震災復旧談合 支援に乗じた不正は許されぬ

朝日新聞 2016年01月22日

震災復旧談合 被災者への背信行為だ

東日本大震災で壊れた高速道路の復旧工事の入札で談合があったとして、東京地検特捜部と公正取引委員会が強制捜査に乗り出した。

5年前の光景を思い出そう。あの巨大な揺れや津波で無残にねじ曲がり、崩れた道路が、少しずつ工事で形を取り戻していく。多くの国民が復興への希望を見いだしたはずだ。

その「震災復興」という大義に隠れて、業界が結託して不正を働いたなら、被災地への背信行為だ。被災者の足元で営業を続けながら、業者は自らの利益を優先していたことになる。

捜査当局は全容解明に力を尽くしてほしい。

問題となっているのは、東日本高速道路(NEXCO東日本)東北支社が発注した12件の舗装工事だ。総額176億円。予定価格に落札額が占める割合(落札率)は、約95%だった。

旧道路公団が約10年前に民営化されて以来、高速道路の工事は利用料を財源としている。だが、今回問題となった工費のほとんどは国の復興予算でまかなわれた。支えているのは所得増税などの措置だ。国民の負担が一部業者の不当な利益につながったならば、許しがたい。

「原材料費が高く、高値で受注したかった」というのが業者の言い分だ。アスファルト合材が固まりやすいという特殊な事情もあり、受注地域を割り振ったとも供述しているという。しかし高値落札の出来レースを正当化する理由にはならない。

同工異曲の図が、何度繰り返されてきただろう。

業者の中には、十数年前にも、舗装工事の談合で公取委から排除勧告などを受けたところがある。東北を舞台にしたゼネコン談合事件もあった。95年の阪神大震災では、当時の建設相が談合防止を業界に求めた。業界自身に自浄力がないのか、疑われても仕方ないだろう。

今回は発注者がチェックできなかったのかも疑問だ。

入札前には、談合を告げる匿名情報がNEXCOにあったという。誓約書を書かせて入札をおこなったが、落札率は10年度より10ポイント超も高かった。

被災地では、人件費の高騰などのために、工事の受注を希望する業者があらわれない「入札不調」が珍しくない。手続きを急ぎたいという心理が、発注者側になかっただろうか。

震災から、近く丸5年を迎える。インフラ整備に巨額の税金が落ちる一方で、本当に地元の役に立つ使われ方をしているのか。今回だけでなく、政府はしっかりと監視する必要がある。

読売新聞 2016年01月22日

震災復旧談合 支援に乗じた不正は許されぬ

震災復興事業を食い物にするような不正は、到底許されない。

東京地検特捜部と公正取引委員会が、道路舗装各社を独占禁止法違反容疑で一斉捜索した。東日本大震災で被災した高速道路の復旧工事を巡って、談合を行い、利益を分け合った疑いが持たれている。

特捜部の事情聴取に対し、一部の業者は談合を認めているとされる。実態解明と厳正な責任追及が求められる。

談合の疑いがあるのは、東北自動車道などの復旧舗装工事12件だ。2011年に入札が行われ、12社が1件ずつ落札した。落札総額は176億円に上る。大手数社が「幹事社」となり、落札予定業者を割り振っていたという。

予定価格に対する落札額の割合(落札率)の平均は約95%で、震災前より大幅に上昇した。震災後は原材料費が高騰しており、各社が談合で落札額をつり上げ、利益の確保を狙ったと特捜部はみている。事実なら極めて問題だ。

東北各地を結ぶ高速道路は、被災地への支援物資を運ぶ大動脈であり、復旧が急がれていた。一部の業者は「早期の復興のため、落札業者が決まらない事態は避けたかった」と弁明している。

だが、各社は談合で、自社工場近くの工事を優先的に受注できるよう調整していた。震災復興に乗じて、各社が工事しやすい場所で利益を分配し合ったと批判されても仕方あるまい。

各社に支払われた工事費には、国の復興予算が充てられた。復興予算が所得増税によって賄われたことを忘れてはならない。

各社は入札前、発注者の東日本高速道路に、「談合をしない」という趣旨の誓約書を提出していた。その裏で行われた受注調整だけに悪質性は際立っている。

今回の事件は、企業の「なれ合い体質」を浮き彫りにした。

捜索対象には、大手ゼネコンの系列会社も含まれる。大手ゼネコンは05年、「談合決別宣言」を出したが、不正は繰り返された。「談合は必要悪」といった旧態依然の考え方が、根強く残っているのではないか。

談合やカルテルは、担当者が刑事責任を問われるほか、公取委から課徴金が科される。国際カルテルでは、海外で巨額の罰金や制裁金を支払わされる。公正な競争をゆがめる行為は高い代償を伴う。

談合の根絶には、各企業のトップが前面に立ち、社内研修を重ねるなどして、法令順守の意識を浸透させる必要がある。

産経新聞 2016年01月21日

高速道復旧談合 被災地を食い物にするな

震災復旧の大義名分に隠れた談合であるだけに悪質性が強い。被災地を食い物に業界の利益を分け合うような行為が許されようはずがない。

東日本大震災で被災した東北地方の高速道路復旧工事をめぐる談合事件で、東京地検特捜部と公正取引委員会は、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で道路舗装会社各社を一斉に捜索した。

談合の疑いがあるのは東日本高速道路(NEXCO東日本)東北支社が発注した東北各県の復旧舗装工事12件だ。平成23年8~9月に行われた入札で、12社が1件ずつ落札した。

落札総額は約176億円で、国から約160億円の補助金が交付された。補助金は税金である。自由競争によれば落札額はより引き下げられていたはずであり、この談合は、国と国民を相手にした詐欺行為に等しい。

談合は上位社が主導し、上位各社は担当者による「ハトの会」という親睦会を通じて結束を強めていたという。業界が決別したはずの旧態依然の構図は、そのまま生き延びていたことになる。

資材や人件費の高騰、「復興優先」を理由とする身勝手な釈明は言い訳にすぎない。かつて何度も耳にした「必要悪」の言い分も、聞き飽きた。

18年1月に、公取委の権限強化や、課徴金の大幅引き上げ、内部告発を奨励する課徴金の減免制度などを柱とする、改正独禁法が施行された。

これに呼応して当時の日本建設業団体連合会や日本土木工業協会は17年12月に「公正な企業活動の推進について」とする文書を会員会社に通知し、談合との決別を宣言した。土工協は18年4月、「透明性ある入札・契約制度に向けて」とする提言もまとめた。

提言は「建設業が自らへの不信感を払拭し魅力ある産業として再生するため、談合はもとより様々(さまざま)な非公式な協力など旧来のしきたりから訣別(けつべつ)することを決意した」などと、うたいあげていた。業界の決意とはこの程度のものだったのか、と疑わざるを得ない。

提言はその「基本的認識」のなかで、「自由主義経済体制の根幹は各人、各企業による自由な競争である。それを妨げることになれば社会的な損失を招くことは言うまでもない」とも記している。今一度、熟読すべきではないか。

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