原発40年超運転 「時間切れ廃炉」は許されない

朝日新聞 2016年02月25日

原発の延命 電力会社次第なのか

運転開始から40年を超えた関西電力高浜原発1、2号機(福井県)について、原子力規制委員会は、安全対策が新規制基準に適合するとの判断を示した。関電がめざす通算60年までの運転延長に道を開くものだ。

東京電力福島第一原発の事故を受けた法改正で、原発の運転期間は40年と定められた。ただし、規制委が認めれば、1回だけ最長20年間延長できる制度となった。

延長が認められるには、さらに規制委での許認可を得る必要がある。すべて通ればこの制度で初の運転延長となる。

40年とするルールは、当時の民主党政権が脱原発への姿勢を示し、古い原発から順次退場させるために導入した。運転延長の規定は、需給が逼迫(ひっぱく)して停電に陥る恐れなどから盛り込まれた。しかし、その後、どんな状況で延長を認めるのか、特段の規定はないままとなっている。

電力会社にとって大切なのは採算だ。40年ルールの下、小型で採算の悪い5基は廃炉としたが、残る43基でも運転30年超が18基を占める。長く使うことが採算に合えば延長を求めるし、すでに申請もしている。

このまま次々と手続きが進めば、40年ルールが形骸化しかねない。原発政策も、将来のエネルギー社会も、電力会社の都合で決まって良いのか。電力会社の算段を超える政治の意思はないのか。古い原発の運転延長が次々に決まれば集中立地する福井県のリスクが低下しないことにもなる。安倍首相が「原発依存度を可能な限り低減する」と何度も公言してきたのだから、政府は延長を明確に例外と位置づけるべきだ。

事故前は運転期間の定めはなく、電力各社も当初は「寿命は30~40年」と説明していた。その後、旧規制当局は解析技術の向上を理由に30年以降10年ごとに保全計画を出せば、最長60年の運転を認めることにした。

これを40年ルールに切り替えたのは、脱原発への意思である。規制委の田中俊一委員長も就任当時は運転延長については「相当困難」と述べてもいた。

しかし、高浜原発で規制委は電気ケーブルの防火対策について、難燃性ケーブルへの交換が難しい部分は防火シートで覆うとする関電の方針を認めた。この問題にめどが立ったことで電力各社は勢いづいている。

安倍首相は今年の施政方針演説で原発に言及しなかった。政府はこのままやり過ごすのか。

それでは、首相の過去の発言にも、多くの国民が求める脱原発にも背くことになる。

読売新聞 2016年02月25日

原発40年超運転 「時間切れ廃炉」は許されない

運転開始から40年超の原子力発電所としては初の「合格証」である。

原子力規制委員会は、再稼働に向けて、詰めの審査を円滑に進めてもらいたい。

関西電力高浜原発1、2号機について、規制委は、新規制基準に基づく安全性を確認したとする審査書案をまとめた。1か月の意見公募後に決定する。

東京電力福島第一原発事故後に原子炉等規制法が改正され、原発の運転期間は原則40年となった。一度だけ最大20年延長できる制度が設けられ、関電は、特例での再稼働を目指してきた。

今回、地震や津波、重大事故の対策が妥当だと判断された。今後、補強工事などの計画の認可が必要となる。これに加え、設備に劣化がないことが確認されれば、再稼働が実現する。

疑問なのは、7月7日までに規制委の審査が全て終了しないと、「時間切れ」になり、廃炉に追い込まれることだ。

古い原発の弱点とされたケーブルの火災対策として、防火シートでケーブルを覆う方針が決まっている。耐震性を確認するため、格納容器内の重要設備を実際に揺らす試験なども実施する。

こうした取り組みに対する規制委の審査が滞れば、期限に間に合わない事態を招かないか。

耐震性を確認する計算結果の書類だけでも、1万ページを超える膨大な量になる。ギリギリのスケジュールで審査すれば、見落としや誤認などのミスが起きやすい。

安全対策にお墨付きを与えたにもかかわらず、時間切れで廃炉になる現行の仕組みに問題があるのは明らかだ。そもそも、原発の運転期間を40年としたルールに科学的根拠はない。原子炉等規制法を再度、見直すべきだろう。

規制委は、今年11月に運転開始40年となる美浜原発3号機についても審査を進めている。高浜原発と合わせ、老朽原発の審査に人員が割かれ、他の原発の審査に停滞が生じていることも問題だ。

政府は、2030年の電源構成で原発比率を20~22%とする目標を掲げている。「40年廃炉」が相次ぎ、新増設もなければ、30年の原発比率は15%前後にとどまる。49年にゼロとなる。

発電コストなどに優れた原発の活用は、日本経済の再生に欠かせない。原発を主要電源として活用し続けることが重要である。

政府は、安全が確認できた原発の運転延長だけでなく、新増設の方針を明確に打ち出すべきだ。

産経新聞 2016年02月26日

原発の運転延長 高浜で40年超えの実現を

原子力規制委員会が、関西電力高浜原発1、2号機(福井県)の安全対策基本方針は新規制基準に適合しているとの「審査書案」を了承した。

1、2号機は、原則40年である運転期間の延長を目指す高経年原発だ。今後の審査をクリアし、40年を超える稼働を実現するよう期待したい。

2030年時点の電源構成で原発の比率を20~22%にする国の目標を達成するには、高経年原発の運転延長が欠かせない。

その観点からも、高浜原発の第一関門通過を歓迎したいが、最終合格までの道程は楽観を許さない。7月までに規制委による審査が完了していなければならないからである。

40年超えを実現するには、通常の再稼働の審査に加えて、原子炉圧力容器など重要設備の経年劣化がないことを規制委が確認する必要がある。

今の規制では、運転を延長するための審査期間は最長1年3カ月間と定められている。このタイムリミットが障壁だ。期間内に審査が終わらないと運転延長は認められず、電力会社は廃炉を余儀なくされてしまう。

関電は、高浜1、2号機の運転を20年間延長するよう申請している。看過できないのは、実際に何年間認められるかは、規制委次第だということだ。これでは、電力会社は安定供給のための健全な経営計画が立てられない。

高経年原発の運転延長には、安全対策工事を含めて千億円単位の費用を要する。最終的に認められなければ、電力会社は甚大な痛手を被ることになる。

国が高経年原発の活用を想定しているのに、そのリスクを一方的に電力会社に強いる仕組みは極めておかしい。改めるべきだ。

高浜1、2号機の運転延長を実現するよう、規制委の審査の一段の効率向上も望まれる。

米国では60年まで期間を延長することが認められており、80年を目指す機運まである。日本が原則40年とすることの妥当性について、科学的根拠に基づく再検討を行うことも必要ではないか。

そもそも運転延長の審査期間を1年3カ月に制限することに安全上の意味はない。その間に審査が終わっていないなら、継続審査とするのが道理ではないか。理にかなわぬ規制は見直すべきだ。それが真の安全性向上の第一歩だ。

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