意図的に「炉心溶融」の認定を避けていた可能性はないのか。
東京電力が福島第一原子力発電所の事故当時、社内規則に記された判定基準を把握せず、深刻な事態を連想させる「炉心溶融」を否定していたことが分かった。
東電は「基準の存在に気付いていなかった」と釈明している。
国内最大の電力事業者でありながら、お粗末と言うほかない。
当時の「原子力災害対策マニュアル」には、核燃料の損傷割合が5%を超えれば炉心溶融と判定するよう記されていた。
福島の事故では、格納容器の放射線量を測定する装置が停電した。これが復旧した2011年3月14日以降、燃料損傷の割合が推計可能になり、3号機については、30%損傷などと推計された。
基準に従えば、明らかに炉心溶融の状況だった。
しかし、東電は当時、「炉心溶融の明確な定義がない」と主張し、「炉心損傷」と説明していた。記者会見で炉心溶融を認めたのは、約2か月後だった。
不安の増幅につながる「炉心溶融」の表現を敢えて避けたことで、国民に事態の重大性が伝わらなかったのではないのか。
東電は、社内規則が見過ごされた原因を徹底的に調査し、事故情報を迅速かつ正確に発信する体制を構築せねばならない。
当時の原子力安全・保安院は、震災翌日に1号機建屋が水素爆発した際、「炉心溶融」と発表した。だが、その時の広報担当者を交代させ、「溶融」という表現を使わなくなった経緯がある。
政府事故調査委員会は、当時の政府の姿勢について、「『炉心溶融』に言及するのを避けるため、無理のある広報の形跡も認められ、積極的に否定する趣旨の発言を行った」と批判している。
東電が、情報を発信する際に、政府の対応に合わせたことも考えられるだろう。
福島の事故後、原子炉等規制法や災害指針が改正され、混乱を招かないよう、事故報告で「炉心溶融」は用いないことになった。
重大事故時に、電力会社が原子力規制委員会に報告する必要があるのは、炉心損傷を推計するデータに限られる。住民避難についても、原子炉の状況に合わせた判定基準が明確化されている。
万が一の事故の際に、住民の安全を最優先した情報が円滑に発信されるよう、原子力防災訓練などを重ねて、体制を不断に見直すことが肝要である。
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