子どもたちの教科書選びが、質ではなくお金で左右されているのではないか。
そんな疑いを抱かせる行為が教科書業界に広がっていた。
ゆゆしき事態である。
小中学校の教科書会社22社のうち、10社が過去4回の検定の際、検定中の本をいち早く教員らに見せ、交通費など実費以外に金品を渡していた。
相手方の教員らは4千人近くに上る。渡されたのは現金3千~5万円や図書カード、手土産などだ。
文部科学省が各社に自己点検結果の報告を求めた。
すべてが選定狙いだとは言い切れない。選定用の見本をつくる前に、間違いがないか教員にチェックしてもらう。編集に協力した人々に、できた本を見せる。そんな例もあっただろう。
だが謝礼を渡す側には、有利な働きかけを求める意図がなかったとは言い切れまい。
受け取った教員の側も、公務員としての自覚と倫理に欠けている。
金品は懐に入れたままなのか。教育委員会が教科書を選ぶ際の資料づくりに関わっていなかったか。実際に選定への便宜を図ったのか。
文科省は経緯を徹底的に洗い出してほしい。そのうえで、公正さや透明性を高める対策を打ち出してもらいたい。
深刻なのは、7人の教育長や3人の教育委員に中元や歳暮を贈った数研出版の例である。
自治体の教育長、教育委員は教科書を直接選ぶ立場だ。金品の授受は贈収賄になりかねない。できるだけ早く調査を尽くすべきだ。
教科書会社は深く反省する必要がある。
10社の行為は、検定中の本を見せることを禁じた文科省の細則と、金品の提供を禁じた業界のルールに違反していた。
だが問題は規則を破ったことにとどまらない。教科書への信頼を深く傷つけたことにある。
教科書は授業の軸となる教材だ。無償配布の小中学校の教科書は国費であがなっている。
全社が襟を正すべきだ。
忘れてならないことがある。不正を防ごうとするあまり、現場の教員の声を聴く機会が失われてはならないということだ。
文科省は検定が終わった後、各社合同の形での教員向けの説明会を開けないか考えている。検定中も含め、オープンな意見交換の場を検討してほしい。
現場の実情を反映させることは、豊かな教科書をつくるために欠かせない。角をためて牛を殺してはならない。
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