北方領土問題に対するロシアの姿勢は、硬直的で厳しい。安倍首相がプーチン大統領との会談を重ねる中で、打開の糸口を見つけたい。
首相は「北方領土の日」の7日、返還要求全国大会に出席した。領土問題について「首脳レベルの対話を通じ、最終的解決に向けて粘り強く交渉に臨む」と訴えた。
4~5月の大型連休にロシア南部のソチで、プーチン氏と会談する方向で調整している。プーチン氏の来日も、日露両政府が「最も適切な時期」を模索する。
領土問題の解決にはプーチン氏の決断が不可欠なだけに、自らの訪露で問題の前進を図ろうとする首相の意図は理解できる。
ただ、ウクライナ情勢を巡ってロシアと対立する米欧の反発も予想される。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)前に議長の首相が訪露することには、他の首脳の理解を求める努力が欠かせない。
政府は1月に、日露関係担当の政府代表ポストを新設し、原田親仁・前ロシア大使を起用した。従来の外務審議官に代わって、日露外務次官級協議に出席する。領土交渉の専従体制を作り、腰を据えて取り組むのが狙いだろう。
首相には、ロシアとの安全保障関係を強化し、中国の海洋進出や、北朝鮮の核・ミサイル開発を牽制したい思惑もあるようだ。
ロシアにも、中国の台頭への警戒感がある。原油・ルーブル安によるロシア経済の悪化が続き、国内総生産(GDP)は中国の4分の1以下に落ち込んだ。国力の格差拡大を危惧する声もある。
ロシアが中国との対抗上、日露関係を改善する重要性を日本と共有するかどうかが、領土問題を進展させる一つのカギとなろう。
看過できないのは、ロシアのラブロフ外相が1月下旬の記者会見で、「平和条約(の締結)は領土問題の解決と同義語ではない」と言い放ったことだ。
1956年の日ソ共同宣言に基づく歯舞、色丹両島の返還についても「返還ではなく、善意のしるしとして引き渡す」と語った。
だが、93年の東京宣言以降、日露両政府は再三、「北方4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する」と確認してきた。領土問題と平和条約は不可分である。
日ソ共同宣言に「善意のしるし」との文言はない。ラブロフ氏の独善的な解釈は容認できない。
政府は、「引き分け」による領土問題の解決を唱えるプーチン氏の真意を探りながら、慎重かつ戦略的に協議を進めるべきだ。
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