台湾総統選 対中急接近が生んだ蔡新政権

朝日新聞 2016年01月17日

台湾総統選 「現状維持」を出発点に

予想を超える大差がついた。きのう投開票された台湾の総統選は野党・民進党の蔡英文(ツァイインウェン)主席が勝利した。同党にとっては8年ぶりの政権復帰となる。

蔡氏が掲げたのは中台関係の「現状維持」である。この民意を踏まえることが、中国や他の関係国にも求められる。

敗北した与党・国民党は、中国に接近しすぎたとみられた。国民党政権は、定期直行便を開設するなど対中関係の改善を進め、一部の企業や人々は潤ったが、社会の不平等が広がったとの不満もたまった。

民進党は、大陸から来た国民党の独裁に抗する台湾生まれの政党として、30年前に結成された。基本認識は「台湾は中国とは別の独立主権国家」である。

だが選挙戦で蔡氏はそれを前面に出さず、中台関係の「現状維持」を言い続けた。国民党に待ったをかけたが、全面否定したのではない。民進党政権になれば中台関係が不安定化する、という内外にありがちな印象をぬぐう狙いだろう。

国民党や中国共産党は、その点を攻めた。両党は共に中国の正統政権を主張するが、台湾を含めて「一つの中国」との認識で一致し、中台交流の基礎としてきた。民進党はそれを受け入れていない、というわけだ。

国際社会を見渡せば、日本や米国を含む大半の国が「一つの中国」を尊重している。そのうえで北京の政府を中国の唯一の合法政府と認め、台湾とは国交がない。しかし、現実には台湾は中国の統治下にはない。

複雑な現状を考えれば、「一つの中国」の原則を振り回すよりも、共存共栄を図ることこそが賢明であり、周辺国にとっても好ましい。国共両党の間でも、立場の不一致はあえてあいまいにしてきたのである。

蔡氏は、ことし5月から4年間の政権を担う。対中関係の政策について、さらに踏み込んで内外に示す必要があろう。

それにしても台湾の民意の表れ方は絶妙だ。96年の初の総統直接選を起点として、00年、08年、そして今回と着実に政権交代を実現させた。

00~08年の民進党政権が台湾独立の志向を強めると民意に拒まれた。今回はその逆で、民意が均衡を回復させる重りとなった。一昨年の学生運動の流れをくむ新政党も現れた。台湾政治は進化を続けている。

中国の習近平(シーチンピン)政権は、この民主政治の現実と向き合わなくてはならない。国民党は中台交流で成果を残したが、国民党だけを台湾であるかのように扱うのは誤りである。

読売新聞 2016年01月17日

台湾総統選 対中急接近が生んだ蔡新政権

中国への急接近に台湾住民がブレーキをかけたと言えよう。

台湾総統選で、「台湾独立」志向が強い最大野党・民進党の蔡英文主席が、対中融和を進めてきた与党・国民党の朱立倫主席らに大差をつけて、当選した。8年ぶりの政権交代である。

このままのペースで対中融和が続けば、中国にみ込まれてしまいかねない。そんな不安が、蔡氏の支持を拡大したのだろう。

蔡氏は、4年前の前回総統選で、「台湾は既に主権独立国家」と主張し、馬英九総統に敗れた。中国への経済依存が強まる中、経済界などで対中関係悪化への懸念が広がったからだ。

今回は、民進党の「独立」色を封印し、「独立」でも「統一」でもない「現状維持」の方針を繰り返し訴える戦術が奏功した。世論調査によると、台湾住民の大半は、「現状維持」を望んでいる。

蔡氏は「台湾に民主主義が浸透していると、国際社会に伝えることができた」と勝利宣言した。

国民党の朱氏は、昨年11月の初の中台首脳会談を踏まえ、中台関係の安定をアピールしてきた。だが、住民には、経済緊密化の恩恵が一部の富裕層にしか及んでいないという反発が根強かった。

国民党は、総統選と同時に行われた立法委員(国会議員)選でも大敗した。中国と台湾は別だとする「台湾人意識」が若い世代の間で高まったためとみられる。

民進党は初めて単独過半数を獲得し、安定政権へ道筋をつけた。2014年、対中政策に反対し、立法院(国会)を占拠した若者ら中心の新党「時代力量」も議席を得た。国民党政権への不満の受け皿になったことを示している。

蔡氏にとっては、対中関係を安定させつつ、経済発展を達成し、その成果を台湾住民に実感させられるかどうかが喫緊の課題だ。

蔡氏の不安要素は、中台双方が「一つの中国」の原則を認めたとされる「1992年合意」を受け入れていないことだ。

将来的な「統一」を狙う習近平政権は間接的な表現ながら、92年合意を認めなければ、「現状維持」はできないと警告している。

蔡氏が92年合意を拒否し続けるのなら、経済交流に圧力をかけ、新政権を揺さぶるつもりではないか。台湾を訪れる中国人観光客や旅客機の直行便の制限などもカードの一つだろう。

台湾海峡の行方は、東アジアの安定に関わる。中国に求められるのは、責任ある対応である。

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