北ミサイル発射 地域の安定を揺るがす暴挙だ

朝日新聞 2016年02月08日

ミサイル発射 安保理の対処を急げ

北朝鮮がきのう、人工衛星の打ち上げと称して、事実上の弾道ミサイルを発射した。

国営メディアで「成功」をうたい、「今後もより多くの衛星を打ち上げる」と宣言した。

先月の核実験に続き、国連安保理決議に反する暴挙である。

中国を含む国際社会が重ねて発した自制の要求を、金正恩(キムジョンウン)政権は完全に無視した。国際秩序への挑戦に対し、安保理は決然とした対処を急ぐべきだ。

日米に加え、ロシア外務省も「国際法の規範を公然と無視している」とただちに非難した。核実験以降、安保理の制裁論議を滞らせてきた常任理事国として、中国の責任は重い。

朝鮮半島と東アジアの安定を真剣に憂慮しているというならば、中国は平壌に対し、明確な影響力を行使すべきである。

相次ぐ挑発を受け、韓国政府は米国による迎撃ミサイルシステム導入の検討を表明した。これまで中国に配慮して明言を避けてきたが、北が繰り返す脅しに重い腰をあげた形だ。

ただ、北朝鮮ミサイルの射程は90年代までに日韓を超えており、最近の発射は米国への揺さぶりを狙ったものだ。現在は、首都ワシントンやニューヨークまでをも含む射程の開発をめざしているとされる。

じわじわと安保環境を危うくする北朝鮮の暴走の連鎖をどう断つか。安保理と並行して日米韓と中ロは、6者協議の枠組みなどあらゆる場を用いて論議を活発化させるべきだろう。

金正恩氏は、元日に読み上げた「新年の辞」で、経済発展と市民生活の向上を強調した。だが、国民に希望を抱かせる演説は絵空事にすぎなかったことが証明された。

長距離ミサイルを飛ばす費用で、北朝鮮の3年分の食糧不足が解消されるという韓国政府の試算もある。核やミサイルの開発に固執する限り、経済の再建などできるわけがない。

正恩氏は、5月に予定する36年ぶりの朝鮮労働党大会に向けて実績がほしいようだ。しかし対外的な挑発でしか存在感を示せないのなら、指導者としての限界を露呈したも同然だ。

国際社会が北朝鮮問題に取り組むうえで日本の役割は重い。

安倍首相はきのう、独自の制裁の準備を指示した。手段は限られているとはいえ、強い非難の意を伝える行動は必要だ。

一方で日本は、拉致問題などをめぐる対話の枠組みを今も維持している。対話と圧力を駆使して北朝鮮に影響力を及ぼすには何ができるか、米韓と密接に協調しつつ工夫を尽くしたい。

読売新聞 2016年02月08日

北ミサイル発射 地域の安定を揺るがす暴挙だ

◆安保理は厳格な制裁決議を急げ

地域の平和と安定を揺るがす北朝鮮の脅威が一段と増大した。国際社会は結束し、対応せねばならない。

北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」との名目で、長距離弾道ミサイルの発射を強行した。愚挙の極みである。

国営の朝鮮中央テレビは「特別重大報道」で「地球観測衛星を打ち上げ、軌道への進入に完全に成功した」と発表した。

北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る国連安全保障理事会の決議は、弾道ミサイル技術を使った発射を禁じている。今回の発射が、1月の核実験と同様に、決議に違反しているのは明白だ。

◆懸念増す核運搬技術

度重なる暴挙は、国際秩序への深刻な挑戦であり、決して容認できない。安倍首相が「国際社会と連携して、毅然きぜんと対応していく」と強調したのは当然である。

北朝鮮が発射したのは、前回の2012年12月の「テポドン2改良型」に類似した3段式の弾道ミサイルとみられている。米当局の観測によると、ミサイルから分離された物体が地球を周回した模様だ。

前回に続いて宇宙空間にまで到達したことは、北朝鮮のミサイル技術の前進を裏付ける。昨年の発射台の延長工事は、ミサイル大型化で射程を伸ばす目的だったとの見方もある。

北朝鮮は、米本土を核搭載ミサイルで攻撃できる能力を確立することで、米国を交渉の場に引き出すのが狙いだろう。

経験が乏しい金正恩第1書記は側近を次々に粛清する恐怖政治を敷いている。ミサイル発射は、ますます合理的な判断ができなくなっている証左ではないのか。

安保理は緊急会合で、発射問題を協議する。実効性のある措置を打ち出すことが肝要だ。非常任理事国の日本も、強力な制裁決議の採択を他の理事国に積極的に働きかける必要がある。

◆中国の責任は重大だ

問題なのは、経済面で北朝鮮の生命線を握る中国が、制裁強化に慎重姿勢を崩していないことだ。中国政府は発射に「遺憾」を表明したが、厳しい非難は避けた。

習近平国家主席はミサイル発射の2日前、オバマ米大統領と電話会談し、連携して北朝鮮に対応することを確認していた。

しかし、習氏は「対話と協議を通じて問題を解決する」と語るだけで、強力な制裁を追求する米国への歩み寄りを見せなかった。

こうした中国の中途半端な姿勢が、北朝鮮を増長させたのではないか。北朝鮮は、米中電話会談の直後、国際機関に対して発射予告期間の前倒しを通告した。

北朝鮮は核実験とミサイル発射を繰り返している。従来の制裁が不十分なのは明らかだろう。

中国は北朝鮮に打撃を与える制裁をこれ以上回避せず、安保理決議の採択に協力すべきだ。

朴槿恵韓国大統領は、発射を非難し、「北朝鮮は核と、その運搬手段であるミサイル能力を高度化しようとしている」と断じた。

韓国政府は、最新鋭の米ミサイル防衛システムの韓国配備について、米国と公式協議を行うと発表した。中国の反対を押し切っての決定で、対中傾斜を修正する意思の表れだと言えよう。

北朝鮮は、日本を射程に収める弾道ミサイル・ノドンを大量に実戦配備しているとされる。ミサイルの精度が向上すれば、核兵器の小型化と相まって、日本にとっても脅威が深刻化する。

政府はミサイル発射の直後に、国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合を開いて、情報を分析し、今後の対応などを協議した。

政府は発射の3分後、全国瞬時警報システム「Jアラート」で沖縄県の自治体などに情報を速報した。おおむね円滑な情報伝達が行われたのは評価できる。

◆危機管理体制を万全に

自衛隊には、「破壊措置命令」が出されていたが、ミサイルが国内に落下する恐れはないと判断し、迎撃措置は取らなかった。

北朝鮮の発射予告期間の前倒しに迅速に対処し、自衛隊が地対空誘導弾PAC3などの配備を完了させたのは適切だった。

今回の一連の対応を検証し、日本全体の危機管理体制を強化することが欠かせない。

北朝鮮は、日本人拉致被害者の再調査の報告も先送りしている。政府は、解除した独自制裁の復活や強化を真剣に検討すべきだ。

北朝鮮が対日関係改善に完全に逆行する行動を続けた以上、日本は、それに見合う厳しい措置を取る。「行動対行動」の原則を貫くことが重要である。

産経新聞 2016年02月08日

北のミサイル発射 暴挙止める実効策を急げ

危険かつ異形の国に、どう向き合えばよいかが突き付けられている。

北朝鮮が国際社会の制止を無視し、「衛星」と称する長距離弾道ミサイルを発射した。

年初の核実験強行を受け、国連安全保障理事会が追加制裁決議を協議している最中の暴挙だ。

日本にとっては、国民が居住する先島諸島周辺の上空を通過し、危険回避の対応を迫られた。金正恩第1書記の狙いがどうあれ、日本や地域の安全を脅かす行為を許すことはできない。

度重なる安保理決議により、北朝鮮は核実験と「弾道技術を使った全ての発射」を禁じられているが、その効果に限界があることを示している。実効性のある、より強力な制裁を新たに科すことが急務である。

北朝鮮の暴走を止められない大きな要因として、安保理常任理事国である中国、ロシアが北を擁護し、厳しい制裁には慎重な姿勢を変えないことがある。

両国がなお姿勢を転換しないなら、安保理の存在意義は揺らぎ、無力さを露呈するだけだ。

安倍晋三首相は「わが国の安全に対する直接的かつ重大な脅威」と位置付け、「断じて容認できない」と述べた。ならば、その脅威をどう取り除くかである。

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