地方版総合戦略 自治体の創意工夫が試される

読売新聞 2016年01月11日

地方版総合戦略 自治体の創意工夫が試される

安倍内閣が主要課題に掲げる「地方創生」は今年、正念場を迎える。

そのカギを握るのが、昨年末改訂の政府の総合戦略と連動する「地方版総合戦略」である。約1800自治体の戦略が3月末に、ほぼ出そろう見通しだ。

人口減少や東京一極集中にどう歯止めをかけるか。産業・観光振興や、高齢者移住の受け皿整備、過疎地の医療、買い物の拠点づくりなどの具体策を盛り込む。

各自治体は、地域の特色を生かし、民間企業や住民の意見も取り入れて、創意工夫を凝らした戦略を練り上げてもらいたい。

広島県は、岡山、香川、愛媛、兵庫など6県と連携し、「瀬戸内ブランド」を売り出す観光振興事業を始める。今春に、司令塔となる一般社団法人「せとうち観光推進機構」を設立する予定だ。

広域観光周遊ルートを考案するとともに、長期滞在型施設の整備や新たな特産品開発を支援する。7県の外国人宿泊者を2014年度の154万人から20年度に360万人に増やすことを目指す。

島根県浜田市は、一人親世帯に対象を絞り、介護施設での勤務を前提とする移住支援事業に乗り出した。住宅費や子どもの養育費を支援する。自動車販売会社と提携し、中古車も無償提供する。

移住促進と介護人材確保の一石二鳥を狙ったユニークな施策だ。人口増の効果は限定的だが、こうした地道な取り組みを継続的に実施することが大切である。

青森県弘前市と大阪府泉佐野市は、就農支援で連携する。弘前市のリンゴ農家で、関西の都市部の若者に研修してもらい、希望者には就労や移住を促す。都市部と農村部が補完し合うことで、双方の活性化が期待できよう。

政府は、先駆的で実効性がある自治体の事業を選び、交付金で後押しする。昨年11月には、「優良」と判断した709事業に、計236億円を配分した。16年度予算案では、1000億円の地方創生推進交付金を創設した。

新規雇用者数や移住者数などに関する個別の成果目標の設定を求めて、期限までに達成できなければ見直しを促す仕組みだ。

従来みられたバラマキを排するため、交付金を配分する際は、事業内容を精査し、メリハリを付ける必要がある。実績についても、的確な検証が欠かせない。

「政府は口を出さず、金をくれるだけでいい」との安易な発想の自治体が少なくないという。自治体の意識改革も求められる。

産経新聞 2016年01月12日

地方版総合戦略 長期的視野を欠いている

地に足の着いた計画になっているだろうか。

地方創生について、政府が全国の自治体に求めていた長期的な人口ビジョンと、5カ年計画となる「地方版総合戦略」のことである。

すでに公表されたビジョンなどを見ると、多くの自治体は出生率向上や移住者増などを織り込み、人口流出に歯止めがかかったことを前提にしている。

前向きな数字を掲げなければ住民の士気は上がらず、自治体の自己否定につながる、という気持ちは分からないではない。

だが、現実には東京圏への人口流入が続いており、日本全体では人口が大きく減っているため、つじつまが合わない結果に陥る。

総合戦略をみても、地域の特色を生かした対策を盛り込んだ自治体もある一方、観光や地場産業の振興、子育て支援策の強化や企業誘致といった、既存政策ばかり並べたところが少なくない。

子育てしやすい環境を整えたからといって、直ちに出生数が増加するわけではない。若者のUターンや移住が大きな流れになるまでにも時間を要する。

政府は先駆的な取り組みには交付金を出す方針だが、全体の整合性を欠いたままでは結局、バラマキに終わる。本当に実効性が上がるかという検証が欠かせない。

地方ごとに人口ビジョンや総合戦略を策定するのは過去にない試みであり、それ自体の意義は大きい。これを契機に、住民参加の形で地域の魅力を再発見し、強みに磨きをかける取り組みをスタートしてもらいたい。

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