イラン制裁解除 合意履行を中東安定へ生かせ

朝日新聞 2016年01月19日

イラン問題 中東安定化探る一歩に

中東をめぐる国際政治の枠組みが変わる歴史的な節目である。イランに対し米欧が続けてきた制裁の解除が発表された。

孤立していたイランが国際社会への本格復帰に歩を進める。米欧は、イランとの対立から、平和共存の模索へかじを切る。

それは大局的に見て、中東と世界の長期的な安定のために欠かせない一歩である。関係国の判断を支持したい。

問題は、新たな中東の政治地図をどう落ち着かせるかだ。イスラエルやサウジアラビアなど多くの周辺国は、米欧とイランの接近を強く警戒している。

秩序の移行に伴う混乱の悪化を避ける最大限の努力が求められる。米欧やロシアはそれぞれの影響力を駆使し、地域の緊張をほぐしてゆくべきだ。

1979年の革命以降、政教一致の体制をとるイランは長く反米姿勢をとってきた。サウジなど王族が支配する周辺国は革命の輸出を恐れ、米欧とともにイランの封じこめを続けた。

だが、その対決の構図が中東問題をこじらせてきた。シリアやイラクの混乱も、過激派「イスラム国」(IS)問題も、背景には米欧・アラブ対イランの分断が影を落としている。

イスラエルもサウジも、イランとの一触即発の緊張を続ける不毛さを悟るべきだ。永遠の火薬庫としての中東の姿を変える努力こそ、国民や同胞のために果たすべき責務である。

その同じ責任は当然、イランの指導部にもある。核合意を守るだけでは不十分だ。各地の傘下勢力への軍事支援など覇権争いの行為をやめるべきだ。

イラン国内の人権にも大きな懸念が残っている。宗教指導体制への批判を許さない弾圧を続ける限り、国際社会への本当の仲間入りはあり得ない。民主化を進める覚悟を促したい。

制裁解除により凍結が解かれるイランの資産は1千億ドル(約12兆円)ともいわれる。欧米企業の間では、新たな有力市場とみて、ビジネス参入する動きが広がっている。

だが米国では、秋に迫る大統領選・議会選を意識して野党共和党がいまも強硬姿勢をとっている。中東和平と核問題を政争の具にするのは無責任だ。

核をめぐる緊張を、武力でなく外交で穏便に収拾に導く知恵は、北朝鮮問題でも求められている。イラン問題は、核拡散を防ぐモデルケースでもある。

その意味でも、アジアにとってひとごとではない。今回の進展が逆戻りしないよう、中東の安定へ向け、日本政府も積極的に関与の工夫をこらすべきだ。

読売新聞 2016年01月19日

イラン制裁解除 合意履行を中東安定へ生かせ

イランを国際社会にいかに引き込み、混迷を深める中東情勢の安定につなげるか。これからが正念場である。

米英仏独露中の6か国とイランは、イラン核施設の縮小と引き換えに、米国や欧州連合(EU)、国連安全保障理事会の制裁を解除する昨年7月の核合意の履行を発表した。

イランは既に、貯蔵していた低濃縮ウランの大半をロシアに搬出し、濃縮用の遠心分離器約1万9000基の3分の2を撤去した。国際原子力機関(IAEA)の査察官が現地で確認した。

イランが核兵器製造に着手しても、完成までの期間は「2~3か月」から「1年以上」に延びた。IAEAが監視し、違反があれば制裁は再発動される。核開発への一定の歯止めと評価できよう。

オバマ米大統領は「世界はより安全になった」と強調した。15年間の合意履行期間終了後、イランが核保有に動き出さないよう、米国など関係国が穏健改革路線を後押しすることが欠かせない。

イランが拘束していた米国人記者らが解放され、国交のない米国とイランのパイプは一層太くなった。シリア内戦の終結や過激派組織「イスラム国」の掃討などにどう生かすかが問われる。

イスラム教シーア派大国のイランはシリアのアサド政権を支援し、「アサド退陣」を求めるスンニ派の盟主サウジアラビアとの対立が先鋭化している。イスラエルは、敵対するイランの弾道ミサイル開発にも神経をとがらせる。

米国はミサイル関連で対イラン追加制裁を発表したが、サウジとイスラエルの対米不信は根深い。オバマ氏は、両国との同盟関係の再構築も進めねばならない。

イランは原油輸出を再開し、米国の制裁で事実上禁じられていた外国金融機関、企業との取引が大幅に拡大する。計1000億ドルとされる原油代金などの外国口座の資金も凍結が解除される。

原油埋蔵量が世界4位、天然ガスは1位という豊富な資源と、8000万人近い人口を抱える市場に対する各国の期待は大きい。

投資協定締結で合意している日本は、原油調達先の多角化や自動車などの輸出増加、プラント進出を見込む。情報収集を進め、市場参入に結びつけたい。

懸念されるのは、イランの増産で原油安が進み、産油国の経済悪化と世界的な株安を招く事態である。サウジとイランが覇権争いを続ければ、中東情勢の沈静化も、世界経済の安定も望めまい。

産経新聞 2016年01月19日

イラン制裁解除 国際社会復帰は道半ばだ

イランの核問題をめぐる米欧などの対イラン制裁の解除が決まった。

昨年7月の米欧など6カ国との最終合意に基づき、イランが核開発活動の制限を履行したことに伴う措置だ。

イランにとっては、1979年のイスラム革命から続く国際的孤立を抜け出す第一歩となる。

同国は豊富な原油、天然ガス資源を抱えるエネルギー大国であり、過激組織「イスラム国」(IS)掃討など中東安定化に果たすべき役割も大きい。だが本格的な国際社会復帰は忠実に合意順守を続けることが大前提である。

見落としてならないのは、国際原子力機関(IAEA)が、イランは核兵器関連の開発を2003年末まで組織的に行っていたと明確に認定し、「あくまで平和利用」としてきたイランの主張を否定したことだ。

イランが10~15年にわたる制限期間に再び秘密裏の核兵器開発に手を染めないよう、国際社会は厳しく監視を続ける必要がある。

他の懸念も残されている。昨年10、11月に実施した新型長距離弾道ミサイルの発射実験は、核弾頭搭載が可能なミサイル開発を禁止する国連安全保障理事会決議違反の疑いが強い。

米財務省が17日、ミサイル関連の制裁で、11の個人と団体を対象に追加したのは当然だ。米議会調査局は、北朝鮮がミサイルの主要部品供給を続けていると報告している。

北朝鮮の核の脅威にさらされる日本は、これを看過できない。イランに対し、安保理決議の順守を強く働きかけねばならない。

イランは国際社会の一員として、ミサイル開発やテロ支援、人権問題など、すべての懸念を拭う責任ある行動を示すべきだ。

オバマ米大統領は核合意履行で「地域、米国、世界はより安全になった」と強調した。だが、米国とイランの急接近がもたらす「副作用」を軽視していないか。

シリア、イエメンの内戦でイランと利害が真っ向から対立するサウジアラビアが突然、イランと断交したのは、米国のイラン傾斜に警告する狙いもあったといえよう。イスラエルも、核合意に強く反対してきた。

いずれも中東の重要な米同盟国である。オバマ氏の次の責務は、これらの国々の安全を米国が保障する姿勢を明確にすることだ。

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