各国の成長に資する巨大な自由貿易圏の誕生に向け、重要な一歩だ。
日米など12か国が環太平洋経済連携協定(TPP)に署名した。各国の閣僚らが署名式に出席し、6年近くに及ぶ交渉が正式合意した。
安倍首相は、「TPPは国家百年の計だ。国民の豊かさにつなげていきたい」と語った。
中国の景気減速などで、世界経済の先行きへの懸念が強い。透明性のある高水準の貿易・投資ルールを整え、アジア太平洋地域を活性化する意義は高まっている。
12か国は、協定の早期発効を目指し、各議会の批准手続きや法整備を円滑に進めねばならない。
気がかりなのは、11月に大統領選を控える米国の動向である。
民主、共和両党の主な候補者は国内の雇用が奪われるとして、批准に反対や慎重な姿勢を示している。米議会の審議は、大統領選後まで先送りされる恐れがある。
TPPの発効には米国の批准が不可欠だ。発効が遅れると、成長を底上げする効果は実現せず、アジアが世界経済を牽引する構想にも陰りが生じかねない。
オバマ政権は、TPPの戦略的重要性を議会に説明し、理解を広げる努力を尽くしてほしい。
日本政府は、TPP承認案と、畜産農家の支援策などを盛り込んだ関連法案を今国会に提出する方針だ。米国に早期批准を促すためにも迅速な審議が求められる。
交渉を主導した甘利明・前TPP相は違法献金疑惑で辞任した。来年度予算案の成立後は、早期のTPP承認と関連法案成立に向けて、万全を期さねばなるまい。
TPPを最大限活用するための環境整備も今後の課題である。
昨年11月の政府のTPP政策大綱は、農家を保護する「守り」の施策は手厚いが、農産品の輸出や企業の海外進出を促す「攻め」の取り組みが物足りなかった。
政府の試算では、TPPは国内総生産(GDP)を2・6%増やす。成長の加速へ、今年秋のTPP対策第2弾は、農業や産業の体質強化に重点を置くべきだ。
外国より割高な肥料や農機具の値下げによる経営の効率化や、新規就農者の育成が大切である。
中小企業の海外展開を促すため、資金調達や情報収集の支援策を充実することも欠かせない。
TPPを巡ってはタイや韓国なども参加に関心を示している。
将来の参加国の拡大をTPPの「国際標準化」につなげたい。経済面でも独善的行動が目立つ中国への牽制効果も期待できよう。
この記事へのコメントはありません。