衆院選制度改革 アダムズ方式を先送りするな

朝日新聞 2016年02月23日

衆院選挙制度 政権党の身を切る責任

一票の格差の是正を迫られている衆院の選挙制度改革を、どう進めるか。きのうの大島理森衆院議長による各党見解の聞き取りで、仕切り直しの各党協議が動き始めた。

過去3回の衆院選は、いずれも最高裁に「違憲状態」と判断された。選挙区によって一票の価値が2倍以上も異なる不平等を正すため、いまの国会で必ず制度改正をやり遂げなければならない。

それには各政党、とりわけ最大勢力の自民党の責任は重い。

今後の焦点は、都道府県の間の人口比に応じて定数配分を見直す「アダムズ方式」をただちに採用するかどうかだ。

有識者による調査会が1月に衆院議長に出した答申は、アダムズ方式による定数配分の見直しと選挙区6、比例区4の定数削減などを求めた。

これを受けて自民党がまとめた案は、まずは都道府県内の選挙区割りの変更にとどめ、都道府県をまたぐ定数配分の見直しと削減は2020年の大規模国勢調査以降に先送りするとの内容だった。

こうした後ろ向きな案に批判が高まると、安倍首相は先週の衆院予算委員会で「20年の国勢調査まで先送りをすることは決してしない」と述べ、今月中に発表される15年の簡易国勢調査を受けて定数削減に踏み切る考えを示した。

首相が主導して前に進めたようにも見える。だが、当初案があまりに消極的だっただけのことで、首相が胸を張るほどの話ではない。

自民党の谷垣幹事長はきのう、首相答弁に沿った削減を議長に表明した。ところが今回はアダムズ方式による「7増13減」とはせず、議員1人あたりの人口が少ない県の定数を減らす「0増6減」を提案した。これでは最高裁に速やかな撤廃を求められた「1人別枠方式」が実質的に残ることになる。

政権党として、無責任な対応と言わざるを得ない。

定数削減に反対の共産党や社民党を除き、公明党や民主党などは答申の受け入れを表明した。政党間協議で結論を出せずに有識者調査会に委ねた経緯を踏まえれば、当然の態度だ。

アダムズ方式が完全なやり方ではないにせよ、自民党がただちに導入に応じれば、おおむねの合意は形成できる。

自民党が否定的なのは、より多くの現職議員が定数減の影響を受けるからだ。

自ら約束した身を切る痛みを引き受け、合意につなげる。これこそ政権党の責任である。

読売新聞 2016年02月23日

衆院選制度改革 アダムズ方式を先送りするな

衆院の選挙制度改革では、小選挙区の「1票の格差」の是正を優先すべきだ。各党の意見集約を急ぎ、今国会で立法措置を講じねばならない。

与野党が、選挙制度改革に関する見解を大島衆院議長にそれぞれ表明した。

民主、公明、維新の各党などは有識者調査会の答申を基本的に受け入れた。自民党は、定数削減には応じるが、都道府県定数の再配分は先送りする考えを示した。

自民党案は、1票の格差を2倍未満に抑えるため、2015年の簡易国勢調査に基づき、小選挙区定数を6減らし、区割りを見直す。比例選は4削減する。安倍首相の指示で、原案を修正し、定数削減を前倒ししたものだ。

鹿児島、岩手など6県で各1減らす「0増6減」を検討している。都道府県ごとの定数再配分は20年の国勢調査後に行うとしており、弥縫びほう策との印象は否めない。

調査会は、「アダムズ方式」による「7増13減」の再配分を求めていた。都道府県間格差は最大1・621倍となる。選挙区間格差も2倍未満に収まる見通しだ。

自民党が再配分を先送りしたのは、「13減」の対象県の現職議員を中心に反対・慎重論が根強いという党内事情によるものだ。

だが、与野党が改革案で合意できず、有識者に検討を委ね、答申を尊重すると約束した経緯を軽視すべきではあるまい。他の主要政党がアダムズ方式への賛成で足並みをそろえる中、自民党は再考せざるを得ないのではないか。

民主主義の基盤である選挙制度は、より多くの党の賛同で見直すことが望ましい。安倍首相は今国会で関連法案を成立させる考えを示した。「1強」の自民党には合意形成を主導する責任がある。

残念なのは、主要政党が定数削減になお固執していることだ。

調査会が「10減」を提案したのは、各党の「国民との約束」に配慮しただけで、定数削減に「積極的な理由や理論的根拠は見いだし難い」と指摘している。

定数を減らせば、選挙で多様な民意を反映しにくくなる。法案審議などを通じた立法府の行政監視機能も低下しかねない。日本の国会議員は人口比でみれば、欧州諸国などより多くない。

定数が少ないほど、格差是正が難しくなり、その手間が増えることも考慮すべきだろう。

議員が「身を切る」姿勢を示す必要があるなら、定数を減らすのでなく、政党交付金の削減などで対応するのが筋である。

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