高齢者を預かる施設への信頼を揺るがす事件と言えよう。
入所者がベランダから転落死する事件が相次いだ川崎市の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の元職員の男が、殺人容疑で神奈川県警に逮捕された。
事件は2014年11月から12月にかけて3件続き、夜間から未明の時間帯に80~90歳代の男女3人が死亡した。23歳の元職員は、いずれの日も当直勤務だった。
逮捕容疑は、1件目の被害者の殺害だ。調べに対し、元職員は「抱き上げて、投げ落とした」などと容疑を認めている。
供述が事実であれば、なぜ殺意を抱いたのか。虐待などの予兆はなかったのか。元職員は、介護の仕事に「嫌気がさした」とも供述しているとされる。県警は、動機や経緯を詳細に解明し、再発防止につなげねばならない。
元職員は他の2件に関する話もしているという。3件とも目撃者はおらず、防犯カメラの映像なども残っていない。自白頼みの捜査に陥らぬよう、供述の慎重な裏付けが何より重要である。
事件を巡り、捜査の問題点が明らかになりつつある。所轄の幸署が県警本部に転落死の連続発生を報告したのは、3人目の死亡者が出た後だった。3件は、個別の変死事案として処理され、司法解剖などは行われなかった。
介護の必要な高齢者が、ベランダの高さ1メートル以上の柵を乗り越えて転落するのは、不自然ではないか。事件性を疑い、早期に本格捜査に着手すれば、その後の発生を防げたかもしれない。
元職員は昨年、入所者の現金や貴金属狙いの窃盗を繰り返したとして逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。別の元職員も入所者への暴行罪で起訴された。
施設の運営会社の親会社は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などを手広く展開する介護サービス業界の大手だ。信頼して入居した利用者や家族らは、裏切られた思いだろう。
職員の管理体制に問題がなかったのかどうか、施設の運営状況についての検証が必要だ。
介護施設の職員によるトラブルは後を絶たない。14年度に確認された施設での虐待は、過去最多の300件に上った。
背景として、かねて指摘されるのが、介護現場の深刻な人手不足だ。知識や経験の乏しい職員も雇用せざるを得ない実態がある。
職員教育の見直しと、外部からの監視強化が急務である。
この記事へのコメントはありません。