選挙制度は民主主義の土台だ。与野党の幅広い合意で見直すことが望ましい。自民党案では他党の理解は得られまい。
自民党が衆院選挙制度改革の原案をまとめた。小選挙区の「1票の格差」を2倍未満に抑えるため、2015年の簡易国勢調査に基づき、都道府県の定数配分は維持したまま、選挙区の区割りだけを見直す。
定数の削減と配分見直しは、20年の国勢調査後に先送りする。削減幅は小選挙区6、比例選4という。しかし、肝心の具体的な定数配分方式は曖昧なままだ。
自民党は、有識者調査会の答申に沿っていると強弁するが、誠実さが欠けていないか。
答申は、「アダムズ方式」で都道府県定数の再配分を求めた。定数は東京都と4県で計7増え、13県で各1減る。将来の人口変動を加味しても、1票の格差は当面、2倍未満に収まる見通しだ。
アダムズ方式は、他の主な配分方式と比べて、人口の少ない県に有利とされる。自民党は「地方に冷たい」と批判するが、地方にも一定の配慮をしている。
簡易国勢調査時の区割り見直しは、あくまで10年ごとの定数是正の補完措置との位置づけだ。
区割り見直しを先行させる自民党案は、答申のうち、自らに都合の良い部分をつまみ食いした印象が拭えない。定数が減る県の現職議員らの反発を避けたいのが本音ではないか。
問題なのは、自民党案では、今回と5年後の2回、大幅な区割り変更を余儀なくされることだ。
選挙区の境界が頻繁に変わるようでは、制度の安定性が損なわれかねない。有権者と議員・候補者の関係も希薄になろう。
そもそも、自民党は他党との協議で改革案に合意できなかったため、有識者に検討を委ね、その答申を「尊重する」と約束したはずではなかったのか。
答申は、定数削減の必要性に疑問を示しており、その点は議論の余地はある。だが、答申の根幹部分と言えるアダムズ方式を受け入れず、抜本改革を5年も先延ばしするのは筋が通らない。
民主党などからは早くも、自民党案について「論外」などと批判する声が出ている。
新制度への移行には、公職選挙法などを改正したうえ、区割りの見直し作業などが必要となる。
衆院で「1強」の自民党は、選挙制度改革論議を主導する重い責任がある。党利党略を排し、原案を練り直さねばならない。
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