(メルトダウン)について、実は社内マニュアルに判定基準があり、津波から3日後には判定できていたと自ら発表した。

記者会見した原子力・立地本部長代理は「(マニュアルは)今月に入って初めて発見した」と語った。

この経緯と説明には、全く納得できない。

東電は事故当初、核燃料が傷ついた状態を指す「炉心損傷」と説明した。2カ月以上経った5月末になって、燃料が溶け落ちた炉心溶融と認めた。溶融を認めるのに時間がかかったのは「判断する根拠がなかった」と説明していた。

この説明は虚偽だった。当時も「炉心溶融を隠し、事故を小さく見せようとした」と疑われたが、そうした疑念を再燃させる経過だ。

柏崎刈羽原発がある新潟県の泉田裕彦知事は「隠蔽(いんぺい)した背景や、誰の指示であったか、真実を明らかにしてほしい」と求めている。当然の要求だろう。

さらに不可解なのが、マニュアルの「発見」である。

炉心溶融は当時、原子力災害対策特別措置法の緊急事態を示す事象として明記されていた。小さなトラブルでも国に通報すべき事態かどうか気にかけているのに、この基準に思い至らなかったとは考えにくい。

過酷事故の最中に炉心溶融の有無を直接確認できるわけがない。だからこそ、東電は「炉心損傷が5%を超えたら炉心溶融と判定する」と明確な基準を作っていたのだろう。

原発で事故が起きれば、詳細なデータは電力会社しか持ち得ない。政府もメディアも、一義的には電力会社からの正確で迅速な情報がなければ、判断や報道を過ちかねない。

東電が12年にまとめた福島原子力事故調査報告書は「言葉の定義自体が共通認識となっていない炉心溶融の用語ではなく、得られたデータから判断できる範囲で正確に炉心の状況を伝えることに努めていた」とする。事故の総括が十分だったとは言いがたい。

再稼働問題に絡んで新潟県の技術委員会から求められて調べた結果が「発見」である。

東電は今後、第三者も交えて経緯を調べるという。

詳細に調査して責任の所在を明らかにするべきだ。どう再発を防ぐのか、企業体質に問題はないのか。納得できる説明を国民にしなければ、東電の信頼回復の努力は実を結ばない。

読売新聞 2016年02月27日

「炉心溶融」判定 責任感を欠く東電の情報発信

意図的に「炉心溶融」の認定を避けていた可能性はないのか。

東京電力が福島第一原子力発電所の事故当時、社内規則に記された判定基準を把握せず、深刻な事態を連想させる「炉心溶融」を否定していたことが分かった。

東電は「基準の存在に気付いていなかった」と釈明している。

国内最大の電力事業者でありながら、お粗末と言うほかない。

当時の「原子力災害対策マニュアル」には、核燃料の損傷割合が5%を超えれば炉心溶融と判定するよう記されていた。

福島の事故では、格納容器の放射線量を測定する装置が停電した。これが復旧した2011年3月14日以降、燃料損傷の割合が推計可能になり、3号機については、30%損傷などと推計された。

基準に従えば、明らかに炉心溶融の状況だった。

しかし、東電は当時、「炉心溶融の明確な定義がない」と主張し、「炉心損傷」と説明していた。記者会見で炉心溶融を認めたのは、約2か月後だった。

不安の増幅につながる「炉心溶融」の表現をえて避けたことで、国民に事態の重大性が伝わらなかったのではないのか。

東電は、社内規則が見過ごされた原因を徹底的に調査し、事故情報を迅速かつ正確に発信する体制を構築せねばならない。

当時の原子力安全・保安院は、震災翌日に1号機建屋が水素爆発した際、「炉心溶融」と発表した。だが、その時の広報担当者を交代させ、「溶融」という表現を使わなくなった経緯がある。

政府事故調査委員会は、当時の政府の姿勢について、「『炉心溶融』に言及するのを避けるため、無理のある広報の形跡も認められ、積極的に否定する趣旨の発言を行った」と批判している。

東電が、情報を発信する際に、政府の対応に合わせたことも考えられるだろう。

福島の事故後、原子炉等規制法や災害指針が改正され、混乱を招かないよう、事故報告で「炉心溶融」は用いないことになった。

重大事故時に、電力会社が原子力規制委員会に報告する必要があるのは、炉心損傷を推計するデータに限られる。住民避難についても、原子炉の状況に合わせた判定基準が明確化されている。

万が一の事故の際に、住民の安全を最優先した情報が円滑に発信されるよう、原子力防災訓練などを重ねて、体制を不断に見直すことが肝要である。

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