国内の電機産業の苦境を象徴する買収劇だと言えるだろう。
「亀山モデル」などの液晶テレビで一世を風靡したシャープが、台湾の鴻海精密工業傘下で再建を目指すことになった。
電機大手が外資に買収されるのは初めてだ。シャープが培ってきた技術力や商品開発力を損なうことなく、経営の立て直しを図れるか。これからが正念場である。
シャープは液晶事業への巨額投資が足枷になった。2015年3月期に、2000億円を超える赤字に転落し、自力再建が困難になっていた。鴻海は、シャープ再建に総額6500億円を投じる。
鴻海の年間売上高は15兆円に上る。米アップルなど世界的な企業から製造を受託し、強力な顧客基盤を有している。
シャープを巡っては、政府系ファンドの産業革新機構も、5000億円規模の再建案を提示していた。双方が提示した支援額の差が決め手になったのだろう。
革新機構案では、液晶や白物家電など事業ごとに解体されることへの抵抗感もあったとみられる。金融支援を続けてきた主力銀行にとっては、シャープ株を買い取る鴻海案の方が受け入れやすかったという事情もある。
鴻海は、高橋興三社長らを続投させ、事業の大幅な見直しや人員削減は行わないと表明している。それでどのように再生を果たすのか、不透明さは拭えない。
液晶市場では、韓国のサムスン電子、LG電子が2強だ。両社に対抗するため、鴻海はシャープの液晶技術を活用して“下請け”からの脱皮を目指す構えだ。
電子レンジや家庭用ビデオカメラなど、数々のヒット商品を世に送り出してきたシャープの潜在力を最大限に生かす道を見いだすことが、再生のカギとなろう。
気がかりなのは、経営不振の企業を再編や提携により再興させる民間の力が衰えていることだ。シャープ支援では、鴻海と革新機構しか手を挙げず、国内企業は静観を決め込んでいた。
日本は、電機以外の業界でも企業数が多く、国内勢同士が限られた市場を奪い合う構図が続く。台頭する新興国に対抗し、国際競争力の強化を図るには、協業や業界再編が有力な方策になる。
その担い手になる経営人材の育成が急務である。銀行や証券会社も、再編の仲介や再生ノウハウの提供などで、日本企業の復活を後押しする役割をしっかりと果たしてもらいたい。
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