中国全人代 政治改革に踏み込め

朝日新聞 2010年03月07日

中国全人代 「健全な成長」へ本腰を

単に、成長するかどうか、ではない。健全に成長するかどうか。中国について、世界がかたずをのんで見ているのは、そこである。

中国は今年も8%成長を目指すと同時に、成長至上主義による深刻な所得格差などのひずみをただす――。5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告で、温家宝首相が明らかにした。

昨年は世界的な経済危機のなか、8%成長を保つ「保八」が最大の目標になり、格差解消への取り組みは先送りされた。建設ラッシュの効果もあり、8.7%の成長を確保した。

世界に先駆けて経済の回復を実現した自信を背に、今年の方針は収入の格差是正に力点を置くことになった。経済構造を輸出・投資主導から消費主導に改めるとともに、省エネルギーにも励み、持続的成長を図るという。

達成は容易ではない。だが今年、日本を抜いて世界第2の経済大国になることが確実な中国が、成長を持続的なものにするためにも、その質に目を向けることは避けられない。

カギとなりそうなのが、所得分配制度の改革だ。「合理的な所得分配制度は、社会の公平・正義の重要な表れである」。「共同富裕」を提唱する温首相のこの指摘は正しい。

だが実際の中国社会は都市と農村の間だけでなく、地域間や業種間と様々な格差がはびこる。汚職や脱税が横行し、莫大(ばくだい)な不法所得を得る幹部も少なくなく、庶民の憤りをかっている。

そんな状況を打開しようと、労働報酬の引き上げが提案された。収入が増えてこそ、消費も拡大する。不法所得の徹底取り締まりも提起された。

都市との収入格差が3.33倍もある農村への対策も打ち出された。

農村を離れて都市部で働く1億5千万の農民工について、温首相は「労働報酬、子供の就学、住宅の賃貸・購入、社会保障面で都市住民と同じ待遇になるような環境をつくっていく」と述べた。ただ、農民工が切望する都市戸籍について抜本的改革を示せなかった。問題の難しさを物語る。

欧米から圧力のかかる人民元問題では、早期切り上げを否定した。完全には回復していない輸出への影響を考慮したのだろうが、このままでは資産バブルの恐れが増す。はじければ、最大の被害を受けるのは中国自身だ。

世界経済のためにも中国の成長は必要だが、ひずみを抱えたままの成長はひずみ自体を肥大させる。それは、社会の不安定化を招き、成長の基盤そのものを崩すだろう。

経済改革だけでなく、民主化など政治改革も欠かせない。中国の指導者たちは、成長の果実が大きくなり続けている今こそ、大胆な改革に乗り出す好機と考えるべきだ。

毎日新聞 2010年03月06日

中国全人代 政治改革に踏み込め

中国の国会である全国人民代表大会(全人代)が始まった。初日の5日、温家宝首相が政府活動報告を行い、今年の国内総生産(GDP)の成長目標を「8%程度」に設定した。

リーマン・ショック以後、中国は積極財政、金融緩和政策によって公共投資を中心に内需拡大を図り成長力を維持してきた。今年もこの路線を続ける。年内に日本を抜き世界第2位の経済大国となるのは確実だ。

だが、決して平たんな道ではない。胡錦濤国家主席は、今年が「最も複雑な年」になると警告している。住宅バブルやインフレの懸念が高まっており、きめ細かい政策が求められる。米国からは「中国の成長は他国の成長を犠牲にしている」と人民元切り上げを求める圧力がさらに強まるだろう。

胡主席はあと2年で中国共産党総書記の任期を終える。今年は、胡政権の掲げてきた「調和社会」建設の結果を出さなければならない。

温首相は「経済発展方式の転換」を強調した。中国には「流血GDP」という言葉がある。地方の指導者が成績を競ってGDPの数字を上げることに熱中するあまり、炭坑では安全管理がおろそかになり悲惨な大事故が続発している。工場は有害廃棄物を垂れ流し大気汚染や水質汚染が深刻だ。農民から暴力的に土地を取り上げる強制収用の乱発は、暴動の原因になっている。

中国の高度成長の背後に、人権や環境への無関心があることは否定できない。そのような経済成長が、少数の富裕層を生み、高級官僚を腐敗させ、社会の安定を損ない、その結果、内需の拡大を阻んでいる。温首相の指摘は正しい。

だが、流血GDPの横行は、つまるところ批判を許さない共産党独裁体制に由来しているのではないか。中国共産党は集団指導体制であり個人独裁の時代は終わったが、地方の下級党組織は党書記個人の独裁体制だ。暴力団と結託して利権をあさる地方党書記が問題になっている。

この全人代では、選挙法を改正し、都市住民と農村住民の1票の格差を是正することになっているが、いかにも生ぬるい。抜本的な政治体制改革に踏み込まなければ成果はあがらない。

残念なことに世界第2の経済大国にふさわしい国際信用が、まだ中国にはない。10年度の国防予算は前年度実績比で7・5%増。21年間続いた2ケタ増は終わった。ただ、以前から国防費の一部を科学研究費など他の予算に振り替える操作が疑われている。国防費の問題は、なにをするためにあれだけの軍備を持つのかが不明なことだ。調和は国内だけではない。国際社会とも調和する大国を中国は目指すべきだ。

読売新聞 2010年03月08日

中国8%成長 バブル退治と両立できるか

持続的な高度成長を目指す一方で、過熱も防がねばならない。中国政府にとって、経済運営のかじ取りが極めて難しい1年になろう。

中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が始まり、国内総生産(GDP)の8%前後の成長確保が、今年の目標として設定された。

900万人以上の雇用を創出し、失業率は4・6%以下、消費者物価上昇率は約3%を目指す。社会の安定を確保するために必要な数値ということだろう。

目標達成のため、今年も大規模な財政出動を続け、金融緩和策も原則的に維持する方針だ。

2008年秋に起きた世界金融危機で、先進国経済が軒並み打撃を受ける中、中国は昨年、8・7%もの高成長を実現した。

今年も積極的な景気刺激策を継続することで、8%の目標達成は可能ではないか。

中国は今年、GDP総額で日本を追い抜き、世界第2の経済大国となるのが確実視されている。中国政府は自覚をもって、適切な経済運営に臨むべきだ。

その中国経済のアキレス(けん)は、全国規模で起きている不動産バブルだ。海外にいる華僑らが投じる「熱銭(ホット・マネー)」と呼ばれる投機資金が価格を押し上げている。

北京や上海などの大都市では、マンションなどの価格は一般国民の手が届かないところまで高騰した。マイホームをあきらめきれない庶民の不満は根強い。

バブルの沈静化には、一定の金融引き締めと、投機目的の不動産購入への規制が必要だ。だが、行き過ぎれば景気が息切れしかねない。この両立が難問である。

都市住民と農民との経済格差是正も、相変わらず重要課題だ。

全人代では、農業・農村・農民の「三農」対策として、8000億元以上の予算をつぎ込み、農業関連の基盤整備などを進めることが表明された。

生産能力を引き上げ、農民の収入を増やすのが狙いだろう。

注目されたのは、全人代開幕前に新聞13紙が一斉に同じ社説を掲げ、戸籍制度の改善を訴えたことだ。都市住民の戸籍と農民の戸籍との間の差別をなくすべきだとの主張である。

この戸籍制度のため、都市部に働きに来た1億人を超える農民とその子弟は、出稼ぎ先で社会福祉の網から漏れるなど、不利な扱いを受けている。中国社会の安定のためには、この問題への本腰を入れた取り組みが欠かせない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/243/