中国への急接近に台湾住民がブレーキをかけたと言えよう。
台湾総統選で、「台湾独立」志向が強い最大野党・民進党の蔡英文主席が、対中融和を進めてきた与党・国民党の朱立倫主席らに大差をつけて、当選した。8年ぶりの政権交代である。
このままのペースで対中融和が続けば、中国に呑み込まれてしまいかねない。そんな不安が、蔡氏の支持を拡大したのだろう。
蔡氏は、4年前の前回総統選で、「台湾は既に主権独立国家」と主張し、馬英九総統に敗れた。中国への経済依存が強まる中、経済界などで対中関係悪化への懸念が広がったからだ。
今回は、民進党の「独立」色を封印し、「独立」でも「統一」でもない「現状維持」の方針を繰り返し訴える戦術が奏功した。世論調査によると、台湾住民の大半は、「現状維持」を望んでいる。
蔡氏は「台湾に民主主義が浸透していると、国際社会に伝えることができた」と勝利宣言した。
国民党の朱氏は、昨年11月の初の中台首脳会談を踏まえ、中台関係の安定をアピールしてきた。だが、住民には、経済緊密化の恩恵が一部の富裕層にしか及んでいないという反発が根強かった。
国民党は、総統選と同時に行われた立法委員(国会議員)選でも大敗した。中国と台湾は別だとする「台湾人意識」が若い世代の間で高まったためとみられる。
民進党は初めて単独過半数を獲得し、安定政権へ道筋をつけた。2014年、対中政策に反対し、立法院(国会)を占拠した若者ら中心の新党「時代力量」も議席を得た。国民党政権への不満の受け皿になったことを示している。
蔡氏にとっては、対中関係を安定させつつ、経済発展を達成し、その成果を台湾住民に実感させられるかどうかが喫緊の課題だ。
蔡氏の不安要素は、中台双方が「一つの中国」の原則を認めたとされる「1992年合意」を受け入れていないことだ。
将来的な「統一」を狙う習近平政権は間接的な表現ながら、92年合意を認めなければ、「現状維持」はできないと警告している。
蔡氏が92年合意を拒否し続けるのなら、経済交流に圧力をかけ、新政権を揺さぶるつもりではないか。台湾を訪れる中国人観光客や旅客機の直行便の制限などもカードの一つだろう。
台湾海峡の行方は、東アジアの安定に関わる。中国に求められるのは、責任ある対応である。
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