大津波警報 チリ地震を教訓に対策急げ

朝日新聞 2010年03月02日

警報と避難 来なかった大津波に学ぶ

地球の反対側で大地震が発生して40時間余りたった昨日朝、日本での津波警戒がようやく解かれた。

気象庁は東北沿岸で最大3メートルの津波が来ると予測し、大津波警報を出した。最大の観測値が1.2メートルだったことについて、同庁の担当官は「予測が過大だった。警報が長引き迷惑をかけた」と、おわびを表明した。

今回の津波は、現地の様子が分からない遠い国で起き、大洋を伝わってきた。正確な予測はもとより難しい。17年ぶりの大津波警報を出すかどうか、気象庁の判断は揺れたが、結局「最悪の事態を想定する」考えをとった。

現在の津波警報システムが導入されたのは1999年。これまで1メートル以上の警報は8回出されているが、03年9月の十勝沖地震以外は予測を下回り続け、国会で問題にされたこともある。

気象庁は、地震の大きさや震源の深さを正確にとらえる技術を磨き、予測の精度向上にさらに努めてほしい。だが、被害を防ぐために大きめの警報を出す判断は間違っていなかったし、十分に理解できる。

心配なのは人々が警報を過小評価してしまうことだ。そのために今回、住民が情報をどう受け止め行動したか、政府や自治体による検証が必要だ。

おとといは150万人近い人々に避難指示・勧告が出された。だが大津波警報が出た東北3県でも、避難所などに移った人は数%にとどまった。

自発的に高台やビルの上層階に避難した人もいるだろう。休日の昼間で、家族と一緒にいる安心感や、津波が来るまでに時間的に余裕があったことから、自宅で情報を見守るだけに終わった家庭も多かったに違いない。

各地からの報告では、第1波の後に警戒心を解いて、一度避難所に行った住民が自宅に帰ったり、沖合に出た船が戻って来たりしたという。第2波、第3波の方が大きくなり得るという呼びかけは伝わっていなかったのか。

お年寄りや体の不自由な人はどうだっただろう。近隣の住民で所在を確かめ合い、優先して安全な場所に連れて行けたか。自治体は指示や勧告を出すだけに終わっていなかったか。点検すべき課題は多い。

日本列島の沖を震源として予想される東海・東南海・南海地震では、津波被害だけでそれぞれ千~数千人規模の犠牲者が出ると想定されている。この場合は震源との距離が近く、数分から数十分で津波が押し寄せてくる。寝静まったころに起きるかもしれない。

いざという時は警報を待たず、一刻も早く海岸や河口近くから逃げることが命を守る基本である。

今回、日本で人命被害がなかったことで、幸運だったと片付けてはならない。「来なかった大津波」から学べることはたくさんある。

毎日新聞 2010年03月01日

大津波警報 経験を精度に生かそう

太平洋をはさみ、チリの巨大地震が及ぼした日本列島への津波は最悪の事態には至らなかった。北海道南西沖地震以来17年ぶりの大津波警報が出され、沿岸部では住民の高台避難なども行われたが、一部の冠水や浸水にとどまった。

警報を出した気象庁は、津波は最大3メートル、地形によってはそれ以上の恐れも、と注意を喚起した。結局そこにまで至らなかったとしても、警報は常に最悪のケースも念頭に置いて発するべきで、結果だけで「当たり、外れ」的な評価や批判をするのはなじまない。首相官邸に対策室を設けた政府の対応も適切だった。

ただ検証は欠かせない。

複雑な自然災害は再現実験などが難しく、予報システムは実体験を重ねて精度を高めていくものだろう。今回さまざまな立場で「大津波」襲来に備えながら多くの人たちが共有した体験は、今後に生かせるはずだ。

また自然災害対策は、無数の悲痛な被害の上に積み重ねられてきた。

多くの死傷者を出した津波としては、1960年に同様の経緯をたどった三陸のチリ地震津波があり、今回と類似の現象が指摘された。

そして遠足の小学生たちも巻き込まれた83年の日本海中部地震、奥尻島などを瞬時に大津波が襲った93年の北海道南西沖地震がある。

半世紀前のチリ地震津波では、当時技術も未発達で情報入手や予報が後手に回った。まさかあんな遠隔地の地震からという油断もあった。その痛切な体験と反省から、太平洋沿岸諸国の情報をハワイの太平洋津波警報センターで共有する仕組みが築かれ、今回も生かされた。

肝心なのは、いうまでもなく「人の安全確保」だ。そうした観点から、今回住民に避難勧告や指示をし、具体的な対策を実施した自治体は、想定通りにできたか、うまくいかなかったり、大きな課題を残したりしたことはないかを検証してほしい。

特に近年気になるのは独居の高齢者や単独行動が困難な「災害時要援護者」への連絡、支援の態勢だ。

共同体のきずなが比較的しっかりしている地域とそうでないところの差異も踏まえ、どう仕組みを整備すればよいか対策を急ぎたい。

また、さまざまな災害予防でその必要があっても、避難勧告などを無視する人もいるという。

それはとても危険で、他の人にも迷惑や被害を及ぼしかねない。

津波や水害はわずかな判断の遅れが明暗を分けることを、過去の災害は実証している。当然行政側の出す勧告や指示も適切でなければならないが、災害の可能性がある時はまず最悪の事態を念頭に行動することを、今改めて肝に銘じたい。

読売新聞 2010年03月01日

大津波警報 チリ地震を教訓に対策急げ

倒壊した高速道路や横転したビルが大地の揺れの(すさ)まじさを物語る。

南米チリを巨大地震が襲った。地震規模を表すマグニチュード(M)は8・8だ。放出されたエネルギー量は今年1月のハイチ地震の500倍超で、観測記録の残る世界の大地震の十指に入る。

チリは世界でも地震発生の多い国だ。1960年には、観測記録に残るものとして最大のM9・5の大地震が起きている。

◆津波の威力軽視するな◆

チリ政府も、建築物の耐震指針や地震発生時の対応要領を定めている。チリは銅などの資源を保有し、経済は比較的豊かだ。地震に強いビルが増えるなど、対策は着実に進められてきた。

それでも被害は、多数の死者を含めて甚大になりそうだ。

被災者の救援や今後の復興に向け、日本としても貢献したい。

20万人以上の犠牲者が出たハイチ地震では、欧米や中国などよりも救援活動で出遅れた。現地の求めに機敏に応じられるよう、準備を整えておく必要がある。

今回のチリ地震は、地球をおおっている複数の岩板(プレート)が互いに接している境界部分で発生した。

ハイチ地震や阪神大震災のように、岩板の内部で断層がずれる型とは異なる。

日本で過去に大きな被害を出した南海地震や東南海地震、東海地震は前者のタイプだ。規模がM8超と大きくなることが多く、被害は広域化、大規模化する。

しかも周期的に起きており、この三つの地震は、すでに発生期に入っている。

同じ地震国である日本は、現地の被災状況から教訓を学び、対策に生かさねばならない。

今回の地震では、約1万7000キロのかなたで発生した津波が発生の翌日、太平洋を渡って対岸の日本に押し寄せてきた。

気象庁は、岩手県など3県の沿岸に大津波警報を、この地域以外の北海道から沖縄県まで太平洋側全域に津波警報を出すなど、広い範囲で警戒を呼びかけた。

高さ3メートル程度の津波が到達すると予想される大津波警報は、93年の北海道南西沖地震以来で、17年ぶりだ。

政府は、官邸危機管理センターに官邸対策室を設置した。津波到来の恐れがある太平洋沿岸部の関係自治体も、住民たちに避難を呼びかけた。

各地で、寒さの中、住民が避難所などで警戒解除を待った。

加えて、海岸沿いの道路が各所で通行止めになり、鉄道の運休が相次いだ。

青森県おいらせ町では、2月28日の町長選挙の一部投票所が津波の影響を懸念して閉鎖され、開票作業が1週間延期となった。

様々な分野で市民生活に影響が及んだが、津波の脅威を考えれば適切な対応だったと言えよう。

◆早急に被災状況把握を◆

海洋に囲まれた日本は何度も津波被害に遭ってきた。日本語ながら「Tsunami」は、そのまま国際的に通用するほどだ。

通常の波と異なり、津波は、海水が巨大な水の塊となって押し寄せる。その猛威は、20万人を超える犠牲者が出た2004年のインド洋津波からも分かる。

通常、津波の高さが2メートルになると押し寄せた地域の木造家屋はほぼ破壊される。高さ1メートルの津波でも半壊する。波が引く際には建物や人をさらっていく。

波の高さは沿岸の地形により大きく変わる。狭い入り江では10メートルを超えることも少なくない。

1896年の明治三陸地震では岩手県などで2万人を超える犠牲が出た。1960年のチリ大地震では、22時間後に押し寄せた津波により、岩手県などで100人以上が犠牲になっている。

今回は、沿岸部の一部地域で道路が冠水したり、漁業関連施設が津波で海に流されたりという被害が伝えられている。

ただ、警報の対象地域には、孤立した小さな集落も多い。高齢のため避難しようにもできない人々もいる。政府は、被災状況の把握を急がねばならない。

◆事後検証が大切だ◆

津波の警報の出し方、対応も現状のままでいいか。十分に津波の怖さを伝えることが大切だ。

津波を見ようと、海岸にきた人も各地にいた。自治体などの避難呼びかけを無視するサーファーもいた。こうした行為は、本来必要な対策の足を引っ張る。

今回は、チリでの地震発生から丸一日近くたって津波が到来したが、南海地震、東南海地震など日本近海の地震では、津波は短時間で到来するため、対策にかけられる時間はほとんどない。

政府、自治体は対応を十分に事後検証して、改善すべき点はないか見直すことが求められる。

産経新聞 2010年03月01日

チリ巨大地震 津波防災へ教訓生かそう

環太平洋の国々を緊張の波が駆け抜けた。南米のチリ中部沿岸沖で発生した巨大地震に伴う津波に対しての警戒だ。

地震の規模は、米地質調査所によるとマグニチュード(M)8・8という大きさだった。1900年以降、5番目の強さであるという。

観測史上の最大は、1960年5月にチリで起きたM9・5の地震である。このとき発生した津波は1日がかりで太平洋を渡って日本列島に押し寄せ、140人を超える命を奪っている。

この災害は「チリ地震津波」として、津波の恐ろしさを世界に周知させることになった。今回の地震の震源は、50年前の超巨大地震の震源域の北側に接している。位置も規模も、半世紀前の悪夢を想起させるのに十分だった。

気象庁は、全国の太平洋岸や瀬戸内海地方に警戒や避難を呼び掛けた。青森県から宮城県にかけて国内では17年ぶりとなる大津波警報がだされるなど、厳重な警戒態勢が敷かれたが、幸い大きな被害には至らなかった。不気味に盛り上がった海水が港の岸壁を浸した程度で事なきを得た。

予測精度への課題を残したが、避難指示などを甘くみることは禁物だ。津波は地球の裏側から太平洋を越えてやってきた。そのエネルギーの大きさを防災面への警鐘として受け止めるべきだろう。

チリの国土は、南米プレート(岩板)に乗っていて、その下に太平洋から押し寄せるナスカプレートが潜り込んでいる。この2つのプレートの相互作用で、頻繁に大きな地震が起きている。

海溝型と呼ばれる地震のメカニズムは、日本で警戒されている東海地震や東南海地震と共通する。予想されている規模もM8級で、海底が持ち上がり、津波を併発する点も同じだ。

今回のチリ巨大地震では、首都・サンティアゴで市内の建物が倒壊したり、国際空港が損壊したりするなどの被害が出ている。

震源に近い同国第2の都市のコンセプシオンの被害は、甚大と伝えられる。通信網や交通網をはじめとする社会の主要インフラへの影響が大きい。

死者が23万人に達した1月のハイチ地震では、日本政府の対応に遅れが目立ったが、今回は的確な緊急支援への取り組みを望みたい。被災下での首都機能の維持や復旧面で、日本が学ぶことも少なくないはずだ。

朝日新聞 2010年03月01日

チリ大地震 「遠地津波」の怖さ改めて

チリ中部沖の海底でマグニチュード(M)8.8の巨大地震が発生した。ハイチ地震の約500倍の巨大なエネルギーである。

この巨大な地震によって発生した津波はほぼ一昼夜かけて太平洋を越え、北海道から九州、沖縄まで、休日の日本列島を襲った。

気象庁は、3メートルを超す津波が予測された青森県から宮城県にかけての太平洋岸に17年ぶりの大津波警報を出すなど、厳重な警戒を呼びかけた。

多くの自治体が住民に避難を指示した。海岸沿いの鉄道が運休、道路も各地で通行止めになり、市民生活には終日、大きな影響が出た。

高台に避難して不安な時間を過ごした人もいるだろう。最大で1メートルを超す津波が各地で観測され、道路やビルなどが冠水したが、大きな被害がなかったのは幸いだった。

ちょうど50年前の1960年5月にもチリで、20世紀以来で最大のM9.5の巨大地震が起きた。ほぼ1日後、津波が日本列島を襲った。日米安保条約の改定をめぐって国内が騒然としていたころである。

このとき津波の到達は全く予想されず、気象庁が津波警報を出したのは津波が到達した後のことだった。未明に最大5メートルを超す津波に襲われ、三陸地方などを中心に140人を超える犠牲者が出た。

太平洋の島々の人々も突然、大津波に襲われ、イースター島ではモアイ像が壊れた。

全く地震がないのに襲ってくるこうした津波を「遠地津波」と呼ぶ。不意に襲われるうえ、第2波、第3波の方が高くなる特徴があり、恐ろしい。

前回のチリ地震津波の経験から太平洋の沿岸国が協力してできたのが、米国ハワイにある太平洋津波警報センターだ。今回も日本をはじめとする沿岸国に素早く津波警報を出した。

2004年にインド洋沿岸で大被害を出したスマトラ沖大地震・津波の経験も、より広い地域での地震や津波の観測・警戒のネットワークづくりに生かされている。

こうして津波の到達時刻や高さが予測できるようになったのは、大きな進歩だ。予測の精度をさらに向上させ、被害の軽減に役立てていきたい。

津波のこわさは、ふくれあがった海が巨大な固まりとなって押し寄せてくることだ。水が引くときに強い力で引き込まれる。数十センチの高さでも大人が流されることがある。決して侮ってはいけない。

未明に地震に襲われたチリでは大きな被害が出た。同じ地震国として支援の手を差し伸べていきたい。

日本では今回、津波警報が出たのは休日の昼間だった。だが、予期せぬときに襲うのが自然災害である。

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