サウジとイラン 中東安定に向け和解を

朝日新聞 2016年01月06日

サウジとイラン 中東安定に向け和解を

ことしも国際ニュースの幕開けは中東の混迷だった。地域大国のサウジアラビアとイランが対立を深めている。

中東各地で紛争や混乱が続くなか、両国が本来果たすべき責任は重い。とりわけシリアとイラクの情勢打開には、両国の関与と協調が不可欠である。

ここは歩み寄りの道を探るときである。争いが激化すれば、中東和平、テロや難民対策、原油市場など、あらゆる国際問題に深刻な打撃を与える。国際社会は、米国を筆頭に積極的な仲介と調整を急ぐべきだ。

サウジとイランの反目の歴史は長い。サウジはイスラム教の多数派スンニ派の盟主を自認する一方、イランは少数派シーア派を代表する大国である。

今回の発端は、街頭デモを主導した罪でサウジがシーア派指導者を死刑にしたことだ。イラン国内で怒った群衆が、サウジ公館を壊し、放火などをした。サウジは断交を宣言し、バーレーンやスーダンも同調した。

もともとサウジとイランは、地域の覇権をめぐってあつれきを強めてきた。その節目はやはりイラク戦争だった。イラクの政権がスンニ派からシーア派に移って以降、イランの影響力が大きく伸び、サウジの警戒心は増大した。

シリアとイエメンの内戦は、両国の代理戦争の側面があるほか、中東各地でそれぞれが自国に近い勢力に肩入れを続けている。スンニ派とシーア派の宗派対立はいまや、中東を覆う最大リスクの一つとなっている。

今回の対立が、国内で両派が緊張関係にあるイラクやバーレーンなどに波及すれば、中東全体が動揺する。約15%のシーア派人口を抱えるサウジ自身の国内の安定への懸念も拭えない。

そもそも、こうした問題があらわになった背景には、中東での米国の影響力の衰えがある。かねて米国との緊密な関係を誇っていたサウジは、米国が近年イランと対話を進め、核開発をめぐる合意を結んだことで、いっそうの焦りと不満を募らせていた。

そうした経緯からも、米国の責任は重いというべきだ。イランへの警戒心を強めているのはユダヤ国家のイスラエルも同じである。サウジやイスラエルに自制を求め説得するのは、依然米国が率先すべき仕事だ。

ロシアが仲介の意向を示してはいるが、ここは国際社会が一致して対処する態勢を固めるべきだ。米欧とロシアは国連安保理などで協調行動を論議すべきだろう。そうした作業を、日本を含む国際社会も支えたい。

読売新聞 2016年01月08日

サウジVSイラン 断交は中東の混迷深めないか

シリア内戦終結を目指す国際社会の努力に水を差す行為と言えよう。

イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアが、シーア派大国イランとの国交を断絶した。バーレーンやスーダンはサウジに追随してイランと断交し、クウェートなども駐イラン大使を召還した。

イエメン内戦も、サウジが支援するスンニ派のハディ政権と、親イランのシーア派武装勢力の代理戦争と化している。イランは、在イエメン大使館がサウジ軍の空爆で被害を受けた、と非難した。

世界有数の産油国であるサウジとイランの確執が深まれば、原油市場や世界経済への影響も懸念される。両国は自制し、沈静化を急がねばならない。

今月下旬には、シリアの停戦と政権移行に向けた和平協議が予定される。アサド政権を支援するイランと、「アサド退陣」を求めるサウジが反目を強め、協議を空転させてはならない。

スンニ派とシーア派の宗派対立の拡大は、中東の一層の混迷につながる。憂慮すべき事態だ。

シリア内戦が長引けば、スンニ派の過激派組織「イスラム国」の掃討が滞り、欧州への難民流出にも歯止めがかからなくなる。

サウジが断交した理由は、テヘランのサウジ大使館がイラン人暴徒に襲撃されたことである。

外国公館の安全確保は国際条約で義務付けられている。侵入を黙認したとも見なされるイランの警備体制には問題があろう。

だが、対立の発端は、王家を批判するデモを主導したとして、著名なシーア派指導者をサウジが処刑したことにある。

イランは指導者の赦免を要求し、米国も人権問題や事態悪化の懸念から処刑に反対していた。それにもかかわらず、死刑を執行したサウジの責任も重い。

サウジのサルマン国王は、王家の伝統的な穏健路線を踏襲せず、紛争への積極的な介入が目立つ。オバマ米大統領が中東戦略の軸足をイランとの関係改善に移し、米・サウジ同盟を軽視しているとの不信感が背景にあるのだろう。

核合意に基づく米欧のイラン制裁解除は、今月にも始まる見込みだ。イランが原油輸出を再開すれば、原油安が一段と進み、サウジの財政悪化が加速するとの危機感も強硬策を後押ししている。

中東の安定維持を担う米国がサウジとイランに限定的な影響力しか持てなくなっている。このまま、仲介の意向を示したロシアの存在感が高まるだけなのか。

産経新聞 2016年01月09日

サウジとイラン 地域大国の責任自覚せよ

2つの地域大国の対立が、混迷する中東情勢のさらなる悪化を招くことがあってはならない。

イスラム教スンニ派の盟主、サウジアラビアが、シーア派の雄、イランと断交し、懸念が広がっている。

国際社会は過激組織「イスラム国」(IS)掃討に向けて連携を強めようとしている。IS壊滅はサウジとイランにとっても最優先課題のはずであり、両国が果たすべき役割は小さくない。

イエメンでは7日、同国内戦に介入するサウジ軍が首都サヌアのイラン大使館を空爆したと、イラン側が非難した。双方の最大限の自制こそが重要である。

事態の収束へ米露などは仲介の道を探っている。近年、中東での存在感が希薄な米国の責任は大きい。オバマ大統領には断固たる指導力を求めたい。日本も重大に受け止め、役割を果たすべきだ。

発端は、サウジが今月初めに処刑した「テロリスト」ら47人に、国内少数派であるシーア派の高位聖職者が含まれていたことだ。これに怒ったイランの群衆がテヘランのサウジ大使館を襲撃した。

バーレーン、カタールなど湾岸主要国はサウジに同調し断交や大使召還に踏み切り、サウジはアラブ連盟を舞台にスンニ派各国の糾合を狙う。シーア派住民の多いイラク、レバノンには反サウジの抗議デモが広がった。

だが、民衆にまで深い分断の傷を残す過激な宗派的行動原理は国際社会と折り合いがつかない。

処刑された聖職者はサウジ王家を批判し、宗派対立扇動などの罪で死刑判決を受けた。大使館襲撃を許したイラン側の警備の甘さは責められるべきだ。米国は宗派対立激化などへの懸念から処刑に反対していたが、それを無視したサウジへの批判も大きい。

米国とサウジの歴史的な同盟関係がオバマ政権下で弱体化する一方、イランは米欧との核合意で国際社会復帰を目前とし、イラクやシリア情勢への発言力を強めている。サウジは、米国のイラン傾斜に不満を抱いているのだろう。米国は改めてサウジの安全保障に十分な配慮を示す必要がある。

ISはシリア内戦の間隙(かんげき)を突いて伸長した。国連主導の和平会議が今月末に開かれる。アサド政権打倒を唱えるサウジと、支援するイランの対立で協議を決裂させることは許されない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2383/