シャープ買収 国頼まぬ再生に活路開け

読売新聞 2016年02月26日

シャープ支援策 開発力の活用が再生のカギだ

国内の電機産業の苦境を象徴する買収劇だと言えるだろう。

「亀山モデル」などの液晶テレビで一世を風靡ふうびしたシャープが、台湾の鴻海精密工業傘下で再建を目指すことになった。

電機大手が外資に買収されるのは初めてだ。シャープが培ってきた技術力や商品開発力を損なうことなく、経営の立て直しを図れるか。これからが正念場である。

シャープは液晶事業への巨額投資が足枷あしかせになった。2015年3月期に、2000億円を超える赤字に転落し、自力再建が困難になっていた。鴻海は、シャープ再建に総額6500億円を投じる。

鴻海の年間売上高は15兆円に上る。米アップルなど世界的な企業から製造を受託し、強力な顧客基盤を有している。

シャープを巡っては、政府系ファンドの産業革新機構も、5000億円規模の再建案を提示していた。双方が提示した支援額の差が決め手になったのだろう。

革新機構案では、液晶や白物家電など事業ごとに解体されることへの抵抗感もあったとみられる。金融支援を続けてきた主力銀行にとっては、シャープ株を買い取る鴻海案の方が受け入れやすかったという事情もある。

鴻海は、高橋興三社長らを続投させ、事業の大幅な見直しや人員削減は行わないと表明している。それでどのように再生を果たすのか、不透明さは拭えない。

液晶市場では、韓国のサムスン電子、LG電子が2強だ。両社に対抗するため、鴻海はシャープの液晶技術を活用して“下請け”からの脱皮を目指す構えだ。

電子レンジや家庭用ビデオカメラなど、数々のヒット商品を世に送り出してきたシャープの潜在力を最大限に生かす道を見いだすことが、再生のカギとなろう。

気がかりなのは、経営不振の企業を再編や提携により再興させる民間の力が衰えていることだ。シャープ支援では、鴻海と革新機構しか手を挙げず、国内企業は静観を決め込んでいた。

日本は、電機以外の業界でも企業数が多く、国内勢同士が限られた市場を奪い合う構図が続く。台頭する新興国に対抗し、国際競争力の強化を図るには、協業や業界再編が有力な方策になる。

その担い手になる経営人材の育成が急務である。銀行や証券会社も、再編の仲介や再生ノウハウの提供などで、日本企業の復活を後押しする役割をしっかりと果たしてもらいたい。

産経新聞 2016年02月26日

シャープ買収 国頼まぬ再生に活路開け

経営危機の大手電機メーカー、シャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の出資を受けて再建を目指すことを決めた。一時検討した政府系ファンドの産業革新機構ではなく、外資の傘下入りを選んだ。

鴻海が革新機構を大幅に上回る資金支援を提示するなど、シャープの企業価値をより高く評価したことが決め手となった。合理的な判断といえよう。

米アップル向けなど、鴻海の世界的な販売網を活用し、両社で相乗効果を生み出すような事業再生を迅速に進めてほしい。

鴻海は7千億円規模を投じてシャープを買収する。ブランドの存続や若手社員の雇用維持なども表明している。シャープが持つ液晶技術などを使った製品開発に取り組み、世界市場への供給体制を強化するという。

ただし、鴻海は以前、同社への出資を約束しながら、株価下落を理由に見送った経緯がある。鴻海が今後、雇用や出資などの約束を確実に履行するかどうかについては注視していく必要があろう。

「液晶のシャープ」として一時代を築いた同社は、過剰な投資と、その後の競争激化による価格下落が響き、経営危機に陥った。人員削減や本社ビル売却などのリストラは進めたが、抜本的な事業改革は打ち出せなかった。

高橋興三社長ら経営陣は、その責任を重く受け止めるべきだ。

鴻海の支援を獲得しても、これからのシャープの道のりが険しいことに変わりはない。独自技術や創造性を生かし、魅力ある商品を生み出せるかどうかが、再建の鍵を握ることは言うまでもない。

一方、革新機構の提案は、シャープに約3千億円を出資し、銀行団にも金融支援を求めるものだった。液晶事業を分離し、機構が出資するジャパンディスプレイと統合することなどが柱だ。

液晶技術の海外流出を防ぎ、業界の再編を狙ったものだが、液晶市場は厳しい国際競争が繰り広げられている分野である。機構が国内の業界事情を優先して再編を主導しても、国際市場で生き残れるとは限らない。

国頼みの安易な会社再建は経営のモラルハザードを招き、経営悪化の原因追及が不十分なまま国民負担が膨らむ恐れがある。健全な競争をゆがめぬためにも、公的資金による支援は、他に手段がない場合に限定するのが筋だろう。

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