衆院選制度改革 議員立法へ与野党は調整急げ

朝日新聞 2016年01月15日

衆院選挙改革 不断の見直しを怠るな

「衆議院選挙制度に関する調査会」がきのう、「一票の格差」の是正策や、定数削減などについての検討結果を大島理森衆院議長に答申した。

格差是正策としては、(1)10年ごとの大規模国勢調査をもとに、都道府県の人口比に基づく「アダムズ方式」で都道府県単位の定数を配分する(2)大規模調査の中間年の簡易国勢調査で格差2倍以上の選挙区が生じたときは、内閣府に置かれた「衆議院議員選挙区画定審議会」が各都道府県内の選挙区割りの見直しを行う――などを挙げた。

衆院選の一票の格差をめぐっては、最高裁がこの4年間に3度、「違憲状態」の判決を出している。

判決を受け各党間で検討を進めたが、まとめることができずに調査会に議論を委ねた経緯がある。答申に真っ向から反論することなど、いまさらできないはずだ。速やかに合意形成を図り、いまの国会で法改正を行うべきである。

答申は、定数については小選挙区で6、比例区で4減らすとした。ただ「衆院議員の定数は、国際比較などから多いとは言えず、削減する積極的な理由や理論的根拠は見いだし難い」とも明記している。

有権者の代表である議員は、単に減らせばいいというものではないだろう。それでも、消費税率の引き上げにあたり自民、民主の両党首が「身を切る改革」として約束した以上は、受け入れるほかない。

答申通りに改革すれば、一票の格差拡大という「出血」は止められそうだ。だが、日本の代表制民主主義が抱える「病」の根本に手がつくわけではない。

いまの小選挙区比例代表並立制は、政権交代可能な二大政党制の実現をめざし、民意の「反映」よりも「集約」に重きを置いている。このため死票が多く、過去3回の衆院選では、第1党はいずれも5割に満たない得票率で、小選挙区の7割超の議席を獲得した。

議席数と民意との乖離(かいり)が政治へのシニシズムを育て、いっそうの低投票率を招く。そんな側面があるのは否めない。

しかし、答申は「新たな制度を検討せざるを得ないほど深刻な事態にあるとは考えられない」と、制度の見直しには踏み込んでいない。国民の議論を喚起するような積極的な検討が行われなかったのは残念だ。

もちろん、議論を深める一義的な責任は国会にある。選挙制度の不断の見直しを怠れば自らの代表性が揺らぐ。議員はこのことを肝に銘じるべきだ。

読売新聞 2016年01月15日

衆院選制度改革 議員立法へ与野党は調整急げ

衆院選の「1票の格差」を是正することは喫緊の課題である。与野党は、必要な立法措置に向けて調整を急ぐべきだ。

衆院の選挙制度に関する有識者調査会が大島議長に答申を提出した。小選挙区の各都道府県の定数を「アダムズ方式」で配分し直すよう求めた。

これにより、定数は東京都と4県で計7増え、13県で各1減る。都道府県間の最大格差は1・621倍となる。小選挙区間の格差も2倍未満に収まる見通しだ。

1票の格差が2倍未満を基本と定めた衆院選挙区画定審議会設置法を踏まえたものだ。

アダムズ方式は、人口の少ない県に比較的有利とされ、最少の鳥取県も定数2を当面維持する。地方への一定の配慮もうかがえる。答申は妥当な内容と言えよう。

答申は、10年ごとの国勢調査に基づき都道府県定数を再配分し、中間年の簡易国勢調査で2倍以上の格差が生ずれば、区割りを見直すことも提言した。継続的に格差を是正する仕組みと言える。

疑問なのは、定数を小選挙区で6、比例選で4削減することだ。答申自体が、削減の「積極的理由、理論的根拠は見いだし難い」と認めながら、定数削減を唱える各党の主張を考慮したという。

日本の国会議員は人口比でみれば、欧州各国より多くない。定数を減らせば、多様な民意が反映しにくくなる。小幅とはいえ、定数減に踏み込む必要があるのか。

大島議長は各党に、答申を尊重し、党内調整を急ぐよう求めた。新制度への移行には、議員立法で公職選挙法などを改正したうえ、区割り見直し作業が必要となる。1年以上かかる見通しだ。

最高裁は格差が最大2・13倍だった2014年衆院選を「違憲状態」と認定し、是正を促した。与野党は応じざるを得ない。

公明や民主、維新の各党などは、答申に一定の評価をしている。

焦点は自民党の対応である。

定数減となる県の選出議員を中心に、異論が相次いでいる。アダムズ方式を採用せず、区割りの見直しのみ行う案も出ている。だが、将来の人口変動に対応できず、弥縫びほう策との批判は免れまい。

自民党は他党との協議で改革案に合意できなかったため、有識者に検討を委ね、その答申を尊重すると約束したはずだ。答申内容が気に入らないからといって、反故ほごにするなら、身勝手過ぎる。

安倍首相は答申に従う意向を表明してきた。党内の意見集約へ、指導力を発揮せねばならない。

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