首相3分の2発言 憲法改正へ幅広い合意目指せ

朝日新聞 2016年01月13日

首相と憲法 何のための改正なのか

自民、公明だけでなく、憲法改正に前向きなおおさか維新などとともに、「3分の2」を構成していきたい――。

夏の参院選に向け、安倍首相が先日のNHKの番組でこんな考えを明らかにした。改憲をめざす勢力を幅広く結集することで、憲法改正案の国会発議に必要な3分の2の議席を確保する狙いを明確にしたものだ。

憲法改正は安倍氏の悲願である。与党が衆院で3分の2を超える議席を持ついま、参院でも3分の2の賛成を得られる見通しがつけば、実現に向け前進する。そのためには次の参院選が大きなチャンスだと首相は見ているのだろう。これで改憲の是非が参院選の大きな争点になるのは間違いない。

では、憲法のどこを改正しようというのだろうか。

自民党内では、大災害などに備えるための「緊急事態条項」の新設が検討されており、首相も「大切な課題だ」と、その必要性にたびたび触れている。ただ、首相は先の番組では「どの条項かということについては、これから議論が深まっていくんだろう」と述べるにとどめ、どこを変えるのかは、はっきりさせていない。

これは、憲法改正に向けた正しい筋道とは言い難い。

社会的、国際的環境の変化に応じて改正が必要だというのなら、まずはその根拠と改正内容を具体的に示す。そのうえで多数の国会議員や国民が納得できるまで議論を深めていく。そんなプロセスは欠かせない。

しかし、首相はとにかく「憲法を変える」という目標を掲げて賛同者を集める点に重きを置いている。憲法論議のありようとして、まっとうではない。

首相発言に対し、公明党の山口代表は「国会の数合わせだけではすまない問題だ」と述べた。当然の指摘である。

緊急事態条項を議論するにしても、災害対策基本法などに緊急事態の規定はすでにある。憲法に新たに書き込む必要性がどれだけあるのかは疑問だ。

むしろ、これを突破口に次は9条改正などに進んでいこうというのが自民党の戦略だ。その狙いがある限り、緊急事態条項の是非だけを素直に論じることは難しい。

安倍政権は、閣議決定による憲法解釈の変更によって9条を変質させてしまった。53条に基づく野党からの臨時国会召集の要求も無視した。憲法軽視は目にあまる。

改憲ありきで数を集めようという首相の姿勢は、危ういと言わざるを得ない。

読売新聞 2016年01月13日

首相3分の2発言 憲法改正へ幅広い合意目指せ

憲法改正について、与野党は今国会で、より幅広い合意形成に向けて、改正内容の議論を深めることが肝要である。

安倍首相がNHK番組で、今夏の参院選に関し、与党に、憲法改正に積極的な野党を加えた勢力で3分の2以上の議席獲得を目指す考えを示した。

「与党だけでは大変難しい。おおさか維新など、改憲に前向きな党もある。未来に向かって責任感の強い人たちと3分の2を構成していきたい」と語った。

憲法は今年11月に制定70周年を迎えるが、一度も改正されていない。この間、国内外の劇的な変化に伴い、憲法と現実には様々な乖離かいりや矛盾が表面化している。

これを解消するため、おおさか維新の会や日本のこころを大切にする党とも協力し、改正発議に必要な3分の2以上の多数の確保を図る首相の姿勢は理解できる。

ただ、与党内では、参院選で憲法改正を争点化しつつ、勝敗ラインを引き上げるかのような発言には、戸惑いが広がる。民主党も含めた、より多くの政党の合意を図るべきだとの主張も根強い。

自民党の谷垣幹事長は「野党第1党の理解を得ながら、進めるのが妥当な手法ではないか」と指摘した。公明党の山口代表も「単に国会の数合わせでは済まない。目指す方向、内容について合意をつくる努力が大切だ」と述べた。

国会が改正を発議した後には、国民投票で過半数の賛成を得るという高いハードルが控える。民主党も巻き込んで改正を目指すのがむしろ現実的だろう。

民主党の岡田代表は「首相は3分の2を確保すれば、必ず憲法を改正する。憲法9条(改正)が念願だから、3分の2は絶対に阻止せねばならない」と強調する。

9条を守るため与党に3分の2の議席を許さないという論法は、かつての社会党とそっくりだ。

改正に前向きな民主党の保守系や維新の党には、岡田氏の選挙戦術を疑問視する向きが多い。広範な野党共闘をどう具体化するか、岡田氏の手腕が問われよう。

与野党は今後、改正項目を絞る作業に取り組む必要がある。

自民党は、緊急事態条項の創設など3項目を優先する方針だ。

国政選の実施が困難な大災害時の国会議員の任期延長や、より効果的な被災者救援・支援を可能にする首相権限の強化に、賛成する国民は少なくあるまい。

与野党は、こうした改正内容の議論を深め、参院選で具体的な案を提示することが求められる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2386/