国と建材メーカーの不作為を指弾した。
元建設労働者らが損害賠償を求めた「建設アスベスト(石綿)集団訴訟」で、京都地裁が国とメーカー9社に、それぞれ1億円余の賠償を命じた。
被害者への手厚い補償を求めた判決と言えよう。
安価で耐火性に優れる石綿は、1970年代から90年代にかけて大量輸入され、建材などに用いられた。建材を加工する建設現場では、石綿繊維を含む粉じんが大量に発生したとされる。
訴訟では、現場で石綿を吸って肺がんなどの健康被害を受けたとして、遺族を含む計27人が国とメーカーの責任を追及した。
判決は、国は70年代初めには石綿の危険性を認識できたと指摘した。その上で、事業者に防じんマスクの着用や集じん機付き工具の使用、建材への警告表示を義務付けるべきだったと結論付けた。
住宅建設を優先し、十分な対策を講じなかった国の怠慢を重く捉えたのは、もっともだ。
同様の訴訟の判決5件のうち、4件で国の責任が認定された。地裁段階とはいえ、国敗訴の司法判断が定着しつつある。
今回、注目されるのは、一連の訴訟で初めて建材メーカーの責任にも踏み込んだ点だ。
建設労働者は多くの現場を渡り歩くため、これまでの判決は「被害原因となった建材が特定できない」として、建材メーカーへの賠償請求は退けてきた。
京都地裁は、建設労働者が年に10か所以上の現場で作業するという前提で、10%以上のシェア(市場占有率)を有するメーカーに賠償を命じた。
「10%」の線引きが適切かどうかの議論はあろう。だが、警告を表示しなかったメーカーも応分の責任を負うべきではないか。
兵庫県尼崎市の機械メーカーの工場周辺で、石綿被害が判明したのを契機に、2006年に石綿健康被害救済法が成立した。これに基づき、政府は、工場の周辺住民や労災認定を受けられない労働者を救済してきた。
ただ、今回の原告のように、休業補償や医療費の支給だけでは不十分だとの声が多い。
20~50年とされるアスベスト禍の潜伏期間を考えれば、建設労働者の健康被害は今後、全国規模で顕在化するだろう。
支援団体は、政府と建材メーカーによる補償基金の創設を求めている。政府は、こうした提案も参考に救済策を検討すべきだ。
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