建設石綿判決 国も企業も救済に動け

朝日新聞 2016年02月01日

建設石綿判決 国も企業も救済に動け

4度にわたって国が一審で敗訴した事実は重い。被害者を救済するため、国はすみやかに支援に動くべきだ。

建設資材に含まれるアスベスト(石綿)の粉じんを吸い、中皮腫や肺がんなどを患った元建設作業員と遺族の計27人が、国と石綿建材メーカーを訴えた裁判で、京都地裁は両者の責任を認める判決を出した。

判決はこう指摘した。

国は70年代初めには石綿の危険性に気づけた。それなのに作業現場で防じんマスク着用などを義務づけなかった――。

そして東京、福岡、大阪各地裁に続き、原告に賠償するよう命じた。

原告らは、呼吸困難を伴う疾患を抱えながら法廷闘争を続けてきた。「命あるうちの決着を」が共通する願いだ。同種の訴訟は全国7地裁・高裁で係争中だが、国は和解などを模索すべき段階ではないか。

注目すべきは初めて建材メーカーの責任を認めたことだ。

石綿工場の元労働者らが訴えた泉南アスベスト訴訟などと違い、この訴訟の原告は建設作業員として各地の現場を渡り歩き、石綿を扱った人たちだ。どの現場の、どの石綿建材が原因で発症したのか、因果関係の特定は極めて難しい。

22日の大阪地裁判決もメーカーへの請求は棄却した。

これに対し京都地裁は、石綿を含む建材を警告表示なく流通させたこと自体が「加害行為にあたる」と認定した。そのうえで、「おおむね10%以上のシェアのあるメーカーが販売した建材が被害を与えた蓋然(がいぜん)性が高い」とし、一定の条件に合うメーカーに賠償を命じた。

広く救済に道を開く先例として、今回の判決は他の裁判にも影響を与えるのではないか。

賠償を命じられたのは東京、大阪など6都府県の9社だ。建材メーカーはこれまで法的責任を免れてきたこともあり、原告との面会を拒否するなど、救済に後ろ向きな姿勢をとり続けてきた。原因商品を作った立場として、少なくとも国とともに救済策を考えるべきではないか。

石綿は70~90年代に大量に輸入され、用途の8割以上が吹きつけ材や屋根などの建材だ。石綿疾患の潜伏期を考えれば、今後も健康被害が続くだろう。

06年にできた石綿健康被害救済法で、月約10万円の療養手当などが支給されるようになった。だが、まだまだ不十分だという批判がある。原告らは国やメーカーなどによる新たな基金の創設を求めている。判決を機に議論を深める時に来ている。

読売新聞 2016年02月02日

建設石綿判決 被害者の手厚い救済が要る

国と建材メーカーの不作為を指弾した。

元建設労働者らが損害賠償を求めた「建設アスベスト(石綿)集団訴訟」で、京都地裁が国とメーカー9社に、それぞれ1億円余の賠償を命じた。

被害者への手厚い補償を求めた判決と言えよう。

安価で耐火性に優れる石綿は、1970年代から90年代にかけて大量輸入され、建材などに用いられた。建材を加工する建設現場では、石綿繊維を含む粉じんが大量に発生したとされる。

訴訟では、現場で石綿を吸って肺がんなどの健康被害を受けたとして、遺族を含む計27人が国とメーカーの責任を追及した。

判決は、国は70年代初めには石綿の危険性を認識できたと指摘した。その上で、事業者に防じんマスクの着用や集じん機付き工具の使用、建材への警告表示を義務付けるべきだったと結論付けた。

住宅建設を優先し、十分な対策を講じなかった国の怠慢を重く捉えたのは、もっともだ。

同様の訴訟の判決5件のうち、4件で国の責任が認定された。地裁段階とはいえ、国敗訴の司法判断が定着しつつある。

今回、注目されるのは、一連の訴訟で初めて建材メーカーの責任にも踏み込んだ点だ。

建設労働者は多くの現場を渡り歩くため、これまでの判決は「被害原因となった建材が特定できない」として、建材メーカーへの賠償請求は退けてきた。

京都地裁は、建設労働者が年に10か所以上の現場で作業するという前提で、10%以上のシェア(市場占有率)を有するメーカーに賠償を命じた。

「10%」の線引きが適切かどうかの議論はあろう。だが、警告を表示しなかったメーカーも応分の責任を負うべきではないか。

兵庫県尼崎市の機械メーカーの工場周辺で、石綿被害が判明したのを契機に、2006年に石綿健康被害救済法が成立した。これに基づき、政府は、工場の周辺住民や労災認定を受けられない労働者を救済してきた。

ただ、今回の原告のように、休業補償や医療費の支給だけでは不十分だとの声が多い。

20~50年とされるアスベスト禍の潜伏期間を考えれば、建設労働者の健康被害は今後、全国規模で顕在化するだろう。

支援団体は、政府と建材メーカーによる補償基金の創設を求めている。政府は、こうした提案も参考に救済策を検討すべきだ。

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