教科書選定 謝礼の調査、徹底的に

朝日新聞 2016年01月23日

教科書選定 謝礼の調査、徹底的に

子どもたちの教科書選びが、質ではなくお金で左右されているのではないか。

そんな疑いを抱かせる行為が教科書業界に広がっていた。

ゆゆしき事態である。

小中学校の教科書会社22社のうち、10社が過去4回の検定の際、検定中の本をいち早く教員らに見せ、交通費など実費以外に金品を渡していた。

相手方の教員らは4千人近くに上る。渡されたのは現金3千~5万円や図書カード、手土産などだ。

文部科学省が各社に自己点検結果の報告を求めた。

すべてが選定狙いだとは言い切れない。選定用の見本をつくる前に、間違いがないか教員にチェックしてもらう。編集に協力した人々に、できた本を見せる。そんな例もあっただろう。

だが謝礼を渡す側には、有利な働きかけを求める意図がなかったとは言い切れまい。

受け取った教員の側も、公務員としての自覚と倫理に欠けている。

金品は懐に入れたままなのか。教育委員会が教科書を選ぶ際の資料づくりに関わっていなかったか。実際に選定への便宜を図ったのか。

文科省は経緯を徹底的に洗い出してほしい。そのうえで、公正さや透明性を高める対策を打ち出してもらいたい。

深刻なのは、7人の教育長や3人の教育委員に中元や歳暮を贈った数研出版の例である。

自治体の教育長、教育委員は教科書を直接選ぶ立場だ。金品の授受は贈収賄になりかねない。できるだけ早く調査を尽くすべきだ。

教科書会社は深く反省する必要がある。

10社の行為は、検定中の本を見せることを禁じた文科省の細則と、金品の提供を禁じた業界のルールに違反していた。

だが問題は規則を破ったことにとどまらない。教科書への信頼を深く傷つけたことにある。

教科書は授業の軸となる教材だ。無償配布の小中学校の教科書は国費であがなっている。

全社が襟を正すべきだ。

忘れてならないことがある。不正を防ごうとするあまり、現場の教員の声を聴く機会が失われてはならないということだ。

文科省は検定が終わった後、各社合同の形での教員向けの説明会を開けないか考えている。検定中も含め、オープンな意見交換の場を検討してほしい。

現場の実情を反映させることは、豊かな教科書をつくるために欠かせない。角をためて牛を殺してはならない。

読売新聞 2016年01月24日

教科書謝礼問題 不正行為の蔓延にあきれる

教科書業界の規範意識の欠如には、あきれるばかりである。

検定教科書を巡る謝礼問題で、文部科学省が調査結果を公表した。

小中学校の教科書を発行する22社のうち10社が、2009年度以降、検定中の教科書を4000人近くの教員らに見せ、現金などを渡していた。謝礼の総額は3500万円を超える。

不正行為は全ての検定年度で確認された。最初に発覚した三省堂だけでなく、不正は業界で常態化し、蔓延まんえんしていたと言える。

中でも、教科書の占有率(シェア)で上位を占める大手の違反が目立つ。東京書籍、教育出版、光村図書出版は、いずれも発行する全教科の教科書を閲覧させ、教員らに1人あたり3000円~3万円の現金などを渡した。

検定作業に不当な圧力がかかるのを防ぐため、文科省の規則は、検定中の教科書を外部に見せることを禁じている。謝礼を受領した教員らが、検定終了後に教科書の選定(採択)に関与した場合、その公正さがゆがむ恐れがある。

実際、東京書籍の幹部は「採択目的があったのは否定できない」と明かしている。不正な営業により、高いシェアを維持していたのであれば問題だ。

三省堂のケースでは、謝礼を受け取った校長ら6人が関わった6地区の教科書選定で、教科書が他社から三省堂に切り替わったことが判明している。

文科省は、謝礼提供が教科書選定に与えた影響について、教育委員会を通じた調査を継続する。不正が確認された場合には、厳正な処分が求められる。

見過ごせないのは、数研出版が教育長や教育委員計10人に、歳暮や中元を贈っていたことだ。教科書選定の権限を持つ教育長らに便宜を期待したとの疑念を抱かせる不適切な行為というほかない。

教科書営業では、かつても金品の提供が横行した。このため、独占禁止法の特殊指定を受け、教員らに対する利益供与が禁じられた。状況が改善されたとして、06年に特殊指定が廃止され、業界の自主規制に委ねられた。

今回、業界の自浄能力の欠如が浮き彫りになったことで、各社の経営陣の責任も問われよう。

教科書会社が工夫を凝らし、質の高い教科書を作る。出来上がった教科書は、あくまで内容に基づいて、教委が公正に選ぶ。

教科書への信頼は、こうしたプロセスの上に成り立っていることを、関係者は再認識すべきだ。

産経新聞 2016年01月26日

教科書謝礼問題 子供に顔向けできるのか

採択を歪(ゆが)める不正がまかり通っていたことにあきれる。小中学校教科書を発行する会社の半数が、検定中の教科書を見せる禁止行為を犯し、謝礼が渡った教員は4千人に及んでいた。

教科書業界はもちろん、教員の倫理観も疑われる。教育界全体の信頼を損ないかねないとの認識があるのだろうか。

三省堂でこの問題が発覚したのを契機に、文部科学省が義務教育である小中学校の教科書を発行する22社の調査をまとめた。

平成21年度以降で10社が3千~5万円の現金や図書カードなどを渡し、総額は数千万円にのぼる。最大手の東京書籍は2千人を超える教員らに謝礼を渡した。

採択権限を持つ教育長や教育委員に歳暮や中元を贈った会社もあった。

検定中の教科書を見せること自体が、文科省の教科書検定の実施細則で禁じられている。外部の介入などを排して公正な検定を行うためだ。

採択関係者に金品を贈ることは教科書協会の自主ルールに反する。教科書会社はもちろん、教員も知らないはずはない。

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