シリア内戦終結を目指す国際社会の努力に水を差す行為と言えよう。
イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアが、シーア派大国イランとの国交を断絶した。バーレーンやスーダンはサウジに追随してイランと断交し、クウェートなども駐イラン大使を召還した。
イエメン内戦も、サウジが支援するスンニ派のハディ政権と、親イランのシーア派武装勢力の代理戦争と化している。イランは、在イエメン大使館がサウジ軍の空爆で被害を受けた、と非難した。
世界有数の産油国であるサウジとイランの確執が深まれば、原油市場や世界経済への影響も懸念される。両国は自制し、沈静化を急がねばならない。
今月下旬には、シリアの停戦と政権移行に向けた和平協議が予定される。アサド政権を支援するイランと、「アサド退陣」を求めるサウジが反目を強め、協議を空転させてはならない。
スンニ派とシーア派の宗派対立の拡大は、中東の一層の混迷につながる。憂慮すべき事態だ。
シリア内戦が長引けば、スンニ派の過激派組織「イスラム国」の掃討が滞り、欧州への難民流出にも歯止めがかからなくなる。
サウジが断交した理由は、テヘランのサウジ大使館がイラン人暴徒に襲撃されたことである。
外国公館の安全確保は国際条約で義務付けられている。侵入を黙認したとも見なされるイランの警備体制には問題があろう。
だが、対立の発端は、王家を批判するデモを主導したとして、著名なシーア派指導者をサウジが処刑したことにある。
イランは指導者の赦免を要求し、米国も人権問題や事態悪化の懸念から処刑に反対していた。それにもかかわらず、死刑を執行したサウジの責任も重い。
サウジのサルマン国王は、王家の伝統的な穏健路線を踏襲せず、紛争への積極的な介入が目立つ。オバマ米大統領が中東戦略の軸足をイランとの関係改善に移し、米・サウジ同盟を軽視しているとの不信感が背景にあるのだろう。
核合意に基づく米欧のイラン制裁解除は、今月にも始まる見込みだ。イランが原油輸出を再開すれば、原油安が一段と進み、サウジの財政悪化が加速するとの危機感も強硬策を後押ししている。
中東の安定維持を担う米国がサウジとイランに限定的な影響力しか持てなくなっている。このまま、仲介の意向を示したロシアの存在感が高まるだけなのか。
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