倒壊した高速道路や横転したビルが大地の揺れの凄まじさを物語る。
南米チリを巨大地震が襲った。地震規模を表すマグニチュード(M)は8・8だ。放出されたエネルギー量は今年1月のハイチ地震の500倍超で、観測記録の残る世界の大地震の十指に入る。
チリは世界でも地震発生の多い国だ。1960年には、観測記録に残るものとして最大のM9・5の大地震が起きている。
◆津波の威力軽視するな◆
チリ政府も、建築物の耐震指針や地震発生時の対応要領を定めている。チリは銅などの資源を保有し、経済は比較的豊かだ。地震に強いビルが増えるなど、対策は着実に進められてきた。
それでも被害は、多数の死者を含めて甚大になりそうだ。
被災者の救援や今後の復興に向け、日本としても貢献したい。
20万人以上の犠牲者が出たハイチ地震では、欧米や中国などよりも救援活動で出遅れた。現地の求めに機敏に応じられるよう、準備を整えておく必要がある。
今回のチリ地震は、地球をおおっている複数の岩板(プレート)が互いに接している境界部分で発生した。
ハイチ地震や阪神大震災のように、岩板の内部で断層がずれる型とは異なる。
日本で過去に大きな被害を出した南海地震や東南海地震、東海地震は前者のタイプだ。規模がM8超と大きくなることが多く、被害は広域化、大規模化する。
しかも周期的に起きており、この三つの地震は、すでに発生期に入っている。
同じ地震国である日本は、現地の被災状況から教訓を学び、対策に生かさねばならない。
今回の地震では、約1万7000キロのかなたで発生した津波が発生の翌日、太平洋を渡って対岸の日本に押し寄せてきた。
気象庁は、岩手県など3県の沿岸に大津波警報を、この地域以外の北海道から沖縄県まで太平洋側全域に津波警報を出すなど、広い範囲で警戒を呼びかけた。
高さ3メートル程度の津波が到達すると予想される大津波警報は、93年の北海道南西沖地震以来で、17年ぶりだ。
政府は、官邸危機管理センターに官邸対策室を設置した。津波到来の恐れがある太平洋沿岸部の関係自治体も、住民たちに避難を呼びかけた。
各地で、寒さの中、住民が避難所などで警戒解除を待った。
加えて、海岸沿いの道路が各所で通行止めになり、鉄道の運休が相次いだ。
青森県おいらせ町では、2月28日の町長選挙の一部投票所が津波の影響を懸念して閉鎖され、開票作業が1週間延期となった。
様々な分野で市民生活に影響が及んだが、津波の脅威を考えれば適切な対応だったと言えよう。
◆早急に被災状況把握を◆
海洋に囲まれた日本は何度も津波被害に遭ってきた。日本語ながら「Tsunami」は、そのまま国際的に通用するほどだ。
通常の波と異なり、津波は、海水が巨大な水の塊となって押し寄せる。その猛威は、20万人を超える犠牲者が出た2004年のインド洋津波からも分かる。
通常、津波の高さが2メートルになると押し寄せた地域の木造家屋はほぼ破壊される。高さ1メートルの津波でも半壊する。波が引く際には建物や人をさらっていく。
波の高さは沿岸の地形により大きく変わる。狭い入り江では10メートルを超えることも少なくない。
1896年の明治三陸地震では岩手県などで2万人を超える犠牲が出た。1960年のチリ大地震では、22時間後に押し寄せた津波により、岩手県などで100人以上が犠牲になっている。
今回は、沿岸部の一部地域で道路が冠水したり、漁業関連施設が津波で海に流されたりという被害が伝えられている。
ただ、警報の対象地域には、孤立した小さな集落も多い。高齢のため避難しようにもできない人々もいる。政府は、被災状況の把握を急がねばならない。
◆事後検証が大切だ◆
津波の警報の出し方、対応も現状のままでいいか。十分に津波の怖さを伝えることが大切だ。
津波を見ようと、海岸にきた人も各地にいた。自治体などの避難呼びかけを無視するサーファーもいた。こうした行為は、本来必要な対策の足を引っ張る。
今回は、チリでの地震発生から丸一日近くたって津波が到来したが、南海地震、東南海地震など日本近海の地震では、津波は短時間で到来するため、対策にかけられる時間はほとんどない。
政府、自治体は対応を十分に事後検証して、改善すべき点はないか見直すことが求められる。
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