TPP署名 発展の礎へ早期の発効を

朝日新聞 2016年02月08日

TPP署名 懸念も丁寧に説明を

環太平洋経済連携協定(TPP)の参加12カ国が条約に署名し、協定の内容が確定した。

ただ、これで協定が発効するわけではない。議会での承認を含め、各国が国内での手続きを進める必要がある。

日本では、協定や関連する法改正についての審議がこの国会で予定されているが、気になるのは政府の姿勢だ。TPPが経済成長につながりそうなプラス効果の宣伝に余念がない一方で、さまざまな懸念については「限定的」「心配ない」と強調する場面が目立つ。

「21世紀型の協定」と称されるTPPの対象分野は幅広く、影響は社会、文化など多方面に及ぶ。プラスの効果が最大限表れるように努めつつ、「消費者の利益」を基準にさまざまな懸念の妥当性を見極め、必要があれば対策を講じる。そして政策決定の過程をしっかり国民に説明する。それが政府の役割である。

「プラス効果」の一例が昨年末に公表した経済効果分析だ。

13年に示した試算と比べ、貿易や投資の活発化に伴う産業界の生産性向上や賃金の上昇を見込み、効果がフルに実現すれば国内総生産(GDP)が2・6%増えるとはじいた。

関税削減・撤廃の対象産品を判断する「原産地比率」の計算で国際分業を前提とした方法を採り入れたり、途上国で課題が残る税関手続きが改善されたりすることを通じた貿易促進効果を織り込んだ。

その一方で、農林水産物の市場開放に伴う国内業界への影響では、「競争を通じて価格は多少下がるが、生産量は落ちない」と説明する。今年度の補正予算に対策費を計上済みで、今後も対応していくからという理屈である。

これでは政策展開の順番が逆だ。影響を見定めて必要な対策を練り、予算を確保するべきなのに、「おカネを積んだから安心して」と言わんばかりのやり方では、消費者の反発や疑問だけでなく農林漁業者の不安も高めかねない。

将来の協定改定をにらんだ規定に関しても「いいとこ取り」の姿勢がうかがえる。日本が強く求めてきた政府の入札・調達の開放では「発効から3年以内に再交渉する」と成果を強調しながら、農林水産物の関税の再協議が7年後から可能になることには及び腰だ。

通商交渉では各国の主張がぶつかりあい、妥協の末にまとまるのが常だ。全体像をしっかり説明する誠実さが、国民の理解を得るうえで欠かせない。

読売新聞 2016年02月05日

TPP署名 成長拡大へ早期発効が重要だ

各国の成長に資する巨大な自由貿易圏の誕生に向け、重要な一歩だ。

日米など12か国が環太平洋経済連携協定(TPP)に署名した。各国の閣僚らが署名式に出席し、6年近くに及ぶ交渉が正式合意した。

安倍首相は、「TPPは国家百年の計だ。国民の豊かさにつなげていきたい」と語った。

中国の景気減速などで、世界経済の先行きへの懸念が強い。透明性のある高水準の貿易・投資ルールを整え、アジア太平洋地域を活性化する意義は高まっている。

12か国は、協定の早期発効を目指し、各議会の批准手続きや法整備を円滑に進めねばならない。

気がかりなのは、11月に大統領選を控える米国の動向である。

民主、共和両党の主な候補者は国内の雇用が奪われるとして、批准に反対や慎重な姿勢を示している。米議会の審議は、大統領選後まで先送りされる恐れがある。

TPPの発効には米国の批准が不可欠だ。発効が遅れると、成長を底上げする効果は実現せず、アジアが世界経済を牽引けんいんする構想にも陰りが生じかねない。

オバマ政権は、TPPの戦略的重要性を議会に説明し、理解を広げる努力を尽くしてほしい。

日本政府は、TPP承認案と、畜産農家の支援策などを盛り込んだ関連法案を今国会に提出する方針だ。米国に早期批准を促すためにも迅速な審議が求められる。

交渉を主導した甘利明・前TPP相は違法献金疑惑で辞任した。来年度予算案の成立後は、早期のTPP承認と関連法案成立に向けて、万全を期さねばなるまい。

TPPを最大限活用するための環境整備も今後の課題である。

昨年11月の政府のTPP政策大綱は、農家を保護する「守り」の施策は手厚いが、農産品の輸出や企業の海外進出を促す「攻め」の取り組みが物足りなかった。

政府の試算では、TPPは国内総生産(GDP)を2・6%増やす。成長の加速へ、今年秋のTPP対策第2弾は、農業や産業の体質強化に重点を置くべきだ。

外国より割高な肥料や農機具の値下げによる経営の効率化や、新規就農者の育成が大切である。

中小企業の海外展開を促すため、資金調達や情報収集の支援策を充実することも欠かせない。

TPPを巡ってはタイや韓国なども参加に関心を示している。

将来の参加国の拡大をTPPの「国際標準化」につなげたい。経済面でも独善的行動が目立つ中国への牽制効果も期待できよう。

産経新聞 2016年02月05日

TPP署名 発展の礎へ早期の発効を

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加する日米など12カ国が協定文に署名した。各国は今後、発効に向けて国内手続きなどを進める。

TPPは、日本が発展するための礎となる。発効時にその恩恵が最大限得られるよう、安倍晋三政権は、農業改革を含む経済の構造転換に万全を期さなくてはならない。

政府は今後、国会にTPPの承認案と関連法案を提出し、与野党の論戦が本格化する。注目したいのは、TPPをどう成長につなげるかという前向きな視点だ。

政権の狙いに反し、日本経済はいまだ確固たる成長の基盤を築けず、停滞感すら漂う。TPPはこれを打開する成長戦略の柱だ。

貿易・投資の自由化や域内の共通ルールは、地方企業やサービス業の海外展開を後押ししよう。農業の生産性向上や、輸出拡大の好機でもある。安価な輸入品は消費者にも幅広く恩恵を及ぼす。

懸念は、これら本来の意義を十分に踏まえず、農業への打撃など「痛みの議論」に与野党が終始することだ。署名式前、担当閣僚の甘利明氏が辞任したが、政権の取り組みに揺らぎは許されない。農業票を意識したバラマキなどでは改革に結びつかない。

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