診療報酬改定 機能する「在宅」へ支援を

朝日新聞 2016年02月12日

診療報酬改定 患者目線の改革を

医療サービスの公定価格にあたる診療報酬の2年に1度の改定内容が決まった。4月から実施される。

今回、大きな柱の一つが、患者の状態に即した医療を提供するために医療機関の役割分担を明確にすることだ。

例えば、看護師の配置が手厚い重症患者向けの病院には高い報酬が支払われているが、実際には必要性が薄い患者を受け入れている例もある。重症患者の入院割合などの基準を引き上げて、高い報酬を支払う対象を絞り込む。また、大病院の外来に患者が集中する現状を是正するため、紹介状なしで大病院を受診した場合には原則、診察代と別に最低でも初診で5千円、再診で2500円を支払わなければならなくする。

もう一つの柱が、薬に関係する見直しだ。患者の服薬指導や管理に取り組む薬局を「かかりつけ薬局」として推進するほか、在宅の患者を薬剤師が訪問し、重複している薬などについて医師に問い合わせる取り組みも後押しする。後発医薬品の使用割合の高い診療所に対する加算なども新たに設け、価格の安い後発品の使用を広げる。

国民医療費は40兆円を超え、今後さらに増えることが見込まれる。必要な人が必要な医療を得られるようにするためには、限りある資源を効率的に使うことは避けて通れない。その意味で、今回の見直しの方向性と、この改定で厚生労働省が示した医療のあり方は理解ができる。

しかし、診療報酬さえ変えれば、望ましい医療が実現できる、というものでもない。

例えば大病院への患者集中の是正は、改定の度に焦点になりながらも改善していない。背景には「身近に良い医院がない」「大病院のほうが安心だ」といった患者側の事情がある。

そうした課題が残ったままでは、単に患者の負担が増すことになりかねない。患者にとって身近で信頼できる開業医が増えていかないと、大病院志向を変えることはできないだろう。

欧米では「総合医」「家庭医」を育成・認定する仕組みがある。日本でも「総合診療医」が検討されているが、そうした医師の育成を急ぎ、地域に広げる取り組みが必要ではないか。

後発医薬品を広げるには、薬を処方する医師と、使う患者からの信頼を高めることが大切だ。突然の製造中止といったことのない安定供給や、安全性に関する情報提供が求められる。

患者が納得できる医療にするために、診療報酬改定に終わらない患者目線の改革が必要だ。

読売新聞 2016年02月16日

診療報酬改定 「かかりつけ」の普及進めたい

医療費の膨張を抑えつつ、超高齢社会のニーズに合った質の高い医療を提供する。その体制作りを前進させたい。

2年に1度の診療報酬改定の具体的な内容が、中央社会保険医療協議会で決まった。4月から適用される。

重症者向けの急性期病床の要件は厳しくする一方で、退院支援に積極的な病院や在宅医療への報酬を手厚くする。「病院依存」からの転換を図った前回改定の流れを加速させる狙いは妥当である。

人員を手厚く配置し、高度な機器を備えた急性期病床が過剰になり、リハビリ重視の回復期病床が足りないのが、目下の問題点だ。症状の安定した高齢者が、入院費の高い急性期病床に多数とどまり、医療費を押し上げている。

前回の改定後に削減された急性期病床はわずかでしかない。回復期向けなどへの転換をさらに促す必要がある。退院後の受け皿作りは、介護施設の整備も含め、介護保険と一体的に検討すべきだ。

持病があっても在宅で安心して暮らせるよう、「かかりつけ」機能を重視した点も、今回の特徴だ。身体疾患を併せ持つ認知症患者の主治医に対する報酬を新設する。在宅医療専門の診療所の開設も、新たに認める。

大病院を紹介状なしで受診する患者には、初診5000円以上、再診2500円以上の定額負担を導入する。かかりつけ医との役割分担を明確にし、軽症者の大病院への受診を減らすのが目的だ。

大病院の勤務医の負担軽減につながることも期待したい。

患者の服薬情報を一元管理する「かかりつけ薬剤師」に対する報酬も新設する。医師と連携し、重複投薬の防止や残薬の解消に努める。必要に応じて、患者宅で訪問指導を実施する。

複数の持病を持つ高齢者が多種類の薬を飲み、副作用でかえって体調を崩す例が目立つ。薬剤の適正な使用は、費用抑制だけでなく、患者のメリットも大きい。

特定の病院の処方箋を主に扱う「大型門前薬局」については、かかりつけ機能が不十分だとして報酬を大幅に減額する。後発薬(ジェネリック)の普及を促すため、価格を下げる措置も講じる。

課題は、かかりつけ医・薬剤師の量と質の確保である。

患者にとって、信頼できる開業医らが身近にいなければ、実効性は上がるまい。地域の医師会や薬剤師会の姿勢が問われる。

限りある財源と人材を有効活用していくことが大切だ。

産経新聞 2016年02月12日

診療報酬改定 機能する「在宅」へ支援を

4月に改定される診療報酬は、住み慣れた地域で医療が受けられる「地域包括ケアシステム」を推進し、入院患者のスムーズな在宅復帰を促す内容となった。

だが、医療の充実だけで「在宅」は実現するまい。安倍晋三政権は医療面にとどまらず、全般的な生活サポートに力を注ぐべきだ。

厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)が答申した改定内容の最大の狙いは、症状に応じて適切な医療が受けられるよう、医療機関の役割分担を求めたことだ。

高齢化が進み、慢性疾患やリハビリが必要な患者は激増していく。しかし、病院の利害がぶつかって、医療提供態勢の見直しはなかなか進まない。

報酬が高い重症患者向け病床の要件を厳しくし、在宅復帰率を高めるよう今回の改定が求めたのは当然である。各病院は、大胆な役割分担に踏み切るときだ。

一方、退院後の受け皿を整えなければスムーズな退院の流れはできない。現在、地域包括ケアシステムは一部の地域に限られており、その整備は喫緊の課題だ。

医師が中心とならなければ立ち上げることが難しい仕組みだ。病院や診療所、訪問看護ステーション、ケアマネジャーなどが定期的に情報共有した場合、診療報酬を手厚く配分することにしたのは、有効な方策となろう。在宅専門の医療機関を認め、休日往診も加算する。地域医療に積極的に取り組む医療スタッフが増えることを期待したい。

認知症患者の増大に対応するため「かかりつけ医」の普及にも力を入れ、医師と連携する「かかりつけ薬剤師」による服薬管理を強化した。高齢社会では患者へのきめ細かな対応が欠かせないだけに、広げたい施策だ。

問題は、独り暮らしや夫婦とも高齢という世帯が増えてきたことだ。医療提供態勢を充実させても、日常生活が機能しなければ在宅医療は画餅に帰す。

地域包括ケアシステムは、地域住民やボランティアなどによる「生活支援」を前提とする。近所付き合いの希薄な都会などでは、態勢づくりがなかなか進まないのが現実である。

厚労省任せにするのではなく、政府全体で「在宅」への総合的な政策立案を急ぐべきだ。

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